S202|退職代行という「倫理破綻ビジネス」――マッチポンプは、なぜ正義の顔をするのか
退職代行という商売に、私はずっと違和感しかなかった。
違法かどうか以前に、どうにも筋が悪い。退職とは、本来きわめて単純な行為だ。
意思を示せば終わる。行かなければならない義務も、引き止めに応じる義務もない。書面で出せばそれで足りる。
不安なら内容証明郵便にすればいい。
貸与品は宅配で返せば済む。
それだけの話だ。
それでも「退職代行」が市場として成立しているのは、
ブラック企業が存在するからでも、若者が弱いからでもない。
不安が商品化されているからだ。
構造は、消費者金融と債務整理ビジネスに酷似している。
追い込まれる状況を放置する
恐怖と無知を温存する
「自分では無理だ」と思わせる
そこに“専門サービス”が現れる
問題の根は何も解決されない。
ただ、金の流れだけが循環する。
退職代行も同じだ。
ブラック企業を是正しない。
退職の法的事実も教えない。
警察や労基署という公的手段も前面に出さない。
代わりにこう言う。
「あなたは何もしなくていい」
「代わりに全部やります」
これは救済ではない。
主体性の切り売りだ。
本当に倫理的な支援とは何か。
それは、最低限の知識を渡すことだ。
退職は意思表示だけで成立する
出社義務はない
自宅訪問は不法行為になり得る
越えられたら警察を呼べばいい
ここまで伝えれば、多くの人は自分で線を引ける。
だが、それでは商売にならない。
だから恐怖を膨らませる。
「交渉」「対峙」「トラブル回避」という言葉を並べる。
そして最後に「専門家」を名乗る。
今回、弁護士法違反が問題になった。
だが本質はそこではない。
境界を越えなければ成立しない商売だった
という点にこそ、問題がある。
退職代行が必要な社会は、確かに病んでいる。
しかし、その病を恒常的な市場として利用することは、
別の病を作る。
私は、退職代行を「悪」と断じたいわけではない。
だが少なくとも、
正義の顔をした健全な商売ではない。
それだけは、はっきりしている。
