【ショートショート】Delivered #毎ショ「未練配達員」
21グラム。人は死ぬと軽くなるらしい。
未練を手放したときは、何グラム軽くなるんだろう。
【未練配達員】というSNSが流行ったのは、もう何年も前のことだ。心に抱えた未練を吐き出す。それは0と1の羅列に変換され、どこかの誰かの元へと届く。
私は役者になりたかった。他の何を犠牲にしてでも、なろうと思った。端役をもらった。母が倒れた。それでも、帰らなかった。母が死んだ。
私は、役者になりたかった。
未練配達員に思いを綴った。喉が枯れるまで吐いたセリフ。舞台監督の言葉。なりたかった未来像。一心不乱に、腹の底を掻き出すように言葉を打ち込み、送った。
吐き出された未練は、ネットワークに消えていった。
不思議と、あれほど渇望した役者への未練も消え、体は軽くなった。
*
「長年ご愛顧頂きました【未練配達員】のサービスは、今月末をもって停止させて頂きます」
届いたメールを見て、懐かしい気持ちがこみ上げる。うろ覚えのログイン情報を打ち込みサイトにアクセスした。
膨大な通知の一番上に、【重要・サプライズ】と書かれた通知が太字で光っている。タップすると、それは過去の自分の未練だった。
いま読むと穴を掘って埋めたくなるような、青くて苦くて、甘酸っぱいような言葉が並んでいる。苦笑いして画面を閉じた。同時にドアがノックされる。
「渡部さん、出番です。お願いしまーす」
「はいはい」
そう言って立ち上がった私の足は、少しだけ増した体の重みで、しっかりと地面をとらえていた。
終
諦めた途端に不思議とうまくいくことって、あったりしますよね。
ちなみに人が死んだときに21g軽くなるというのは、都市伝説レベルの話らしいです。
田原にかさまの毎週ショートショート【未練配達員】に参加させて頂きました。
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