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《ベルアント・ユダラ》【3話】理念と決心 [ユダラバギー|脳内探索アトラクション番外編]

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市街地ユノールから車で3時間。
鬱蒼とした森の一本道を抜けると、
小さな集落、バンナムがある。
かつては鉱山開発の黄金期を迎えていた。
金、銀、希少資源の発掘を皮切りに、
様々な産業開発が参入し、
多くの人と商業施設が押し寄せた。
半径1kmにも及ぶ巨大な楽園は、
資源を使い果たすおよそ30年もの間、
その恩恵を欲しいままにしていた。

桃源郷とも呼ばれたバンナムは、
20年後の今、
産業発展の残響を微かに残す、
小さな工場地帯になった。

市街地の開発が進み、
人々はユノールに流れていく。
バンナムに残ったのは工場を支える職人達。
打ち切られた政府支援金の影響で、
過疎化は避けられなかった。
産業は自動化が進むにつれその価値を下げ、
未だに桃源郷に縋り付いているというレッテルは、
“残渣者(ざんさもの)”という差別をも生んだ。
“何もできないやつはバンナムにでも行け。”
幻になってしまった栄光は、
削り尽くされた鉱山と、
煙の立ち込める錆色の家屋を、この地に残した。


シャボン玉が大きく膨らみ、弾ける。



また、シャボン玉が大きく膨らむ____



「あーっ!割れちゃったー。今のおっきかったねぇ、たのしいねぇ。」

小さな手足をバタつかせて喜ぶ様子に、
エミリは幾度となくシャボン玉を膨らませた。
シャボン玉が割れるたびに一瞬動きを止め、
また手足を不器用にばたつかせる。

「えへへ。たのしいねぇ。シャボン玉が好きなのね。」

チリンチリン、と入口のベルが鳴る。

「ちょっとまっててねぇー。ジールおじちゃんかなぁー。」

吊り下げられた宇宙船達が優しく点灯し、
オルゴールの音と共に回転を始める。
すぐもどるからね、
小さな頭を優しく撫で、急ぎ足で入口へ向かう。

「エミリ、すまない。少し遅くなってしまった。」

「ジールさんお疲れ様!気にしないでっ。こっちはむしろ癒されてたまらなくて蕩けてるわよ。」

「店のことはもう済んだのか。」

「ええ。今日はお客さんも少なかったから、品出しも発注も、営業中に済ませたの。」

ジールは店の奥を気にした。

「そうか。仕事中泣いたりしないか。」

「それがね、ジールさん。あの子、とっても静かなの。大きな声で泣くなんて珍しいのよ。何も聞こえないから、こっちが心配になって見に行くぐらい。」

「そうか。それなら“安心”だな。すまない、時間も遅くなった。連れて帰ろう。毎日世話をかける。ありがとう、エミリ。」

エミリは笑顔で頷くと、
軽快な足取りで店の奥に消えていく。
店と自宅の間切りの向こうで、
普段よりも柔らかく明るい話し声がする。
程なくして、彼女は抱えた腕の中を見つめながら、
囁くように歌いながら戻ってきた。

「離れるのが寂しいぐらい。毎日顔が見たくて仕方がないの。明日もまた連れてきてね。」

こうも大袈裟に寂しいと言うのは、
私に気を遣わせないための、
エミリの演技なのだろう。
ジールはそう感じながら、子を受け取る。
だが、それが手から離れる瞬間、
彼女の指に力が入った気がした。
包んだタオルを引っ掛けるように。

「あぁ。仕事中は、どうしても見てやれない。工場は危険も多い。しばらくの間世話になる。」

「大好きなジュニアちゃんだから。安心して。」

「ジュニアちゃん、か。」

出口まで見送ってくれたエミリは、
笑顔で手を振っていた。
口角を少しあげ、頷き、
ジールは水色屋根の家へと歩く。
乾燥を始めた風は、
埃を巻き上げ足元を抜けていく。
揺らされた枝が木の実を落とし、トタンを鳴らした。

「冬が来るぞ、坊主。」

ジールは、眠る子に話を続ける。

「エミリは孤児だった。両親は彼女を残し、蒸発した。バンナムの夢から逃げたんだ。お前を可愛がるのは、自分の想いが重なるからかもしれない。」

ジールはふと、足を止めた。
水色屋根はもう、すぐそこに見えている。

「お前は、なぜ俺の元に来たのだ。」

赤ん坊を拾い、
葛藤と動転の日々に、
初めて訪れた1ヶ月ぶりの“冷静”だった。

この赤ん坊が大きくなったらどうなるのか。
大きくなるまでここにいるのだろうか。
この子はどうなるのか。

ジールは冷静を取り戻したはずの自分が、
何一つ思考できていない現実に声を上げた。

「はっはっはっはっ。」


再び歩き出す時、ジールは決心していた。

砂地が剥き出しの路面を、確かめるように踏みしめる。



「坊主、忙しくなるぞ。」




_________________

【3】

「理念と決心」

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「ええー??なんて言った?!聞こえないっ!!」


「だーかーらぁー!!あそこのっ、ハンバーガー屋がぁ!!すっげー美味いんだ!!」


「どこぉーー!!どれなのーー!!」


ボナハート区南、幹線道路38番を、
1台のバイクが走り抜けていく。
650ccまで強引にボアアップされた単気筒エンジンの振動は、時速100kmでサイドミラーを視認不能にする。
実用性皆無の乱暴なボバーカフェスタイルは、
マフラーすら不要と言いたげなほど、
サイレンサーを排除していた。
ユダラの後ろにしがみついたデニスは、
ようやく聞き取れたハンバーガー屋を探していた。


