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終わらない時代 番外編5

『白い癒し』


――深夜のシホロ基地。

(熱い……。)

(顔が熱い……。)

ジュリアは寝苦しさに耐えかね、ゆっくりと目を開けた。

目の前には、白い毛の塊。

モフがジュリアの顔にぴったりと身体を寄せ、気持ちよさそうに眠っていた。

モフは夜になると、決まって誰かのそばで眠りたがる。

今夜はジュリアが選ばれた。

(まったく……。)

ジュリアは起こさないようにモフをそっと持ち上げ、寝床の足元へ移動させた。

「キャウ……」

モフは小さく鳴きながら身じろぎする。

しかし、直ぐにジュリアのもとへ戻り、顔の近くで丸くなった。

(どうして戻ってくるのよ……。)

ジュリアはもう一度動かそうとしたが、すっかり安心して眠る姿を見て、伸ばした手を止める。

(……眠れない。)

そのまま天井を見つめていると、テントの外から足音が近づいてきた。

やがて入口の布が開き、見回りを終えたリンが顔を覗かせる。

「ジュリア、交代の時間だよ。」

「……了解。」

ジュリアは身体を起こした。

装備を整え、リンから銃と携帯用の照明を受け取る。

「異常は?」

「何もなかったよ。」

「そう。」

ジュリアがテントの外へ出ようとした。

「モフ、今度は私と一緒に寝よ?」

「キャウ」

背後から、リンの楽しそうな声が聞こえてきた。

振り返るとリンはモフを持ち上げて笑っている。

(本当に仲が良いわね……。)

ジュリアは小さく息を吐き、静まり返った基地の見回りへ向かった。



――翌朝。

「ほら、起きて!」

ミネルは眠っているリンの肩を軽く揺らす。

「うーん……」

「キャウ……」

リンとモフが同時に目を覚ます。

いつの間にかモフはリンに似て、朝寝坊をするようになっていた。

リンが眠そうに身体を起こすと、モフも小さく伸びをする。

「おはよう、ミネル……。」

「キャウ」

二人は並んで寝床を離れ、テントの外へ出た。

朝のシホロ基地では、すでに隊員たちが慌ただしく動き始めている。

「キャウ! キャウ!」

モフは目を輝かせ、勢いよく駆け出した。

「モフ、おはよう!」

「今日も元気だな!」

「相変わらず可愛いな!」

隊員たちは作業の手を止め、次々とモフの頭や背中を撫でていく。

モフも嬉しそうに尻尾を揺らし、一人ひとりの間を走り回った。

今では、すっかり基地の人気者だ。

娯楽がほとんどないシホロ基地において、モフの存在は数少ない心の拠り所でもあった。

誰かの足元にじゃれつき、疲れた隊員のそばで丸くなり、ときには作業の邪魔をしながら基地中を駆け回る。

そうして一日中、隊員たちへ小さな癒やしを届けている。

それが、モフの「仕事」だ。



――その夜。

「ふぅ……」

見回りを終えたジュリアは次の当番と交代し、ようやく一息ついた。

肩の力を抜きながら女性隊員用の宿舎テントへ向かっていると、暗がりの中から白い影が駆け寄ってくる。

「キャウ!」

「モフ……?」

ジュリアの足元まで来たモフは、嬉しそうに尻尾を揺らした。

「ふふっ……待ってたの?」

ジュリアは小さく笑い、モフを抱き上げる。

そのままテントへ入ると、中は静まり返っていた。

聞こえるのは女性隊員達の穏やかな寝息だけ。

ジュリアは皆を起こさないよう、物音を立てずに装備を外し、自分の寝床へ入った。

「キャウ……」

モフは当然のようにジュリアのそばへ潜り込み、顔にぴったりと身体を寄せて丸くなる。

昨夜とまったく同じだった。

ジュリアはモフを見つめる。

白い毛から伝わる温もりと、規則正しい小さな寝息。

(また顔の近くなのね……。)

一度は足元へ移そうと手を伸ばしたが、すぐに思い直す。

(……まあ、いいか。)

ジュリアはそのまま目を閉じた。

モフの温もりに包まれながら、静かな眠りへ落ちていった。




【生物観察記録】

種族名:シホロオオミミギツネ

学名:Vulpes shihoroensis

かつてシホロ地方に生息していたとされる、小型のキツネ科動物。

大型の耳と白い体毛を持ち、寒冷地と乾燥地の双方に適応していた可能性がある。

既に絶滅したと考えられていたが、今回、生存個体を発見し保護した。

健康状態は良好。

耳の内側および尾の先端に、赤い体毛と発達した血管状の模様を確認。

巨大樹の影響による変異である可能性が高い。

現在までに人的被害は確認されていない。

性格は社交的で、人間に対する警戒心は低い。

食性は雑食。肉、魚、果物など、幅広い食物を摂取する。

今後も継続して観察および研究を行う。

記録者:ミネル


追記:よく作業台で眠るため、研究作業への支障あり。


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