【短編 童話】終章『神の意志 ラ・サエッタ』| 落ちこぼれ魔女ターナ
手荒い祝福
年明け、ターナは夢を見た。
悪魔の棲む家と噂される屋敷。
その噂も誰から聞いたのか、
定かではなかった。
屋敷の壁は一面、真紅に染まっている。
その翳りから男が一人、姿を現す。
真紅の壁を背に佇む喪服の男、
不意の落雷が、
高い明かり採りの窓から
男を照らし出す。
ターナに向かって振り向き、
黙って見つめる黄金の瞳。
憎しみでもなく、怒りでもない。
ただ、なにかを訴えるように。
夢から醒めたターナは
全身に汗をかいて、びっしょり濡れていた。
不吉とは思わなかった。
だが、第六感が心のうちになにかを告げる。
なのでシエラに相談した。
シエラはタロットで占う。
出てきたのは
『塔』のカード。

固唾を呑むターナだが
シエラは意外なことに、こう読み解いた。
「『塔』のカードは崩壊を意味する。
でもそれは破壊のみを意味するんじゃないわ。
言ってみれば『気づき』、
或いは既成概念からの『脱却』。
一見すると、
『神の雷』によって崩壊する塔、
失墜する権威の象徴である王冠、
落下する人々。
不幸なこと、この上ないわ。
でもね、
塔が壊れなければ、
中に閉じ込められていた人々は
外の広い世界へ飛び出すことはできない。
『塔』の崩壊は、
真実の自由と再生へ向かうための、
手荒い啓示となる。
『塔』のアルカナを、
イタリアの古いタロット史では
『悪魔の棲む家』と呼ぶところもあるの。
私は、今はこのカードに悪意を感じない。
これは、神の祝福なのかもね」
俄には信じ難い話。
でもタロットを読み解くシエラの占いが
外れることはない。
ターナは帰途につく。
その日の夜。
ベッドに入るターナは、
よし、と気負い込み眠りに就く。
遠くから教会の鐘の音が、
ゴォォン、ゴォォンと鳴り渡る。
厳かな安らぎを予感させる。
そして正面に案の定、例の屋敷。
門扉を開けて現れた喪服の男。
ターナに呼びかけている。
ジッと耳を傾ける。
よく聞けば、
それは男の口上だった。
「よく聞け、ターナよ。
神に愛されしお前を慕い、
これからも『人』に限らず
さまざまな脅威が惹かれよう。
だが総てを受け入れる必要はない。
なかには悪意を秘めし輩もいる。
然し乍ら懸念には及ばず、
神を信じるも、また一興なり。
おのれの意志で其れ等を
否定するなら吾の名を呼べ。
運命は必ずお前の味方となる。
約束しよう」
そこで、目が醒めた。
ふと思い出した、喪服の男。
目覚める寸前、ほんの一瞬だけ切なげに
口元を微かに綻ばせていた。
そして男の背中に見えたのは、
解き放たれた黄金に輝く六翼。
しばらく、
ぼんやりと一点を見つめ
沈黙していたターナは、
ようやく我に返ると
いつしか、こう呟いていた。
「ラ・サエッタ」
それは、神に仕えし雷霆。
ターナを護らんとする、
強き意志。
いざ参らん。
<#16 The Tower>
おわり
Karl Jenkins - Palladio: Ⅰ. Allegretto
次回 番外編 『落ちこぼれ魔女ターナ』の世界
