終わらない時代 番外編4
『真夏の夢』
夏のある日。
ジュリアたちは休暇を利用し、海へ遊びに来ていた。

目の前には、どこまでも続く青い海。
陽光を反射した水面が、きらきらと輝いている。
「わぁ……綺麗!」
リンは目を輝かせながら、波打ち際へ駆け寄った。
ミネルも、穏やかな笑みを浮かべる。
「海に来るなんて、久しぶりね……」
ジュリアは潮風を浴びながら、懐かしそうに呟いた。
「二人とも、早く遊ぼうよ!」
待ちきれないリンは服を脱ぎ、水着姿になる。
そして、そのまま砂浜を駆け出した。
「ミネル! ジュリア! ほら、早く!」
波打ち際から、大きく手を振るリン。
「はいはい。」
ジュリアも仕方なさそうに答えながら、水着姿になる。
「海で泳ぐのは……大学生の頃以来ね。」
ミネルは昔を思い出しながら、ゆっくりと服を脱ぐ。
三人で海へ入る。

「それっ!」
リンが両手で海水をすくい、勢いよく二人へ浴びせた。
「っ……!」
水を浴びたジュリアは、一瞬だけ目を閉じる。
そして、すぐさま足で海水を蹴り返した。

「わっ!」
大量の海水を全身に浴び、リンが声を上げる。
「やったなー!」
再び水をすくうリン。
それを避けながら、ジュリアも反撃する。
「あはは!」
三人で楽しそうに笑う。
その後、三人は砂浜でビーチバレーを始めた。
「いくよ!」
ジュリアがボールを高くトスする。
「よっ!」
リンが両手で受け、ミネルへ返した。
三人は円を描くように立ち、しばらくボールを落とさないように打ち合う。

「あっ!」
ミネルの腕に当たったボールが、あらぬ方向へ飛んでいった。
「あはは! ミネル、下手ー!」
リンが声を上げて笑う。
「もう……久しぶりなんだから仕方ないでしょ?」
ミネルも恥ずかしそうに笑った。
「キャウ! キャウ!」
楽しそうな声につられ、モフが砂浜を駆けてくる。
飛んでいくボールを追いかけようと、小さな身体で何度も跳びはねていた。
「モフには無理だよ。」

リンはそっとモフの頭を撫でる。
「それじゃあ、次はスイカ割りね!」
ミネルは荷物からスイカと木の棒を取り出す。
最初に挑戦することになったのはジュリア。
目隠しをしたジュリアは棒を構え、慎重に砂浜を進む。
「もっと前!」
「もう少し左!」
リンとミネルが声をかける。
「……。」
二人の指示を頼りに歩き、ジュリアは足を止めた。

(ここね……!)
勢いよく棒を振り下ろす。
しかし――手応えがない。
ジュリアは目隠しを外す。
「……は?」
目の前に、スイカはなかった。
それどころか、かなり離れた場所に置かれている。

「ちょっと! 全然違うじゃない!」
ジュリアが抗議すると、リンとミネルは腹を抱えて笑い転げた。
「あははは!」
「ジュリア、真剣すぎるんだもん!」
「もう……覚えてなさいよ!」
次はミネルの番。
仕返しの機会を得たジュリアは、わざと違う方向を指示する。
「ミネル! 斜め右!」
「もっと後ろ!」
リンまで面白がって加わったため、ミネルは完全に方向を見失ってしまった。
「え……こっち?」
目隠しをしたまま、ふらふらと砂浜を進むミネル。
「あれ?こっちに向かってくる……。」
嫌な予感。
やがて、棒を大きく振り上げた。
その正面には、ジュリアとリンが立っていた。
「ミネル! 待って!」
リンが慌てて叫ぶ。

