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ロジスティクス屋が、経営の言葉を話す日

物流費は、見えにくい。

仕入れに含まれているものもあれば、製造費に溶け込んでいるものもある。在庫の保管コストは、PLの中でひっそりと眠っている。だから経営のアジェンダにならず、物流部門の問題として片付けられてしまう。

ロジスティクスになると、さらに見えにくくなる。

物流が「モノを運ぶ」という物理的な動きを指すのに対して、ロジスティクスはその上に情報の流れが加わる。需要予測、在庫計画、調達リードタイム、サービスレベルの設計。これらはモノが動く前の意思決定であり、目には見えない。でもこの見えない設計の中に、ROICを最も直接的に動かすレバーがある。

この問いを3年間、委員会の仲間たちと掘り続けた。

2026年3月、JILS(公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会)ロジスティクスイノベーション推進特別委員会の第2号冊子「経営×変革」が公開された。3年間の議論の集大成であり、この委員会としての最後の活動でもある。

この冊子に最も気持ちを込めた2つのことと、3年間を共にしたメンバーへの感謝を、書き残しておきたい。

▶JILS「経営×変革」リンク↓

サービスレベルは、誰のために設計されているのか

サービスレベルという言葉を使うと、話がかみ合わないことがある。

相手が悪いわけではない。そもそも「顧客」も「サービス」も、解像度が粗いまま共通言語として使われている言葉だからだ。なんとなく同じものを指しているような気がして、でも実は全員が違うものを想像している。その前提のズレが、サプライチェーンの設計を歪ませていく。

現場でよく起きるのは、「言われたことは絶対」という構造だ。

翌日配送、多頻度小口、細かな付帯作業。それが積み上がっていくのには理由がある。断るより受ける方が、いろんな意味で都合がいい場面が多い。波風が立たない。評価されやすい。そうして積み上がった要求が、時間をかけて「常識」に変わる。誰も疑わなくなる。

おまけにSCM下流方向からの要求に少し「味付け」をしたゴールになることがほとんどである。

でも立ち止まって問い直してみると、「顧客」とは誰のことなのか。目の前の発注担当者なのか、その先の店頭に立つ人なのか、最終的に商品を手にするエンドユーザーなのか。「サービス」とは何を提供することなのか。スピードなのか、正確性なのか、それとも欠品ゼロなのか。

この定義をせずにサービスレベルを語っても、議論は空回りする。事業会社に20年近くいて、そう感じる場面は一度や二度ではなかった。冊子には書けなかったが、ここに書いておきたかったことだ。

最終顧客が本当に価値と感じていることを起点に、サービスの定義を置き直す。そこからサプライチェーン全体を逆算して設計し直したとき、初めてROICの改善と顧客価値の創造が同じ方向を向く。それは攻めの経営判断であり、同時に、ロジスティクスが経営のアジェンダになるための入口でもある。

そして、最終顧客目線でサプライチェーンを再度見たときに、工程におけるほとんどの「サービスレベル」が過剰なサービスレベルになっていることは言うまでもない。

ROICで物流を語る、ということ

「全体最適」「経営視点」「価値創造」。

耳触りの良い言葉は溢れている。

でも「明日から具体的に何をするのか」
という問いになった瞬間、答えが出てこない議論をたくさん見てきた。言葉が先行して、中身が空洞のままになる。

その空洞を埋めるには、物流の実務をROICという経営の共通言語に結びつけるしかない、というのが自分の立場だ。

在庫回転日数が5日短縮されると、年商4,000億円規模のメーカーでは約33億円のキャッシュが解放される。ROICは1pt程度改善する。これはコスト削減の話ではない。投下資本の圧縮という、経営の構造を変える話だ。物流費率を0.1pt改善すれば営業利益が4億円動く、という従来の語り方とは、射程がまるで違う。

さらにCCCをバリューチェーン全体の資金滞留として見ると、その射程はさらに広がる。自社在庫を削るだけでなく、サプライヤーから小売の店頭に至るまでのどこに資金が滞っているかを俯瞰する。そこに手を入れることが、ロジスティクスを経営の武器にするということだ。

以前コーセーの財務データを使ってこの構造を試みたROIC×SCMシリーズも、この委員会での議論が下敷きになっている。

▶ROICとSCM,その関係を紐解く(シリーズ)

冊子の第2章は、田坂さんと一緒に執筆した。P&G出身の自分にとって、花王のSCMをデータと掛け合わせて長年支えてきた田坂さんとの共同作業は、ある種の念願でもあった。同じ消費財の世界を違う会社で生きてきた者同士、3年目でやっとその時間が持てた

