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【ショートショート】失恋の味#毎ショ 信号機ぶどう味

 何回振られたかわからないほど告白した。根負けした彼女との、お試しの初デート。

 昨夜は布団の中で目を閉じても、心臓が別の生き物のように暴れた。

 深呼吸して空を見上げる。

 9月だというのに真夏のように照り付ける太陽。完熟したバナナの濃厚な甘み。

 宇宙が透けそうなくらい青い空。しゅわっとした甘みが舌に広がる。

 ぼくは色を味として感じる。


「晴れてよかった。曇りの海はあまりいい色にならないからね」

「——うん。そうね」天気とは対照的に、彼女の顔は曇っていた。

「どうか、した?」ぼくは前方に注意しながらも、横目で彼女の顔を窺った。

 端的に言うと友達と喧嘩をしたらしい。仲直りしたいが、自分の何が悪かったのかわからないと。

「なるほど」相槌を打ちながら、目の前の信号に目をやる。信号が青から黄色に変わった。

 さっぱりとした甘みのメロンの後に濃厚なウニの味。人によっては苦手かもしれないが、ぼくは好きだ。

「最近、その友達となんの話をしたか覚えてる?」ゆっくりと車を発進させた。

「えー、なんだろ。あ、一緒に料理を作ってたんだよね。私はビーフシチューを三時間煮込んで——」

「うえ、最悪!」ぼくは突然口の中に侵入してきた渋いぶどう味と、その後押し寄せた激烈な辛味に身震いした。

「え?」彼女が目を見開く。

 次の信号機は新型だった。微妙な色の変化は、劇的な味の変化をもたらした。

「今、なんて?」彼女の不機嫌な声。

「いや、その、ううっ、まっず!」えづきが止まらない。

「もういい。止めて」
 
 彼女は車のドアを開けると、振り向きもせずに歩き出した。

「あ、待って」彼女のチョコレート色のスカートが風に揺れた。

 甘みと少しの苦みが口の中に広がって、消えた。


梅干しを見ると口の中に唾液がたまり、ケーキを見ると甘さを舌の上に想像する。なので色を見たら味を感じる人も世の中にはいるのかもしれない。と思い創作しました。
美味しい味ばかりならいいけれど、きっと様々な色が混じって、たいていはひどいことになりそうな予感がしますね。
ところで生ハムメロンは本当に美味しいんでしょうか?

田原にかさまの毎週ショートショート【信号機ぶどう味】に参加させて頂きました。

前回のお題【モバイル北海道】はこちら

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