S203|東京一極集中を疑う ― 地方工場勤務の価値を考える
奨学金の返済が重い。若者が苦しい。
そう言われる。
たしかに重い。借りれば「10数年」という時間が、毎月の生活費に食い込む。日本学生支援機構(JASSO)の返還例でも、国公立の自宅通学で総額200万円台、私立の自宅外だと300万円前後で、返還期間は14〜18年といった設計になっている。
ただ、私は順番を変えて考えたい。
「返済を軽くする」以前に、なぜそこまでして一本道に集まるのか。
なぜ、借金を背負ってまで
大学 → 東京 → スーツ → 満員電車 → ホワイトカラーの仕事
この型に寄せるのか。
1.東京という“成功物語”
日本では長らく、東京=成功、本社=上、工場=下、という無言の序列があった。
だから大学へ進み、東京へ集まり、肩書きを取りにいく。物語としては分かりやすい。
しかし現実は、生活の中身で決まる。
家賃、通勤、部屋の狭さ、疲労の蓄積。これが「成功」の内訳になっていることも少なくない。
2.家賃は、人生の体力を削る
東京23区のシングル向き賃料は、掲載ベースで約11.9万円という水準が出ている。
一方、地方都市なら、1Kが4万円台〜という相場も普通にある(例:宇都宮市の1K平均4.73万円)。
家賃だけで毎月数万円ズレる。年に直せば、生活の余白がまるごと変わる。
この差は嗜好品ではない。
生活体力であり、貯蓄であり、未来の選択肢そのものだ。
3.通勤は、見えない課金
通勤は「時間」ではなく「体力」を削る。
社会生活基本調査の集計でも、非テレワーカーの「通勤・通学」が1時間07分という数字が出ている(平日の生活時間の一部として、これだけ“移動”に吸われる)。
この1時間が、毎日、何年も積み上がる。
睡眠、運動、家族、回復。全部の取り分が減る。
4.地方工場という現実的選択
上場企業の地方工場勤務、という選択肢がある。
給与は全国水準、物価は地方水準。車通勤で生活が回る。部屋が広い。息ができる。
もちろん、良い話だけではない。
交代勤務、残業の波、配属ガチャ、昇進の天井。車の維持費。娯楽の少なさ。人間関係の濃さ。
ただ、最初に見るべきはそこではない。
まずは、生活が持つか。続くか。
仕事は、長距離走だ。
5.奨学金問題の前に
奨学金が重いのは事実だ。だが、奨学金は「症状」でもある。
進路が単線化し、「全員が大学へ」という空気が強いほど、借金は増える。
職業高校から就職し、18歳から収入を得て、25歳で実務の中核に立ち、地元に家を持つ。
こういう人生も、本来は“王道”として成立していい。
結語
東京で働くことを否定するのではない。
ただ、唯一の正解ではない。
スーツか、作業着か。
肩書きか、生活か。
空気に流されて選ぶと、あとで“総量”で苦しくなる。
空気を疑って選べば、同じ年収でも息ができる。
その選択を、自分で決められる社会であるべきだ。
