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【短編】なにも、聞かないくせに 参

あらすじ

山奥の、呪われた電話ボックス。
広まる不穏な噂は人々の恐怖をあおり、幼い人間関係をも巻き込んでいく。
そのうえ、土地に眠る怨霊をも引き寄せ始めたのだった。
真相を解き明かすため現地を調査する笹行千鶴(ささゆきちづる)だったが、やがて自身も逃れられない恐ろしい結末へ囚(とら)われていく――。

物語の始まり

物語の続き


四、

この辺りは普段であれば人気がなく、静かな場所だった。
車道のガードレールはびが目立ち、街灯も数百メートルおきくらいしか設置されていない。

さっき見た男性の体。
大きな外傷は見当たらなかった。
怪我をして動けないのではない。
目に見えない恐ろしい何かに怯えているように見えた。

まさか、そんなことが……。
喉の奥に、ごくりと唾を飲みこむ。

ちらっと電話ボックスに視線を走らせた。
何もおかしい点はない。緊急時用の四角いブース。

ただ、男性の様子を見るに、何か異様な状況があったのは確かだった。
近くで話し声が聞こえた。子どもと一緒に高齢の女性。
つい先ほどまで、子どもの視界を手で覆っていたようだった。

「……おばあちゃん、あの人、一体どうしたの?」

高齢の女性は不安げに男性の方を見ると、孫の手を反対方向に軽く引っ張った。
表情を見ると、青ざめている。

「わからないわ。でも、もういいでしょう。さぁ、もう帰ろうね。お母さんも家で待っているからね」
「うん……」

二人が車道の先へと行ってしまう。千鶴も、そろそろ家に帰らなくては。そう思った。
人の集まりから抜け出し、車道の端にある、わずかなスペースを足早に歩く。
まるで何かから逃げているようだと千鶴は思った。
それも本当かもしれない。さっき見た光景。倒れた男性の、狂気が混じった光景を今すぐにでも忘れたかった。


「あらぁ、千鶴ちゃん」
背後から声をかけられて驚いた。親戚の叔母である、郷子さとこだった。
「偶然ね。千鶴ちゃんも、さっき、そこにいたの?」

叔母が緊急車両が集まっていた場所を指で示す。千鶴は、こくりとうなずいた。
「はい。郷子さんも?」
「そうなのよ。男の人が叫んでいたでしょう。あの人、今日の午前中に、近くで見たのよ」
「今日の午前中……?」
「ええ。この車道の先にある畑の近くで。あのね、あの男の人、畑のそばで、フラフラフラフラ、ずっと軽く揺れたような足取りで歩いていてね……なんだか関わっちゃいけないような雰囲気があった。それで、声をかけるのをためらったけど、今にして思えば、あの時声をかけて助けていれば良かったのかも……」

郷子は片頬に手を当てて、思い悩む様子を見せた。
「それにね」ちらっと背後をうかがった後、彼女は言った。「伏せられてはいるけど、どうも、さっきの男の人がいた場所から、さらに先。そこに行っては、度々、様子がおかしくなる。別人になって帰ってくるって聞いたことがある」
「それって、どういうことですか……?」
千鶴が尋ねると、郷子が軽く頭を左右に振った。
「あんまり、しつこく尋ねない方がいいわよ。こういう件は。しかも、どうやら連続して続いているらしいから」
「続いているって……」

突然、ハッとした顔つきをして、郷子が黙り込む。
「郷子さん?」
「ああ、ごめんなさいね。こんな話をして。とにかく、今日見たことは忘れた方がいいわよ、千鶴ちゃん」
郷子は千鶴の横を通り抜け、言葉もなく帰って行ってしまった。


【短編】なにも、聞かないくせに 四へ続く


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