「夜店から」③ラスト タダシさんの場合
夜店から苦情が届く。
無線が騒ぎ出す。
どうやら別の祭りが始まった。
◆ ◆ ◆
「タダシさん、すまないけど」
声をかけられ振り返る。
娘は私と妻の手をぎゅっと握っていた。
「絶対?俺じゃないと無理?」
相手は目を瞑り、手を拝むように頭を下げた。
深いため息をつく。
「パパ、お仕事?」
見下ろすと残念そうな娘がいた。
頭を撫でて笑みを浮かべた。
「あなた、私達は大丈夫だから」
背中を押されるように言われる。
「すぐ戻ってくるから」
そう言って騒ぎの中心へ向かった。
このところ家族全員で一緒に
いる時間は少なかった。
実行委員会のメンバーとして
遅くまで作業に追われていた。
祭りは順調に進んでいた。
これなら大丈夫だろうと
久しぶりに家族サービスでもと
まわっていた矢先だった。
ストレスも溜まっていた。
我慢強い性格だが
この時ばかりは
怒りが頂点に達していた。
向かった先には大勢集まっている。
その先に中心人物と思われる
男の姿があった。
「ちょっとあんた!何やってんの!」
溜まっていた怒りをぶつける。
胸ぐらを掴むと男は目も合わせようとしない。
(なんて野郎だ!これが迷惑系ってやつか!)
「どういうつもりだ!」
「おい、こっち見ろ!」
男はそれでも目も合わさない。
さらに怒りが込み上げる。
「上等じゃねえか。」
「無視するつもりか!」
「絶対許さねぇからな。」
と、その時だった。
「あったー!」
横を見ると満面の笑みの女の子
よく見ると他の子供達もいる。
我に帰り、胸ぐらを掴んでいた手を離した。
さっきまで黙っていた男が
急に息を吹き返したように
喋り出した。
一通り説明を聞く。
なんでそうなるのか理解できなかった。
「分かった分かった。許可なく商売はダメだよ!賞金のゲームなんて開いてまったく。一万円も無しだからね!」
子供の残念そうな声が
一斉に響いた。
それを見て
男が違う提案を持ちかける。
「まぁ、それなら」
ひとまず騒ぎは収まり
家族のもとへ戻っていく。
「あら、早かったのね?」
笑顔で妻が迎える。
「パパどこ行ってたのー?」
口を尖らせた娘がいる。
「悪い悪い。」
「勝手に違う祭りが始まってたから」
娘の頭を撫でる。
「じゃあ、連れてって」
「あのね」
指を差す。
「あの夜店から!」
終
●シロクマ文芸部 お題「夜店から」参加作品
