#71🎬️『役者になったスパイ』|自分のまわりの狭い世界だけでは『なりたい自分』は見つからない
『従うべきは任務なのか、心なのか──。』
フライヤーにそう書いてあった。
1989年、冷戦下のスイス。
一人の警察官に託された任務は、ある劇団の監視だった──。
自分の心
この物語は、外の世界を知らなければ、自由も主体性も定義できないことを突き付けていた。
「自分に正直に」と言ったところで、そもそも『自分』を自分で理解していないかもしれないということだろう。
芸術は強く美しくたたかう
舞台は冷戦下のスイス。
とても象徴的だったシーンがある。
俳優が軍人たちに勢いよく言い放つ勇気ある2つのメッセージ。
「『片道切符でモスクワに行け!』と言ってやれ。」
これは、当時のスイス人にとって現実離れした、あまりに時代遅れの脅し文句。もはや”体制への反逆を意味する刃”を持たない、おもちゃのナイフに過ぎない。
「切符も勿体ない、集めてヤレ!」
これは、東ドイツ的な形式的権威の論理など、スイスの機能的防衛軍には実行できまい。
こんな風に、崩壊目前の体制からの脅しに『毒を塗って投げ返す言葉』が強烈な皮肉を含んでいた。
芸術は強く、血を流さずとも力を持つ。
高貴で美しいもの。
原題の『Moskau Einfach!』の意味はニュアンスまで理解はできないが、英題は『One-way to Moscow』。
邦題の、キャッチーな『役者になったスパイ』だけでは、その皮肉が理解できなかったかもしれない。
断罪しないという希望
正体がバレてしまっても、劇団員が断罪しなかったのは、
ベルリンの壁が崩壊した時代背景と、
国民の15%が監視対象という、中立国の皮を被った形式的な超監視社会だったスイスというお国柄、
そして彼の人となりを見てきたからなのかな。
「組織の末端」から「一人の不器用な人間」へ戻した彼らの力は、
きっと今の私たちにも繋がる、大きな希望だと思う。
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