愛すべき委員各位へ

第2章を田坂さんと執筆した話を、もう少しだけ続けたい。

田坂さんは花王のロジスティクス部門で、経産省への出向経験もあり、データサイエンティストを束ねてきた人だ。事業会社同士だからこそ通じ合うあるある話は、ここには書けないが、墨田事業所まで足を運んで濃い時間を過ごさせてもらった。P&Gと花王、同じ消費財の世界を違う会社で生きてきた者同士、3年目でやっとその時間が持てた。同世代として、これからも切磋琢磨していきたい。

この委員会が面白かったのは、集まったメンバーが全員違う生き物だったからだ。いい意味で、動物園みたいな委員会だった。それをまとめていたのが、委員長の西成先生だ。

議論が熱を帯びて交差するたびに、先生の一言が場の解像度を上げた。絶妙な間で入ってくる問いや切り替えは、3年間一度も鈍らなかった。東大で渋滞学を研究している方が、なぜこの委員会にこれほど深くコミットしてくださるのかと思うくらい、毎回本気だった。先生なしにこの冊子はなかった。

1年目は委員会が組織チームと人材チームに分かれた。事務局の采配で、武田さん・大野さん・自分の3人が人材チームを担当することになった。

武田さんは、この委員会の最初の戦友だ。3人で議論を重ねながら向き合ったのが、高度人材をどう可視化するかという問いだった。高度人材とは職位ではない。マインドセット、環境、ケーパビリティという3つの要素が揃ってはじめて変革を動かせる人材像だ。それをロールプレイのように多面的な要素を組み合わせながら可視化していく作業は、今思い返しても密度が高かった。その成果が第1号冊子「人材×変革」になった。武田さんは1年目で独立というチャレンジを選んで離脱することになったが、あの時間があったから今がある。

▶JILS「人材×変革」冊子

その1年目から3年間ずっと、いろいろと相談に乗ってもらっている。タイでの経験、幅広い知識、多方面への視点を持っていながら、それを一切ひけらかさない。知性を消せる人間の強さというものを、大野さんといると感じる。ナイスガイという言葉がこれほど似合う人もそういない。

日下さんも1年目からのメンバーだ。攻めるエネルギーが桁違いで、前職時代にインタビューをしていただいてからの縁になる。その後アセンドを創業して事業を成長させてきた姿は、見ているこちらが背筋を正される。

今枝さん(ソフトバンク)も1年目から。港湾ロジスティクスの視点は、陸上輸送に偏りがちな議論に毎回パンチを効かせてくれた。あの切り込みがなければ、冊子の視野はもっと狭くなっていたと思う。

2年目から池田さん、齊藤さん、高柳さん、松田さんが加わり、よりパワーアップした委員会となった。

池田さん(シグマクシス)の戦略コンサルとしての視点は、事業会社側にいる自分には毎回刺激だった。これからいろいろ一緒にやりたいと、本気で思っている。

齊藤さん(ヤマトHD)とのご縁は、この委員会より前に遡る。コロナが始まったばかりで無観客になった第1回高度物流人材シンポジウムの場で、ぜひご一緒したいとお声がけしたのがきっかけだ。そのご縁がこの委員会につながった。物流の現場と経営をつなぐ視点を持つ方と、これからもっと深く議論できる機会をつくりたい。

高柳さんと松田さんには、委員会のご縁もあり、大森先生の学部の講義にも登壇いただいた。委員会の外でも交流が続いているのは、この3年間が単なる仕事の場ではなかったことの証だ。

独断と私見だらけになったが、感謝の気持ちでいっぱいで、これからも委員各位とはぜひ濃い時間を共有した。

問いは続く

自分自身のことを少し書いておきたい。

マクドナルドを離れて以来、ロジスティクスを直接の管掌として扱う仕事はしていない。今は、より広いSCMの領域で組織を作り、戦略を描き、グローバルで戦えるチームをどう育てるかという問いを日々解いている。日本のロジスティクスは、直接の管掌外だ。

それでもこの委員会に3年間居続けたのは、問いが自分のものだったからだ。ロジスティクスが経営の言語で語られる日を、実務家の立場から少しでも近づけたかった。その意味で、この冊子は自分にとっても一つの区切りになった。

これからは、より熱量のあるチームやパートナーと、グローバルで戦っていける場をつくることに向き合っていく。国境を越えて通用するSCMの力を、組織として持てるかどうか。それが今の自分の問いだ。

この冊子で問い続けた「ロジスティクスを経営の言語で語る」という主張に、自分自身がちゃんと応えていけるかどうか。自戒も込めて、ここに書き残しておく。