中小製造業の新規事業開拓㊲|最初の商品は、外注して作ってもよい
新しい製品を考えた。
顧客からも、「それなら欲しい」と言われた。
しかし、自社には必要な設備がない。
そこで、「まず設備を入れないと始められません。」となる。
製造業では自然な発想です。
自分たちの商品なのだから、自分たちで作る。
それが当然に思えます。
しかし、新規事業の最初の目的が、
「この商品は本当に売れるのか」を確かめることだとしたら、少し違う考え方もできます。
最初の商品は、外注して作ってもよいのではないか。
という考え方です。
「自社製品なのに外注?」という違和感
例えば、K社が新しいアルミ製ユニットを考えたとします。
顧客ニーズはありそう。
販売価格は30万円を想定。
しかし製造には、自社にはない5軸加工機が必要です。
新設備を導入するなら2,500万円。
ここで、「事業を始めるなら2,500万円必要」と考える。
しかし、本当に今すぐ必要でしょうか。
まず5個だけ、5軸設備を持つ協力会社に加工してもらう。
自社で組立。自社で検査。顧客へ販売。
これでも、かなりのことが分かります。
本当に顧客は30万円払うのか。
使って満足するのか。
リピートするのか。
仕様変更を求められるのか。
想定数量が出るのか。
つまり、市場側の重要な仮説を、設備購入前に確かめることができます。
外注すると原価が高い。それでも意味がある
ここで、すぐ問題になります。
「外注したら高いですよ。」
その通りです。
例えば自社生産なら、将来15万円で作れる予定。
しかし外注すると、20万円かかる。
30万円で販売すれば、利益はわずかです。
場合によっては、ほとんど利益が出ない。
それでも、初期検証として意味がある場合があります。
なぜなら、その段階の目的は、
最も効率よく儲けることではなく、本当に売れる事業なのかを知ること
だからです。
5個だけ高く作って、顧客が全く買わないと分かった。
それなら、2,500万円を使わずに済みます。
逆に、30万円でも繰り返し売れた。問い合わせも増えた。
そこで初めて、「内製化すれば利益が出る」という話に進めます。
赤字で売ってよい、という話ではない
ただし、ここは注意が必要です。
「検証だから赤字でもよい」と無制限に考える話ではありません。
例えば、外注原価40万円。販売価格30万円。10万円の赤字。
これを100個売る。そんなことを続ければ当然問題です。
重要なのは、
検証のために、どこまでのコストを使うのかを先に決めておくことです。
例えば、最初の5件まで、検証費用50万円まで、この期間だけと決める。
すると、外注による高い原価も、
市場を知るための調査費用として扱えます。
「売れるか」と「どう作るか」を一度分ける
新規事業では、いくつもの不確実性が同時にあります。
顧客が買うか。
価格は受け入れられるか。
技術的に作れるか。
安定して作れるか。
原価は合うか。
量産できるか。
これらを全部一度に解決しようとすると、大きな投資が必要になります。
そこで、一度分けて考えます。
まず、売れるか。
次に、どう作れば利益が出るか。
この順番です。
外注は、この二つを一時的に分離する方法として使えます。
外注先は「仮の工場」になる
例えば自社にはない設備を持つ協力会社がある。
最初の10個だけ、そこへお願いする。
このとき外注先は、単なる仕入先ではありません。
新規事業の初期では、仮の生産能力として使っているとも考えられます。
自社が設備を持つまでの間、
市場を確かめる。
顧客対応を学ぶ。
品質要求を知る。
仕様を修正する。
そのための時間を買っているわけです。
設備を持っていないから、事業を始められない。
ではなく、設備を持つ前に、事業を少しだけ始めてみることができます。
顧客から仕様変更が出るかもしれない
最初の商品を外注で作る大きな利点がもう一つあります。
仕様変更しやすいことです。
例えば最初の5個を販売した。
すると顧客から、
「この穴はいらない。」
「ここを10mm短くしてほしい。」
「材質はアルミでなくてもよい。」
「この精度までは必要ない。」
という声が出た。
もし、すでに専用設備、専用治具、専用自動化ラインまで作っていたら、変更の負担は大きくなります。