「看板の色はーー!!何色なのーー??」


「きいろだ!!」


「あ!あの黄色いやつー?」


「もう、とっくに、通り過ぎたぞーー!!」


「ええーーー!!早く行ってよーー!!!」


「ここだ!あった!!不動産屋!着いた!!」


ようやく減速を始めたバイクは、
目的地に向かって右折を始める。
歩道を横切り敷地に入った。

「ユダラ君、不動産屋さんどこ?」

「え?デニス、声がすごい枯れてるじゃないか!はははっっっ!!」

「このバイクがうるさすぎるんだよーっ!」

「喉が弱すぎるんだよ、デニスは。ははっ。不動産屋はね、ここ、この家の1階だよ。」

「あー!これかっ。」

デニスが小さな民家だと思っていた1階に、
小さな文字で「ミタケハウジング」と書かれた、
ガラス製の看板があった。
バイクを停車させ、ヘルメットを脱いでいると、
1階のドアが開き、
中から50代ぐらいの女性が顔を出した。

「連絡をくださった、ユダラさんね。」

シニョンヘアに、
小豆色の薄手のカーディガンを羽織ったその女性は、
落ち着いたトーンで出迎えてくれた。

「はい。ユダラです!奥様ですか?」

「そうです。今主人は外に出ております。中へどうぞ。」

「はーい。」

店内は4人掛けのテーブルと、
カウンターラック越しにパソコンや書類棚があり、
花瓶に生けられたカーネーションとガーベラが、
夫婦で営み地元で愛される不動産の雰囲気を、
繊細に醸し出していた。
こちらへどうぞ、とだけ言い、
2人がテーブルの席につくと、
夫人はコーヒーを淹れに冷蔵庫に向かった。


「あの、こないだ言ってた、西側の土地なんですが。」

コーヒーを待たずに口にした私を、
デニスが一瞬静止しようとした。
夫人はトレイを持ちながら話す。

「あー、あの、乾燥地帯のところね。主人から聞いています。ご検討いただけましたか?」

紙のコースターを敷き、
コーヒーを音が立たないようにそっと置く。
ミタケキミコという小さな名札が胸に付いている。

「おそらく、ここに決めると思います。」

「あら、嬉しいわ。ありがとうございます。」

「ただ、条件をもう一度確認したいんです。」

「えーと、……この土地は、これですね。」

詳細が書かれた紙を棚から取り出すと、
2人の前にそっと置く。

「これです。先日来た時、ご主人に、“掘れる”かどうか確認したんですよ。」

「あっ、その件ね。聞いているわ。」

「……15m掘っても問題ないですか?」

静観していたデニスが、
口に含んだコーヒーを吹き出しかけて、
慌ててハンカチで押さえる。

「ユダラ君?!15mなんて聞いてないよっ。」

「15mも!国の決まりでは大丈夫だけど…、何が出てくるかもなにもかも分からないわよ。あなた達、一体何を作ろうとしているのかしら。」

目を丸くした夫人は、
問題に警戒する様子は無かった。
若者の考えに興味津々で、
出来れば聞かせて欲しい、
そんな好奇心の目を向けていた。

「地下で惑星を作ってやろうと思ってます。」

「あら…全く理解できないわ。」

「もうっ、ユダラ君。説明が雑だよ。ミタケさん、僕たちはあるプロジェクトを計画しています。人の心を惑星として投影して、その中をバギーで探索するアトラクションです。その投影のために、量子生成をする装置、すなわち、惑星を投影するための大きな装置とその周辺設備を地下に設置したいのです。これはどういった理論で行うかと言いますと、この量、」


「デニスっっ。ミタケさんにそんな専門的な説明しなくていいんだよ。はははっっ。」


「あら、もっとわからなくなったわ。」


「あっはっはっ!!ごめんなさい。そんなプロジェクトの為に、地下を使いたいのです。ミタケさん、そこでひとつ提案をさせていただきたい。」

「はい。お聞きします。なんでしょう?」

「このプロジェクトが成功したら、収入の一部をこの不動産に寄付させてください。」

「えっ、そんなの、申し訳ないわ。あなた達がこの物件を購入するんだから、私達は関係ないもの。」

「ミタケさん。このプロジェクトは、お金が欲しくてやるのではないのです。ユダラと僕は、このプロジェクトに関わる全ての人が、その恩恵を受けるという理念をもって、ここにいます。この提案をしたいと思うような素敵な不動産を探していたのです。」


「……。とても素晴らしいわ。あなた達の取り組みは、なんだか胸に響くものがあります。主人と相談してまた連絡してもよろしいですか?」


「はい。それがご理解いただけるのなら、この土地を購入します。今日はこの土地の購入の意思と、この提案をしに来ました。夫人にも会えて良かったです。ご連絡、お待ちしております。」



まだ正午を回ってすぐだった。
太陽がほぼ真上から降り注ぎ、
外に出た2人はその眩しさに瞼を絞った。


幹線道路38番を、

タンデムのバイクが駆け抜けていく。

右手のアクセルを更に開く。

ボナハートに力強い排気音が響いた。


「よし、さっきのハンバーガー屋に行くか、デニス。」


「いい日になったね!ハンバーガー屋、行こう!」



【4話】砂埃と羽  へ


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