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【SB】ワイルド・ブラッド:第1章 8 愛の結界


▼前回▼


「ちょ、若木くん、でも……!」
「美紅さん、どこか遠く、あいつの来れない場所に……逃げてください。お母さんも連れて」
「でも……」
「いいから、早く!」
 若木が、美紅と銀次の間に立ち塞がり、美紅を守る盾になっている。
「美紅さんには、指一本触れさせない!」
若木の目は真剣だ。
美紅は、
「わ、わかった!」
逃走を図る。だが!
「ふん」
 銀次は跳躍すると、美紅の前に着地する。
「な⁈」
「雑魚に用はない!」
 若木がまた、不可視の力でぶっ飛ぶ。
「さて、シークレット・ブラッドの血を引きし、娘。脅威となる前に━━
死ね」

 若木は、美紅の悲鳴を聞いた。
「美紅さん⁈」
 起き上がると、美紅が倒れている。
 すぐさま駆け寄ると、
「痛《つう》ぅ‼︎」
 美紅が二の腕を抑え、起き上がる。
「だ、だいじょうぶ! 大丈夫よ!」
 健気に言う美紅。
 だが、若木は見た。美紅の腕から血が流れている。 
 世界が真っ暗に染まる。
(そんな……俺が守るはずが……。
 守るはずの最愛の人にこんな傷を……)

「ふん、遊びは終わりだ」
 銀次が片手をあげる。
「さらばだ」
「美紅さん!」
 絶望だった。
 銀次はあまりに強い。
 世界が終わりそうな恐怖……

「ふわ〜ぁ」
 突然の欠伸だった。
「眠い……」
「えぇっ⁈」
「命拾したな。さらば!」
「えぇぇええ⁉︎」
 銀次はなぜ、去っていった。

 美桜はスーパーにいた。
 最近できた。眩しいばかりのスーパーだ。
 開店セール実施中だ。主婦層には特大嬉しい。
 スーパーの独自の歌が流れていた。
 客も多いし、店も広い。
「あら、美紅」
 そこに、美桜さんがいた。買い物カゴを、腕にぶら下げている。
 カゴの中には戦利品がたくさん詰まっている。
「聞いてよ美紅、今日の特売……!」
「お母さん、探したのよ!
 こっちこそ、聞いてほしいわ!
 銀次とかいう奴が攻めてきて……」
「銀次……」
「とにかく、このままじゃ、殺されるよ、お母さん!」
 美桜が突然、美紅を抱きしめた。
「わかった、美紅。怖かったわね……」
 すると、美紅がいきなり周りも気にせず泣き出した。
「う、うわああんん、お母さん!」
「よしよし」
 美紅の頭を撫でる。
「……帰りましょ」

 泣き疲れたのか、美紅は自室の布団で、寝てしまった。

 若木は、大人だと思っていた美紅が、あんなに泣きじゃくるのが意外だった。
 男の姿では、さすがに寝ている女性の部屋には入れなかったが、美紅の子供のような泣顔と、彼女を守れなかった自責の念が、頭を渦巻いていた。
 若木は、自分の手のひらを見つめ、深く息を吐き出した。
 赤羽家のリビングの窓から差し込む夕陽が、手のひらを朱く染める。
 それを握り締め、決意を固めた。

「ポップくん……」
 美桜は、人知れず、仏壇の奥に手を伸ばす。
「これを使う時が、来たのね……」

 美桜の手の中に、小さい箱━━それがまばゆく光り出す。
 光は、大きく膨らみ、赤羽家を包み込み!
「愛の結界‼︎ 始動‼︎」
 それは、薄いピンク色のハートマークを型取り、不可視の結界へ成熟する。
「ふう、やれ、やれ」
 美桜は額の汗を拭った。
「これで、しばらくはなんとかなるわ」
 少し、ふらつく。
 2階の、主不在の牙の部屋に行く。
 窓ガラスがまだ割れたままだ。
 机の上には、ヴァンパイア・アイズの漫画。
 風がふいに、水色のカーテンを揺らした。
 美桜は、独白した。

「……あんまり、無理しないでね。若木くん」
 その言葉は、誰にも届かずに、静寂へと溶けていった。 


▼次回▼


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