しかし外注で少量なら、次のロットから変更しやすい。
新規事業の初期は、商品そのものがまだ動きます。
だから、生産方法も固定しすぎない方が有利なことがあります。
外注で分かるのは市場だけではない
外注すると、製造側についても学べます。
例えば加工会社から、
「この形状だと工具が届きにくい。」
「この公差なら加工費がかなり上がる。」
「この角を変えれば安くなる。」
「この材質なら納期が伸びる。」
といった意見が出ます。
自社では経験のない加工なら、外注先が持っている知識そのものが、技術検証になります。
つまり、外注先から加工ノウハウを学ぶこともできます。
もちろん機密や知的財産には注意が必要ですが、初期設計を見直すうえで非常に価値があります。
ただし、外注できれば何でもよいわけではない
ここからは重要です。
外注すれば、設備投資を先送りできます。
しかし同時に、新しいリスクも生まれます。
品質、納期、価格、供給能力、技術情報、顧客情報、外注先依存です。
例えば、最初の5個は問題なかった。
ところが受注が増えたら、外注先から、
「今月は忙しいので納期3週間です。」と言われた。
これでは、自社が顧客へ約束した納期を守れません。
外注を使うなら、
自社の事業として、どこまで管理できるかも考える必要があります。
品質責任は外注先へ移らない
ここは特に重要です。
外注先が加工した。不良が出た。
だから、「外注先が悪いです。」と顧客へ言えるでしょうか。
通常、自社ブランドで販売しているなら、顧客から見れば、責任を負うのは販売した会社です。
したがって、外注しても、要求仕様、受入検査、工程確認、変更管理、不適合対応、トレーサビリティなど、必要な品質管理は残ります。
むしろ、自社の目が直接届かない工程だからこそ、管理方法が必要になることがあります。
外注は、品質責任まで外へ出すことではありません。
顧客との契約も確認する
業種によっては、簡単に外注できない場合もあります。
顧客から、再委託禁止、外注先事前承認、指定工程、認定業者使用、機密管理などを求められることがあります。
航空宇宙、医療、自動車、防衛などでは、特に注意が必要でしょう。
したがって、作れる会社が見つかったから外注するだけでは足りません。
顧客要求、契約条件、法規制、品質要求まで確認する必要があります。
「外注で売れたから、このままでよい」とも限らない
例えば最初の20個を外注した。
売れた。利益も出た。
それなら、ずっと外注でもよいでしょうか。
それも一つの選択肢です。
しかし、受注量が増える。
外注費が大きくなる。
納期を自社で制御したい。
加工技術が競争力の中心になる。
機密性が重要になる。
という状況になれば、内製化した方がよいかもしれません。
つまり、外注か内製かは、最初に永久に決める必要はないのです。
初期は外注。
数量が増えたら内製。
一部だけ内製。
繁忙時だけ外注。
さまざまな形があります。
内製化するタイミングも「条件」で考える
例えば、月20個までは外注。
月30個を超えたら、自社設備の方が安くなる。
年間売上3,000万円を超えたら、設備投資を検討する。
というように、内製化条件を先に考えておく方法があります。
すると、「そろそろ買った方がいい気がする」ではなく、
実際の需要に応じて判断できます。
設備投資が、希望ではなく、需要の結果になります。
外注先を1社だけに依存してよいか
初期検証では、1社だけでも十分かもしれません。
しかし事業が成長すれば、供給リスクが問題になります。
外注先の設備故障。繁忙。人手不足。廃業。価格改定。
こうしたことがあります。
だから、事業として続ける段階では、第二供給源、代替工程、安全在庫、内製バックアップなどを検討する必要があります。
これも、最初から完璧に準備するのではなく、
事業が成長するにつれて必要な管理を増やすという考え方でよいでしょう。
外注だからこそ「本当の原価」が見えることもある
面白い点があります。
自社製造だと、設備費、人件費、間接費をどう配賦するかによって、原価が分かりにくくなる場合があります。
しかし外注すると、1個18万円と明確な価格が出ます。
すると、
30万円で顧客が買う。
外注費18万円。物流2万円。検査2万円。その他1万円。粗利9万円。