棒は勢いよく振り下ろされ、ジュリアとリンの間を、すれすれで通り抜けた。
二人は固まったまま、ゆっくりと顔を見合わせる。
「どうしたの?」
何も見えていないミネルが、不思議そうに首を傾げた。
スイカ割りはそこで中止となった。
ジュリア達は気を取り直し、バーベキューの準備を始めた。
砂浜に焼き台と椅子を並べ、炭に火を起こす。
ジュリアが肉を切り、リンが野菜と一緒に串へ刺していく。
ミネルは魚の下ごしらえをしながら、焼き台の様子を確認していた。
先ほどのスイカも、小さく切り分ける。

「モフ、食べる?」
リンが一切れ差し出すと、モフは勢いよく駆け寄ってきた。
「キャウ!」
嬉しそうな声を上げ、スイカにかじりつく。
「美味しい?」
「キャウ! キャウ!」
尻尾を揺らしながら夢中で食べるモフを見て、三人は顔をほころばせた。
やがて、焼き台から香ばしい匂いが漂い始める。
「そろそろ焼けてきたわね!」
ミネルは串を返しながら、焼き加減を確認する。
「美味しそう!」
リンは目を輝かせ、焼き台を覗き込んだ。
「もう食べてもいいんじゃない?」
ジュリアは焼き上がった串焼き肉を一本手に取る。
「私は魚にするね。」
ミネルは焼き魚を皿に載せた。
リンはその中でも、ひときわ大きな肉が刺さった串を選んだ。
「いただきまーす!」

大きく口を開け、勢いよく肉へかじりつく。
「痛いっ!!」
突然、大きな声が響いた。
「え……?」
リンの視界がぼやけていく。
青い海も、白い砂浜も、焼き台から立ち上る煙も、ゆっくりと遠ざかっていった。

やがて目の前に現れたのは、無骨な金属の骨組みと、天井を覆う厚い布だった。
「……あれ?」
潮風ではなく乾いた朝の空気が頬を撫でる。
そして、口元には妙に柔らかい感触。
リンがゆっくりと視線を落とす。
そこにあったのは人間の腕だった。
「え……?」
恐る恐る隣を見る。
涙目になったジュリアが、リンを睨んでいた。
「……。」
どうやら、すべてリンの夢だったらしい。
「……放して。」
低く、怒りに満ちた声が返ってくる。
「ご、ごめん……。」
リンは慌てて、ジュリアの腕から手を離す。

くっきりと歯形が残っている。
ジュリアは噛まれた場所を押さえながら、険しい顔で尋ねた。
「一体、どんな夢を見てたの?」
「えっと……みんなで海に行った夢。」
リンは身体を起こしながら答える。
「綺麗な砂浜で遊んで、ビーチバレーをして、スイカ割りもして……最後にバーベキューをしてたの!」
「それで、私の腕を肉と間違えたの?」
「……うん。」

朝のテントに、何とも言えない気まずい空気が流れる。
「ふふっ……。」
隣の寝床から小さな笑い声が聞こえた。
ミネルが布団から顔を出し、肩を震わせている。
どうやら、ジュリアの悲鳴で目を覚ましたらしい。
「笑い事じゃないよ!」
「ごめんなさい。でも、リンらしいなと思って……。」
「酷いよ、ミネル!」
リンが頬を膨らませると、ミネルはさらに楽しそうに笑った。
「海か……」
やがてミネルは懐かしそうに目を細めた。
「最後に行ったのは、いつだったかしら?」
「大学生の頃じゃなかった?」
ジュリアが答える。
「うん! 卒業前に三人で行ったよね!」
リンは先ほどまでの気まずさを忘れ、楽しそうに身を乗り出した。
「そうだったわね。あの時もリンは食べ物のことばかり考えていた気がする。」
「そんなことないよ!」
ミネルが微笑む。
「はぁ……」
ジュリアは深いため息をつき、寝床から立ち上がった。
「今日も調査任務よ。」
それから、まだ眠そうなリンへ視線を向ける。
「リン、支度して。」
「はーい……。」
ジュリアは噛まれた腕をさすりながら、テントの外へ出ていった。
「いつか皆で海に行こうね……。」
リンはそう願った。

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