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内的エッセイ #12┃ボクの生きる世界(5) 『二人の自分─前編』



 担任の先生から、「作文コンクールに向けて作文を書いてみないか」と、直接声をかけられたのは、ボクが中学三年生の時でした。
 しかし、期待されているのだと意識した瞬間、ボクの頭は真っ白になってしまいました。まるで文章が思い浮かばないのです。
 ようやく出来上がったボクの作文を読んだ先生は、首を傾げて黙り込み、それから「頑張ったね」と優しく言いました。ひどく惨めでした。




 この頃のボクは、大きな成果を挙げられないまま、いくつも表彰を受けていました。どれもこれもパッとしない、そんな表彰ばかりでした。
 器用貧乏でした。何をやってもそこそこできる。けれど、たった一つの分野で突き抜けて、一番になることができませんでした。
 ボクはいつも、滑稽なほど必死に父親を喜ばせようとしていました。認められたかったのです。
 しかし父親は、努力そのものを評価する人ではありませんでした。努力するのは当たり前で、結果を出して初めて努力に意味が生まれると考える人でした。そして、その結果も並大抵では認められない。突出していなくてはならない。
 少なくとも、ボクはそう信じ込んでいたのです。







 そんなボクには、どうしても勝ってみたいと思う存在がいました。
 それは、クラスメイトのある男の子でした。
 彼は圧倒的でした。
 三年間、一度たりとも学年トップの座を誰にも譲ることがなかったのです。
 そんな彼は、一風変わった人でもありました。
 クラスメイトたちが笑う時、彼だけはどこか違う温度で微笑んでいましたし、退屈そうな目の色を隠そうともせず、それでいて真面目な顔で授業を受けていました。
 けれど、そのわずかなズレに周囲の誰も気づきません。そのことが、ボクにはなんだか可笑しくて、観察していると、思わず吹き出しそうになるのでした。
 成績ではどうしても勝ちたい相手でしたが、その一方で、ボクは彼にだけ密かな親しみを感じていました。




 彼は、誰かとつるむことはありませんでした。
 ですが、誰のことも邪険にはしませんでしたし、誰の悪口も言いませんでした。
 だからこそ、彼には人望がありました。
 しかし、その一方で、彼は自分から積極的に意見を述べることはなく、いつも穏やかな大人びた顔で微笑みを浮かべる寡黙な男の子でした。
 その年不相応に超然としている様子と、先生方ですら一目置くほどの成績優秀者だったので、誰もが彼を慕いながら、同時に、無意識に一線を引いていたように思います。
 つまり、一匹狼でした。




 ボクもまた、一匹狼でした。
 けれど彼は、いじめられていたボクとはあらゆる意味で対極にいる人でした。


 ボクの作文が表彰された、その日。
 彼は理科の研究で大臣賞を受賞しました。
 その結果を聞いた父親は、彼とボクを比較し、ボクのことを「何でも器用にこなせるがゆえに、一つの分野で突出できない人間だ」と評しました。


 その夜、ボクの身体は限界を超えました。




 ハンマーで頭を殴りつけられたような衝撃でした。そのまま頭蓋が割れてしまうのではないかと思うほどの突き刺す痛みと、眼球の奥を押し潰されるような鈍い圧迫感に、視界がみるみる狭窄していきました。

 たまらず床に突っ伏すと、
 「そんなところで何やってるの? あなた」
 と、邪険な目でこちらを見た母親が、ボクに声をかけました。
 その声すら頭の中で反響し、痛む頭に鋭く突き刺さりました。
 その痛みに耐えながら、「……頭が痛い……」と、振り絞るように吐き出した言葉は、ほとんど声になっていませんでした。

 次の瞬間、ボクはそのまま床に嘔吐しました。
 痛みのあまり、もう目を開けることすらできませんでした。



 「つばさ!」



 気づけば、親指の爪に強い圧力をかけられ、瞼をこじ開けられていました。
 さらに手首を掴まれたので、ボクは痛みに耐えながら、重たい瞼をなんとか押し上げると、母は腕時計を見つめながら脈をカウントしていました。


 ボクは胸の中に強い怒りを感じながら、されるがままになっていました。
 普段は無関心なくせに、こんな時だけ介入するんだ……。
 生命維持の時だけ……。


 「念の為」


 そう言って首を振ると、彼女は救急車を呼びました。



──続く



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