「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」を読んで──情報と知識、“ノイズ”の効用
情報はインターネット的なもので、知識は読書から得られるようなもの。
この言葉にすればあたり前のような違いを、改めて深く実感させてくれたのが、三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』でした。
最近読んだ中でも、とても印象的な一冊です。とくに心に残ったのは、
情報=「知りたいこと」
知識=「ノイズ+知りたいこと」
という整理。
ここで言う“ノイズ”とは、他者や歴史、社会の文脈といった予定不調和のこと。
たしかに、インターネットは「情報」を最短で取得する装置として進化してきましたが、読書はその“ノイズ”を抱えたまま意味を育てる装置なのだと感じます。
Ⅰ.「本が読めなくなる理由」は、時間ではなく“構造”
本書の冒頭で三宅さんは、「大人になると本が読めなくなるのは“忙しいから”ではない」と語ります。
その背景には、現代社会特有の 「全身全霊で働くことが美徳」 という価値観がある。
明治から令和にかけて、労働と教養の関係がどのように変化してきたかを、
時代ごとのベストセラーの分析を通して解き明かしていく構成が秀逸でした。
たとえば、戦後のサラリーマン文化では「教養=出世のための自己研鑽」でしたが、バブル期を経て 「教養=余暇」 に変わり、現代では「教養=遠いもの」となっている。
つまり、かつて“働くこと”と“読むこと”が隣り合っていた時代が、いつのまにか乖離してしまったのです。
Ⅱ.読書とは、“ノイズ”を受けとめる行為
著者は
「読書には、情報にはない“ノイズ”がある。それが人を豊かにし、想像力を育てる。」という趣旨のことを述べています。
この“ノイズ”とは、他者の思考や異なる時代背景、論理の綻びといったもの。
それをまるごと受け止める行為こそが読書です。
インターネットが与えてくれる“即答”とは正反対にある、「わからないままに付き合う時間」 だと書かれていました。
この指摘には深く頷かされました。
仕事では「効率化」や「即レス」が求められる。
けれど、その裏で失われがちなのが、“意味がすぐにはわからない時間”を持つことの尊さです。
Ⅲ.働きながら読むための「半身の働き方」
終章で著者が提案しているのは、
「全身全霊で働くのをやめ、半身で働く社会へ」という考え方。
仕事一色ではなく、趣味や文化的活動と共存できる働き方です。
そのための実践例として挙げられていたのが、
SNSで自分と趣味の合う読書アカウントをフォローする
iPadを買う
帰宅途中のカフェ読書を習慣にする
書店へ行く
新しいジャンルに手を出す
無理をしない
という6つのヒント。
どれも素敵な提案で、“働く人が本を読む”というテーマを優しく後押ししてくれます。
ただ、長く会社員として働く立場から見ると、やや現場との距離を感じる部分もあります。
たとえば「帰宅途中のカフェ読書」などは、家庭を持つ人には現実的に難しい。
また、日々の業務に追われる中では、“半身”を意識するだけでも簡単ではない。
だからこそ、こうした発想を現実に落とし込むためには、
「時間を増やす」よりも「読み方を変える」工夫が必要だと思います。
それが、私の提案する“6冊同時並行読み”という方法でした。
Ⅳ.私の現実解──6冊同時並行読み
私自身が実践しているのは、拙著『会社員にしかできない最高の働き方』(ワニブックス)でも紹介した6冊同時並行読みという方法です。
6冊を同時に読み進める(1冊は仕事に直結、残りは異ジャンル)
通勤や朝夜の細切れ時間を活用する
家事中はオーディオブックに切り替える
この方法の魅力は、読書を「義務」ではなく「流れ」にすること。
ジャンルを横断して読むことで、脳の柔軟性が高まり、仕事の“情報”が“知識”へと転化していくのを実感します。
著者の「半身で働く」という提案を、より現実的に体現するなら、
こうした“生活に埋め込むスタイル”が有効ではないかと思います。
参考記事:
Ⅴ.会社員こそ、“ノイズ”を味方にする
会社員という立場は、どうしても仕組みやKPIの中に埋もれやすい。
だからこそ、予定不調和のノイズに触れる必要がある。
他者の視点や異質な論理に触れることで、自分の思考が更新される。
それが、読書の最大の効能だと思います。
Ⅵ.結び──“読めない社会”から、“読める生活”へ
この本は、「働く人が読書を手放すのは怠惰ではなく、構造の問題だ」と教えてくれます。
私もまた、情報と知識を行き来しながら働く会社員の一人として、これからも“ノイズ”とともに生きていきたい。
効率だけが正義になりがちな時代だからこそ、
「遠回りのようで、豊かな時間」を取り戻す。
そんな意味で、本書は“働く私たちのための読書論”として、非常に参考になる一冊となりました。
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