見出し画像

新規事業で「営業を最後」にすると、うまくいかない理由

多くの新規事業では、営業が「最後の工程」になりがちです。

まず商品やサービスをつくる。
社内で議論を重ねる。
実証実験を行う。
価格を決める。
資料をつくる。

そして、ある程度すべてが整ってから、
「そろそろ営業を始めよう」
となる。

一見すると、とても自然な進め方です。

売るものができていないのに営業するのは早い。
まずは良い商品をつくらなければならない。

そう考えるのもよく分かります。

しかし、私自身が新規事業を立ち上げ、営業責任者として市場をつくってきた経験や、現在さまざまな企業の新規事業を支援する中で感じるのは、むしろ逆です。

新規事業ほど、営業を最後にしてはいけない。

なぜなら新規事業における営業は、完成した商品を販売するためだけの活動ではないからです。

社外の人に対して価値を提案する行為そのものが、
「誰が、何に困っていて、何ならお金を払うのか」
を確かめるための事業開発だと私は思います。


「良い商品をつくれば売れる」という順番の危うさ

既存事業であれば、
商品を開発する→営業部門に渡す→営業が販売する
という分業は成立します。

既に市場があり、顧客がいて、競合もいて、ある程度「何が求められているか」が分かっているからです。

しかし新規事業は違います。
そもそも、

誰が本当の顧客なのか。
・どの課題が一番強いのか。
・誰が意思決定するのか。
・企業ならどの部署の予算から支払われるのか。
・いくらなら買うのか。
・導入するには何が障壁になるのか。

こうした多くのことが分かっていません。

つまり、新規事業では商品だけではなく、
「売れる構造そのもの」が未完成です。

にもかかわらず、商品開発だけを先に進めてしまう。
すると、完成した頃になって初めて市場に出て、
「思ったより反応がない、、」
「興味は持ってもらえるが買ってもらえない、、」
「現場は欲しいと言うが決裁が通らない、、」
「価格が合わない、、」
といった問題が発覚します。

ここから商品や事業モデルを直そうとすると、非常に大きな手戻りになります。


営業現場では、会議室では見えなかったことが一気に見える


営業活動を始めると、顧客から非常に具体的な反応が返ってきます。

「それなら、こちらの機能の方が欲しい」
「その課題より、実はこっちに困っている」
「現場は使いたいけれど、この価格では稟議が通らない」
「そのサービスなら、この部署ではなく別の部署が担当だと思う」
「単体では買えないけれど、既存サービスと組み合わせれば検討できる」

こうした情報は、社内で何時間議論してもなかなか出てきません。

もちろん市場調査やヒアリングも重要です。
ただし、

「こんなサービスがあったらどう思いますか?」と聞くのと、
「このサービスをこの価格で導入しませんか?」と聞くのでは、
得られる情報の質がまったく違います。

人は「欲しいです」と言うことは簡単です。

しかし実際に購入するとなれば、
予算、優先順位、企業であれば決裁者、導入時期、社内調整など、
現実の条件が一気に出てきます。

ここで初めて、
「興味がある」と「お金を払う」の間に何があるのか
が見えてきます。

だから私は、プロダクトをつくり込む前の段階ほど、そして創業者や事業責任者ほど、
自ら多くの顧客候補に会い、営業活動を行うべきだと考えています。


新規事業の営業は「売る」より「学ぶ」

新規事業の初期段階では、当然ながら簡単には売れません。
むしろ売れないことの方が多い。

しかし、この「売れない」には大量の情報があります。

・なぜ買わなかったのか。
・何が足りなかったのか。
・誰に提案すべきだったのか。
・どんな言葉なら伝わるのか。
・競合は何なのか。
・顧客は何と比較しているのか。
・本当の課題はどこにあるのか。

この情報を一件ずつ集めながら、
商品を変える。提案を変える。
ターゲットを変える。価格を変える。販売方法を変える。

このサイクルを回すことで、少しずつ
「売れる形」
が見えてきます。

つまり初期の営業活動は、
売上をつくる活動であると同時に、
「事業モデルをつくる活動」
でもあるのです。


営業部門に渡せば売れる、はもっと危険

もう一つ、新規事業でよく起きるのが、
「商品ができたので営業部門に売ってもらおう!」
という進め方です。

これも簡単ではありません。
既存事業の営業担当者には、すでに売らなければならない商品があります。売上目標もあります。顧客との関係もあります。

そこに突然、
「まだ売り方も定まっていない新商品を売ってください」
と言われても、優先順位が上がらないのは当然です。

しかもその段階では、
・誰に売るか
・何を伝えるか
・どんな課題から入るか
・どんな反論が来るか
さえ固まっていないことが多いです。

これは営業力の問題ではありません。


まだ営業できる状態まで事業が設計されていない

ということです。

だからこそ、新規事業チーム自身、そのチームのトップ自身が「最初の顧客」に会いに行く必要があります。

そこで試行錯誤しながら、
ターゲット / 提案ストーリー / 価格 / 導入プロセス / 成功パターン
をつくっていく。

営業部門へ渡すのは、その後です。
営業部門には、ゼロから正解を探してもらうのではなく、
ある程度再現可能になった「売れる型」を渡す。

その方が、組織としての営業展開も圧倒的に進めやすくなります。


営業は「最後の工程」ではなく「最初から回すもの」

私は、新規事業において
開発→営業
という一直線の進め方ではなく、

営業→顧客反応→開発修正→再び営業
という循環を、できるだけ早い段階からつくることが重要だと考えています。

商品が完成していなくてもいい。
プロトタイプでもいい。
場合によっては資料一枚でもいい。

顧客に会い、
「この価値に本当にお金を払う人がいるのか」
を確かめる。

そして、その反応を商品や事業モデルに戻していく。
新規事業における営業は、最後の販売工程ではありません。

市場と一緒に事業をつくるための活動です。

だからこそ、
「商品が完成したら営業を始める」
ではなく、

「営業しながら商品と事業を完成させる」
くらいの順番でちょうどいい。

売れないことを恐れて営業を遅らせるよりも、
早く市場に出て、早く断られ、早く修正する。

その積み重ねの先に、
ようやく「売れる事業」ができていくのだと思います。


関連記事
なぜ大企業の新規事業は進まなくなるのか
――「それぞれの正解」を、目指す未来につなぎ直す
大企業の新規事業が、アイデアや技術そのものではなく、組織の中にある「それぞれの正解」によって前に進まなくなる構造について書いています。
第2弾:なぜ大企業の新規事業は進まなくなるのか

なぜ今、ヘルスケアにブランディングが必要なのか
優れた技術やエビデンスがあっても、なぜ価値が伝わらず、事業として広がらないのか。ヘルスケアにおけるブランディングを、単なる表現ではなく「事業を前に進めるための共通言語」という視点から整理しています。
第1弾:なぜ今、ヘルスケアにブランディングが必要なのか


WEALTHY CONNECTについて
WEALTHY CONNECTでは、新規事業の立ち上げから市場開拓、営業戦略・アライアンス構築など、事業を「構想」で終わらせず、実際に市場へ届けるところまで支援しています。
私たちが目指していることや、これまでの取り組みについてはこちらをご覧ください。
WEALTHY CONNECT

いいなと思ったら応援しよう!