【短編】なにも、聞かないくせに 壱
あらすじ
山奥の、呪われた電話ボックス。
広まる不穏な噂は人々の恐怖をあおり、幼い人間関係をも巻き込んでいく。
そのうえ、土地に眠る怨霊をも引き寄せ始めたのだった。
真相を解き明かすため現地を調査する笹行千鶴(ささゆきちづる)だったが、やがて自身も逃れられない恐ろしい結末へ囚(とら)われていく――。
一、
その土地には、不思議な噂があった。
「山奥にある電話ボックス?」
「そう。その電話ボックスに、不良が行ってみたらしい」
くすっと笑いながら、紅未が言った。なんだか、嫌な予感がした。
「それで、不良はどうなったの」
「それがね、短く言えば――呪われた」
呪われた? つい、声に出していた。
「そう。家に戻ってきてもガタガタ震えて、おかしくなっちゃったって」
「ふぅん。そんなこと……まあ、あるかもしれないけど」
山奥にある電話ボックス。頭の中でイメージしてみる。
真っ暗な夜の世界に、ぼうっと白い光を放つ四角いブース。
まるで、蛍のように揺れる白い光。どこか無機質な人工の灯りでありながら、じっと見つめていると、何かを語りかけてくるように思えた。
そこでは、今も緊急時のために誰かに連絡されるのを待っている。
「流架ちゃん」
紅未が言う。わたしは現実に意識を戻した。
口元の笑みが奇妙に吊り上がっている。何か悪いことをたくらんでいるときの顔。
瞳の焦点が針のように細くなっていく。
肩に手が置かれた。
「――その電話ボックス、行ってきてよ」
「どう、して」
声が少し震える。
そんな場所には行きたくはない。
誰だってそうだ。不良が、おかしくなったと言ったのは、そっちじゃないか。
紅未が薄く笑っている。
「一人で、行ってきてよ」
わたしは黙ったまま、言いたい言葉を呑みこんだ。
嫌だと言いたい。でも、言い出せない。
「もしかして、『嫌だ』なんて言わないよね? あの写真のこと、バラされたら困るもんね……?」
家庭教師で、大学生の先生。
親は共働きで、学習の悩みを何も話せなかった。
いつしか、その先生に頼りきり、中学生の自分が抱える悩みを話していた。
「ねえ、つき合おう」
「え……」
甘く、囁くような声で彼は言った。
手の甲をなでるように触れられる。
「一緒に、つき合おうよ。俺のこと、好きなんでしょ」
ショックだった。そんなことを思っていたなんて、知らなかった。
だから、わたしも彼の気持ちに応えた。気恥ずかしさが、かなりあった。
「うん……」
先週、初めて二人で待ち合わせしてデートをした。
家から離れたターミナル駅。大きな駅。
友達は誰もいないと思っていたけど、偶然、紅未がそこにいた。
二人でいるところを何枚も写真に撮られていた。
「あたしたち、友達だよね?」
ぐっと、肩にかかる力が強くなる。
うなずくしかなかった。それ以外に、できることなんてない。
友達であっても、紅未の決めたことは絶対だ。
反対する余地なんて、ない。
でも、その場所に一人で行って、そうしたら――。
「……帰って、これ、ないかも、しれないよ……」
その言葉を聞いた瞬間。
紅未は何も言わなかった。
でも、なぜか満足そうに紅未の目が、どんどんと細くなっていった――。
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