というように、事業構造が見えやすくなることがあります。
もちろん内製化すれば原価構造は変わります。
しかし初期には、非常に分かりやすい経済性の基準になります。
外注費が高いことで、逆に重要なことが分かる
例えば、自社なら原価15万円になる予定。
外注では22万円。
それでも顧客が30万円で買う。
この事実は強い情報です。
顧客が払う価格には、ある程度余裕がある。
一方、外注22万円では採算が厳しい。
なら、次に考えるべきことは、原価を下げる方法です。
設備購入、設計変更、材料変更、治具、数量効果、別の外注先などです。
つまり、市場リスクが少し減った後で、製造コストリスクに集中できます。
「自社で作ること」が顧客価値なら話は別
もちろん、外注が向かない事業もあります。
例えば顧客が、「御社独自の加工技術」を買っている。
その技術そのものが競争力。
外へ出したら模倣リスクが高い。
品質上も自社工程でなければ成立しない。
そういう場合は、最初から内製が重要です。
だから、「外注すべき」ではありません。
重要なのは、
自社で作ること自体が顧客価値なのか。それとも、顧客は最終的な価値を買っているのかを分けて考えることです。
顧客は「どの機械で作ったか」を買っているのか
例えば顧客が欲しいのは、
5日後に届く試作品。
必要精度を満たした部品。
問題を解決する装置であって、必ずしも、
「御社所有の○○メーカー製5軸機で加工されたこと」ではありません。
なら、最初は外注でも、顧客価値は提供できる可能性があります。
もちろん要求上問題がなければ、です。
この視点を持つと、設備を所有することと、事業を始めることを切り離せます。
最初の目的は「最適生産」ではない
新規事業を始めると、つい、最適な設備、最適な工程、最適な工場を作りたくなります。
しかし顧客が10人いるかどうかも分からない段階で、最適工場を作る必要があるでしょうか。
まず必要なのは、売れる商品を見つけること、そして、
どの品質・価格・納期なら顧客が買うかを知ること。
生産最適化は、そのあとでもできます。
外注は、その順番を守るための一つの方法です。
「作らない」という選択肢が、製造業にもある
製造業という言葉には、「自分で作る」という強いイメージがあります。
しかし事業の初期では、一時的に、自分で作らない選択肢もあります。
外注で5個作る。顧客へ販売する。評価を聞く。
次に10個。リピートを確認する。
その間に、どんな設備が本当に必要なのかも見えてくる。
ここまで分かってから、内製化を考える。
これも十分、製造業の新規事業です。
外注は、自社で作れないから仕方なく使うものだけではありません。
新規事業では、
大きな投資をする前に、市場と製造条件を確かめるための手段
にもなります。
ただし、品質責任、契約、供給能力、機密、採算は自社で確認する。
その上で、最初は外注。必要になったら内製。
という順番も選べます。
何を作るかではなく、今の段階で本当に自社設備が必要なのか。
設備を持つことと、顧客へ価値を届けることを、一度分けて考えてみる。
新規事業では、それだけで選択肢がかなり増えます。
次回:
第38回「新規事業の採算を壊す『品質保証コスト』を忘れていないか」
材料費も計算した。加工費も計算した。外注費も入れた。
それでも、まだ抜けているコストがあるかもしれません。
次回は、製造業の新規事業で見落とされやすい、検査・記録・証明・不適合対応などの品質保証コストを取り上げます。
シリーズの記事一覧
中小製造業の新規事業開拓を「何を作るかではなく、何を確かめるか」という視点から考えています。
参考
Rita Gunther McGrath & Ian C. MacMillan, “Discovery-Driven Planning,” Harvard Business Review, July–August 1995.
不確実性の高い事業では、大きな資源投入を行う前に重要な仮説を段階的に検証するという考え方を提示しています。
Eric Ries, The Lean Startup.
完成した仕組みを先に構築するのではなく、最小限の方法で顧客価値や事業仮説を検証し、その学習結果に応じて次の投資へ進む考え方を示しています。
