【短編】なにも、聞かないくせに 弐
あらすじ
山奥の、呪われた電話ボックス。
広まる不穏な噂は人々の恐怖をあおり、幼い人間関係をも巻き込んでいく。そのうえ、土地に眠る怨霊をも引き寄せ始めたのだった。
真相を解き明かすため現地を調査する笹行千鶴(ささゆきちづる)だったが、やがて自身も逃れられない恐ろしい結末へ囚(とら)われていく――。
物語の始まり
二、
赤い光が点滅するように、真っ暗な夜の世界に光を放っている。
場所は山奥で、近くには古びた電話ボックスが置かれている。
国道が何度も折れ曲がるように斜面のそばに続いている。
そっと、笹行千鶴は車道の奥をのぞいてみた。
救急車の奥に、被害を受けた人が倒れているようだった。
大学の帰りに田舎道を歩いていたら、救急車とパトカーが吸い込まれるように山奥へ向けて、走っていた。
そこに、人家がないのは知っている。
だとすると、何らかの事件が起きた。それしか考えられなかった。
すぐさま、後をつけて走った。
山中へ続く車道の途中に緊急車両が停まり、夜の闇の中で、静かに赤色灯が明滅している。
近くへ寄って眺める。
変な胸騒ぎがした。
見てはいけないのに。ショックを受ける光景を見てしまうかもしれないのに。
一人の男性が倒れ込んでいる。
短髪で、頭の後ろは刈り込むような髪型だった。目つきは険しく、尋常ではなかった。
駆けつけた救助関係者も遠巻きに男性を見ていた。彼は頭を抱え込み、明らかに何かに怯えている。ぶつぶつと、うわごとを呟き続けているようだった。
手に持った大きなバッグを千鶴は握りしめる。
その中には、軽量の折り畳み式の箒とちり取り、軍手と畳んだゴミ袋が入っていた。
バッグは形こそ大きいものの、ほとんど重量はなかった。
このバッグを手にしていたのには理由がある。
――山奥にある神社のため。
ボランティアで、自発的に半年前から清掃を行っていたからだった。
三、
きっかけはネットの口コミサイトだった。
『寂れた清掃の行き届いていない神社でした』
短文とともに、星二つの評価がつけられ、辛辣な一文で締めくくられていた。
気になってユーザーの個人ページへ飛ぶと、商業関係のレビューと同様、神社に対しても辛辣なレビューが書いてあった。
清掃がされていないという点が、ユーザーにはどうも気に入らないようだった。
レビューの中に、近所の神社も含まれており、低い評価がつけられていた。
千鶴には、なぜだか無性にそれが悔しかった。
子どもの頃に数回、お参りしただけの小さな神社。近所の人であれば、ご利益を求めて大きな神社にお参りするのが普通かもしれない。小さな神社は素通りしてしまうかもしれない。
――それでも、『寂れている』と書かれたことが、なんとなく嫌だった。
腹立たしかった。
午後に見た、ネットニュースも千鶴の行動を後押しした。
『神社で医療ゴミが捨てられていた』
記事を目にした瞬間、胸騒ぎがした。
このままだと、あの小さな神社も同じようになってしまうのでは。
本気で、そう思った。
だから、昨日、家から掃除用具を持ち出してきていた。
そういうわけだった。
「ああ、ちょっと。この先へは進まないでくれますか」
山の中ではあるものの、他にも人が集まり、緊急車両が並ぶ先を見ていた。
警官が声をかけ、周囲の人間が先に進まないようにしている。
千鶴は心細い思いを抱えてたたずんでいた。
今日は、この先へは進めない。
帰ろうかとし思う。
すると、ひとり言を続けていた男性が、急に叫び始める。
「やめろ、もうやめろっ!!」
誰も男性と話している人はいないのに、そう叫びながら、頭を何度も左右に振っている。
顔や耳を掻きむしり、明らかに異様だった。そのうち、近くにあった古い電灯の柱に駆け寄って、頭を打ち付ける。救助関係者が必死に止める。それでも、男性は抵抗しているようだった。
千鶴の近くにいた人が微かな悲鳴を上げた。
男性の姿から目を離すことができなかった。
背中に寒気を覚える。
男は耳を押さえていた指を耳へ突っ込もうとしていた。途端に、周囲の人間によって両腕を押さえられる。
体を固定される。動けずにいるのに、男性の大声だけが夜の中に響いた。
「うるせぇ、うるせぇっ、しゃべるんじゃねえ! 話すんじゃねえ!! なんで、オレなんだよ……なんで、オレだけが。一日中、頭の中でうるせえんだよ、虫ケラがあぁぁぁッ!!」
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