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【SB】ワイルド・ブラッド:第1章 9 『14106』

▼前回▼


(だめだ……)
  若木が巻物を広げんとする。
(戻れなくなる━━)

「だめだ、若木……!」

 自分の声の大きさに驚き、牙は目覚めた。
 病室の、白いベッドに寝かされていた体を起こす。
 寝汗が、パジャマを湿らせている。
「あれ、僕、どうしたんだっけ……」

 牙が退院した。
 普段の貧血少年からは想像つかない早さだった。

 ***

 少しだけ、遡る。
 銀次の襲撃から逃れた、美紅たちは、結界生活を送っていた。
 要するに、引きこもってた。
「どうしよう、美紅、もう卵がないわ!」
 世界の終わりのような声を、美桜が出した。
「だ、だめよ、お母さん。外になんてでたら、またあの薔薇ガキに、狙われるわ」
「そんなこといったって、もう何日もお買い物に行ってないわ。
 それに、パートだってこれ以上休めないわ!」
 自分が結界張っておきながら、めちゃくちゃだ。
「パートで稼いで、牙を大学に行かせないと!」
 泣ける話だった。
「お母さん、じゃ、出前はどう?」
「出前? そんな贅沢、我が家では許されないわ!」
「……」

「お腹、すいた……」
 布団をかけなおす。もう寝てしまえ。
 美紅は、ふと思い出す。
 あまりの修羅場にピッチチェックも忘れていた。
 布団にうつ伏せなって、メタリックピンクのピッチを握る。
「あれ??」
 液晶の淡い光が、美紅の瞳を照らす。
 小さな封筒のアイコンが表示されていた。

『4162044143』

 誰かからメッセージが来ていた。
「誰?」
 シールが貼られたシステム手帳の、アドレス帳を調べると、海山若木の番号だった。

 無機質な数字の羅列を、美紅は脳内のカナ表に当てはめていく。
「タ、ヒ、濁点、タ、ツ……旅立つ?」
 ピッチを握りしめる。
 ━━旅立つ。
「どゆことよ?」
 混乱する美紅の視界に、もう一件のメッセージが飛び込む。

『14106』

 ……愛してる。

 ***

 帰宅がてら、牙は公衆電話を探した。
 緑の電話の受話器を握りしめ、冷たいプッシュボタンを叩く。
 予感がしていた。
 若木が若木でなくなる。
 そんな、不可解な予感。
 若木のポケベルを呼び出し、数字を打ち込んだ。

『724106』
(何してる?)

 ポケベルを見つめた。
 が、しばらくして、牙は、公衆電話から立ち去った。

 ……いくら待っても、返事はこなかった。


▼次回▼


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