中小製造業の新規事業開拓⑧|異業種から突然問い合わせが来た。その意味を考えていますか?
長年、自動車部品を作ってきた会社に、突然、食品機械メーカーから問い合わせが来た。
産業機械向けの部品加工をしている会社に、研究機関から相談があった。
工作機械向けの仕事が中心だった会社に、半導体関連企業から見積依頼が来た。
営業活動をしたわけでもない。
その業界向けのホームページを作ったわけでもない。
それなのに、なぜか自社を見つけて問い合わせてきた。
こんなことがあったら、どうしますか。
「珍しい案件が来たな」と思って、見積を出す。
受注できれば対応し、できなければ断る。
通常の営業活動としては、それでよいでしょう。
しかし新規事業という視点では、その問い合わせにはもう一つの情報が含まれています。
なぜ、その会社は自社を見つけたのか。
ここを聞かずに終わらせるのは、少しもったいないかもしれません。
顧客は、あなたの会社を「業種」で見ていないかもしれない
製造業では、自社を業種で説明することがよくあります。
「切削加工会社です」
「板金加工をしています」
「金型メーカーです」
「検査会社です」
「自動車部品が中心です」
もちろん間違いではありません。
ところが、異業種から問い合わせてきた相手は、自社を別の見方で捉えているかもしれません。
例えば、
「難しい形状を少量でも作ってくれる会社」
「短納期で試作できる会社」
「精度要求の厳しい仕事に慣れている会社」
「図面が十分でなくても相談に乗ってくれる会社」
「特殊材料を加工できる会社」
「品質管理がしっかりしている会社」
として見つけたのかもしれません。
つまり、
自社では『加工技術』だと思っていたものを、顧客は別の『問題解決能力』として見ていることがある。
ここが面白いところです。
「なぜ当社だったのですか」と聞いてみる
異業種から問い合わせが来たとき、私は一つ質問してみる価値があると思います。
とても簡単です。
「ところで、なぜ当社にお問い合わせいただいたのですか?」
営業的な質問というより、情報収集です。
すると、
「検索していたら、この加工事例が出てきた」
「取引先から、難しい仕事ならここに聞いてみたらと言われた」
「この材料を加工した実績がある会社が見つからなかった」
「ホームページを見て、少量でも相談できそうだと思った」
といった答えが返ってくるかもしれません。
この答えには、相手から見た自社の価値が含まれています。
自社が強みだと思っているものと一致することもあります。
しかし、ときには、「そこを評価していたのか」と意外に思うことがあります。
自社では当たり前すぎて、強みだと気づかない
長年続けていることほど、自分たちには普通になります。
「図面が不完全でも、話を聞けばだいたい形にできる」
「急ぎの試作品なら、現場で工程を調整して対応する」
「1個でも嫌がらない」
「難しい材料でも、条件を探しながら加工する」
「測定結果がおかしければ、加工工程まで考えて原因を探す」
社内では、「いつもの仕事」かもしれません。
しかし、それをできる会社が少ない市場へ行けば、話は変わります。
そこでは、当たり前ではない。
むしろ、顧客がお金を払う価値になるかもしれません。
異業種からの問い合わせは、
自社の能力が、これまでとは別の市場でも価値を持つ可能性
を外部から教えてくれている場合があります。
例えば「±何ミクロン」が強みとは限らない
精密加工会社なら、「当社は高精度加工が強みです」と考えるかもしれません。
しかし、異業種の顧客が評価しているのは、加工精度そのものではないことがあります。
例えば、
試作品を1個だけ作ってくれる。
相談から納品までが速い。
加工の難しい部分について提案してくれる。
測定まで含めて任せられる。
こうしたことかもしれません。
ここは重要です。
新しい市場を考えるとき、自社が何をできるかだけを見ると、技術仕様になりやすい。
しかし、なぜ異業種の顧客が自社を選んだかを見ると、その技術が生み出している顧客価値が見えてくることがあります。
同じ会社なのに、見る角度が変わるのです。
一件だけなら、偶然かもしれない
もちろん、異業種から問い合わせが1件来ただけで、
「この業界へ進出しよう」
と考えるのは早すぎます。
たまたま検索で見つかっただけかもしれない。
特殊な案件かもしれない。
紹介者との個人的な関係かもしれません。
大切なのは、
一件の問い合わせを事業機会と決めつけることではありません。
その代わり、「面白い情報が入ってきた」と考える。
そして少し調べてみます。
同じ業界には、同じ問題を持つ会社がほかにもあるのか。
現在はどのように解決しているのか。
なぜ既存の取引先では対応できないのか。
自社の何を評価して問い合わせてきたのか。
一件目では、まだ何も分かりません。
しかし、二件、三件と似た問い合わせが続けば、意味が変わってきます。
「業界」ではなく「困りごと」で並べてみる
ここで、少し変わった整理をしてみます。
問い合わせを、「自動車」「航空」「食品」「半導体」のように業界別に見るのを一度やめます。
代わりに、「1個だけ欲しい」「非常に短納期」「既存業者に断られた」「図面がない」「精度保証までしてほしい」「難しい材料」という困りごとで並べてみます。
すると、異なる業界なのに同じ種類の相談が集まることがあります。
自動車関連企業からも、食品機械メーカーからも、研究機関からも、
「1個だけ、短期間で作ってほしい」と言われている。
だとすれば、見えてくる事業機会は、「食品業界へ進出する」ではないかもしれません。
むしろ、業界を問わない超短納期・少量試作サービスなのかもしれません。
この違いは大きいと思います。
新規事業は「新しい業界へ行くこと」とは限らない
新規事業を考えると、「自動車以外へ」「航空宇宙へ」「医療へ」「半導体へ」というように、業界を変える発想になりがちです。
もちろん、それが正しい場合もあります。
しかし、新しい事業機会は、業界ではなく、共通する問題の中に存在する
こともあります。
異業種からの問い合わせが教えてくれるのは、「この業界が有望だ」とは限りません。
むしろ、
「あなたの会社が解決できるこの問題は、いままで考えていた市場より広いのではないか」
という兆候かもしれません。
外から来た人だから見えることがある
Seeing Around Cornersでは、大きな変化が明確になる前の弱いシグナルを見ることを重視します。
第7回では、「最近、同じ相談が増えていないか」を見ました。
今回は、「今まで来なかったところから、なぜ相談が来たのか」です。
どちらにも共通するのは、日常の仕事の中に入ってくる少し変わった情報を捨てないことです。
異業種から突然問い合わせが来た。
そこで受注できるかどうかだけを判断する。
それでも通常業務としては十分です。
しかし、もう一問だけ加えてみる。
「なぜ、この人たちは私たちを必要としたのだろう?」
その答えの中に、自分たちでは気づかなかった強みや、今まで考えていなかった市場、そして新しい事業の芽が隠れているかもしれません。
何を作るかではなく、誰がなぜ自社を必要とし始めたのかを見る。
異業種からの一本の電話は、単なる見積依頼ではないかもしれないのです。
次回:
「過去の失注案件に『次の事業』の兆候を見る」
シリーズの記事一覧
中小製造業の新規事業開拓を「何を作るかではなく、何を確かめるか」という視点から考えています。
参考
Rita Gunther McGrath, Seeing Around Corners: How to Spot Inflection Points in Business Before They Happen, Houghton Mifflin Harcourt, 2019.
大きな変化が誰の目にも明らかになる前に、企業の周辺や顧客接点に現れる弱いシグナルを捉えることの重要性を論じています。
