終わらない時代 番外編6
『まずは観察』
――ある朝の研究用テント。
「おはようございます。」
ミネルは、いつものように声をかけた。
「おはよう……。」
調査隊の科学者たちは、作業の手を止めずに返事をする。
ミネルが机へ向かう途中、隣の作業台に置かれた赤く光る芽に気づいた。
「あの芽……地下研究室にあった……。」
エレナは腕を組み、難しい顔で芽を見つめていた。
「詳しく調べたいけど、試薬が足りない。加熱装置も故障中……」
「あの、エレナさん?」
「……ん? ああ、ミネルか。」
どうやらエレナも、集中すると周囲が見えなくなるらしい。
「この芽の抽出液に、エタノールに似た反応が出ているの」
「エタノール?」

「ええ。燃料として使える可能性があるわ。」
エレナは少量の抽出液をビーカーへ移した。
「加熱してみましょう。手伝って。」
設備が使えないため、二人はアルコールランプを用意した。
赤い液体をゆっくりと加熱していく。
ボワッ!
突然、ビーカーから炎が上がった。

「わわっ! エレナさん、火が!」
慌てるミネルとは対照的に、エレナは炎をじっと観察していた。
「予想より発火温度が低い……燃焼も安定してる。」
「観察してないで、早く消しましょう!」
「分かってるわ。」
エレナは用意していた金属製の蓋を被せ、すぐに火を消した。
「びっくりした……。」
胸を撫で下ろすミネル。
エレナは淡々と記録を取る。
「一瞬の変化も重要な情報よ。」
「だからって、あんな近くで見る必要あります?」
「……次からは外でやるわ。」
――夜。
「はぁ……疲れた」
ミネルは肩を落としながら、女性隊員用の宿舎テントへ入った。
「お疲れさま。」
奥から、エレナの声が聞こえる。
「あ、お疲れさ……」
視線を向けたミネルは、そのまま固まった。

「……。」
「……何?」
エレナが不思議そうに首を傾げる。
「あの……エレナさん?」
「何?」
「その格好は……?」
エレナは自分の寝間着へ視線を落とした。
黒を基調とした猫耳付きのフード、モコモコの独特な寝間着。
「これ?」
エレナは平然と答える。
「普段の寝間着だけど?」
「普段の……」
ミネルはしばらく、エレナの姿をじっと見つめた。
普段の白衣姿からは、まったく想像できない。
「この寝間着、よく眠れるのよ。」
「は、はぁ……」
どう反応すればいいのか分からない。
エレナは気にした様子もなく、自分のベッドへ腰掛けた。

ベッドには、通信機と拳銃が置かれている。
「え……?」
ミネルは寝間着と拳銃を交互に見る。
(その格好のまま、緊急時には出るつもりなの……?)
想像してしまい、余計に困惑した。
「どうしたの?」
「い、いえ……何でもありません。」
ミネルはそれ以上聞くのを諦め、自分のベッドへ潜り込んだ。
「エレナさんって、意外と変わってますよね……」
ミネルは布団の中から呟いた。
「そう?」
「研究してる時はすごく真面目なのに、寝間着は猫耳だし……」
「好きなものを着てるだけよ。」
「恥ずかしくないんですか?」
「別に。」
エレナは眼鏡を外し、枕元へ置いた。
「周りにどう見られるかより、自分が落ち着けるかの方が大事だから。」
「……なるほど。」
ミネルは少しだけ納得した。
「でも、その格好で拳銃を持って走るのは見てみたいかも……。」
「寝なさい。」
「はい……。」
ミネルは、エレナという人物を少しだけ理解した気がした。

