風まかせ文芸部|ふわっとことばあそび【夏の終着点】短編小説〜夏の終着点〜
こちらの企画に参加させていただきます。よろしくお願いします
*タイトル画像はGeminiにて作成しました。
短編小説
〜夏の終着点〜
7月15日、突然の雨、慌てて走り込んだ花屋の軒先で、向日葵を両手で抱え、長い髪を後ろで結んだ君に出会った。
ネイビーに白の水玉模様のワンピースに、花屋のグレーのエプロン姿で空を見上げて、それからびしょ濡れの僕をみて、少し笑った。
雨雲は気まぐれで、すぐに何処かへ居なくなった。代わりにアブラゼミが夏の訪れを知らせていた。
7月29日、ジリジリと真上から太陽がアスファルトを焦がす図書館の前で、自分用のカラテアの鉢をかかえた君に偶然再会した。
髪をばっさりとショートボブにして、ジーンズに真白のポロシャツ姿が眩しくて僕は真っ直ぐに君を見ることができなかった。
君はポートランドの高校生、名前はエリカ。夏休みで花屋を営むおばあちゃんの家に来ていると言った。
図書館で僕は君に日本語を、君は僕に英語を教えた。
8月8日、待ち合わせの駅にやって来た君は、白地にピンクと水色の朝顔の柄の浴衣を着ていた。足元はサンダルで、アンバランスさが可愛かった。
ヒグラシが鳴く堤防の人混みの中で、はぐれないように、僕の右手は君の左手を掴んだ。
別れ際、路地の片隅で琥珀色の街灯に揺られながら、二人の影は一つになって、君の体温と僕の体温がそっと混ざり合った。
うつむいたままの君の髪は微かに花火の匂いがした。
8月22日、この日君は十八歳になった。二人は近くのイタリアンレストランで食事をした。
僕の精一杯のプレゼントは、君の好きな日本の漫画本3冊とジブリのCD。君は大きな瞳を輝かせて喜んだ。
お祝いにノンアルコールのシャンパンで乾杯をした。君は楽しそうによくお喋りをして、ドルチェまでしっかり食べて、ため息をついた。
二人は声をだして笑った。
帰り道、君は少し背伸びして履いたパンプスが痛いと言った。僕はレンタサイクルを借りて、君を後ろに乗せて家まで走った。
大きな満月と秋の虫が夏の終わりを僕らにそっと囁いていた。
9月1日、僕は君を空港まで送った。
君は薄いデニムのワンピースにきなりのコットンのカーディガンを羽織っていた。
歩きながら、はやく美しいポートランドに帰って、お父さん、お母さんに素敵な夏休みと素敵なボーイフレンドの話しがしたいと言った。
君はその後も夏休みの思い出を饒舌に話したが、途中からは無口になった。
大きなスーツケースは、タイヤの油が切れていて、君の代わりに「帰りたくない」と泣いていた。
出国ゲートの前で、君は僕の目を真っ直ぐ見て、
「ありがとう、また会ってくれる?」
とそう言った。
「もちろん」
僕はそう言って、この夏の終着点を少し先に伸ばすことにした。
了
iさん、ピックアップしていただきありがとうございます😊
