【読書記録】フリーダム・インク―「自由な組織」成功と失敗の本質
今回は、2024年1月に出版されたアイザーク・ゲッツ&ブライアン・M・カーニー著 『フリーダム・インク―「自由な組織」成功と失敗の本質』(英治出版)の読書記録です。
本書はIsaac Getz氏、 Brian M Carney氏の2名により、2009年に出版された『Freedom, Inc.: How Corporate Liberation Unleashes Employee Potential and Business Performance』を邦訳出版した書籍です。
そして、本書の邦訳出版は、2018年1月にフレデリック・ラルー著『ティール組織』邦訳出版にあたった翻訳者・鈴木立哉さんと英治出版の編集者・下田理さんがタッグを組んでの取り組みであり、さらに、『ティール組織』解説者であり、ティール組織ラボ編集長を務める嘉村賢州さんが本書の書籍紹介記事を寄稿されています。
以下、世界的な企業の組織運営に関しての新たな潮流が生まれつつあること、その潮流と本書『フリーダム・インク』との関連も踏まえつつ、本書の内容をまとめていきたいと思います。
フリーダム・インク(Freedom,Inc.)
『Reinventing Organizations(組織の再発明)』
今回、読書記録に取り上げることとなった『フリーダム・インク』の翻訳・出版には先述のように、フレデリック・ラルー『ティール組織』の邦訳出版に携わった関係者も多く参画しています。
以下、『フリーダム・インク』との関連を見ていく上で、まず『ティール組織』について概観したいと思います。
『ティール組織』は原題を『Reinventing Organizatins(組織の再発明)』と言い、2014年にフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって紹介された組織運営、経営に関する新たなコンセプトです。
『ティール組織』著者で、現在はThe Weekという環境プロジェクトに取り組んでいるフレデリック・ラルー氏。
『ティール組織』執筆以前、マッキンゼーというコンサルティングファームに所属していたラルー氏は、「すでにお金を稼いでる人に、さらにお金を稼げるよう支援するこの仕事は人生にとって豊かなのか?」という問いに突き当たり、相談の結果、その仕事を辞めることになりました。
その後、ラルー氏はコーチ、ファシリテーターへ転身し、やりがいを失っている人、弱っている人を輝かせるこの仕事を一時は天職だと考えたのですが、それも長くは続きませんでした。
コーチングや対話の場で人やチームを支援して、その後人々を組織に送り返すことで、「構造的に病んでしまう組織を応援してるだけじゃないか?」という問いに突き当たったというのです。
そして、「組織の構造を変えないと根本解決にならない」「 もっと俯瞰的に捉えてみよう」という思いから世界中を調査して旅する中で生み出されたのが、後の『Reinventing Organizations(邦題:ティール組織)』です。
世界の働く人々はやりがいを失ったり、時に病んでしまったりしている一方で、経営者の側も不安やプレッシャーに晒され、十分な稼ぎがあったとしても幸せな状態には見えません。
そのようなメカニズムが人類を動かしている。
一方、世界中のユニークな組織を調査する中で、圧倒的にお客さんから支持を得て、経済性も回っており、何より人々が幸せに働いている組織が、同時発生的にさまざまな地域、産業分野、組織規模でポコポコ生まれてきつつあるのを、ラルー氏は目にしました。
それらはいずれも従来型とは違うやり方で組織運営を行なっており、それらをまとめた結果生まれたのが『ティール組織』という経営コンセプトであり、共通していた3つの突破口が全体性(Wholeness)、自主経営(Self-management)、存在目的(Evolutionary Purpose)です。
全体性(Wholeness)
自主経営(Self-management)
存在目的(Evolutionary Purpose)
上記のWholeness、Self-management、Evolutionary Purposeの3つをラルー氏は、現在、世界に現れつつある新たな組織運営のあり方に至るブレイクスルーであり、「ティール組織」と見ることができる組織の特徴として紹介しました。
2018年1月の出版後、10万部を超えるベストセラーとなった「ティール組織」は日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞し、2019年には著者来日イベントも開催されました。
そして、昨年2024年には原著「Reinventing Organizatins」出版10周年記念イベントが開催され、その日本語レポートも現在、公開されています。
『フリーダム・インク』と新たな組織運営の潮流
『ティール組織ラボ』編集長・嘉村賢州さんは、これまでの延長線上にはない新たなパラダイムに基づく組織づくりを取り扱った書籍の年表、系譜を以前、紹介されています。
この年表を見ると、2014年のフレデリック・ラルーによる『Reinventing Organizations(邦題:ティール組織)』の出版以降に関連書籍の出版が増え、単なる流行ではなく世界的な、大きな、潮流となりつつあることが見てとれます。
そのなかでも本書『フリーダム・インク』の原著である『Freedom, Inc.』の出版は2009年と早く、その先見性が伺えます。(詳細はこちらの記事もご覧ください)
初版が2009年出版の『フリーダム・インク』ですが、2024年現在読み返してもなお色褪せず、組織に自由さをもたらそうとする数々の実践者のストーリーは私たちにメッセージを訴えかけてきます。
通常、複数の組織の事例を一冊の本にまとめるとなった際には断片的な記述になりがちですが、本書『フリーダム・インク』では実践者たちがどう試行錯誤したかを定点観測的かつ比較的長めに記述されており、その変遷をストーリーとして受け取ることができます。

また、近年では上記のような流れとは別に、Corporate Rebelsという企業が世界の先進的な企業事例の調査・研究及び、情報発信を始めています。
Corporate Rebelsは『Make Work More Fun(仕事をもっと楽しく)』をタグラインとし、ピム・デ・モーア氏(Pim de Morree)とヨースト・ミナー氏(Joost Minnaar)によって設立されたオランダ・アイントホーフェンの企業です。
Corporate Rebelsは自立分散型組織やSelf-Management Organizationなど、あらゆる先進的な取り組みを行なっている企業へ訪問・取材し、記事を作成・発信するメディア運営を行なっている他、これまでに2冊の書籍が出版されています。
これらの活動に加え、近年ではハーバード・ビジネス・スクールとの連携・協働、ビュートゾルフ(Buutzorg)やホラクラシー(Holacracy)をはじめとする経営モデルをコンテンツ化したCorporate Rebels Academy(学習コンテンツプラットフォーム)の運営が行なわれています。
邦訳出版もされた書籍『Corporate Rebels: Make work more fun』の中では、従来型の組織運営のあり方から新しいあり方への移行の傾向を8つのトレンドとして紹介されており、書籍の中ではそれぞれのトレンドの実践に関して企業事例も掲載されてました。

その8つのトレンドとは以下のようなものです。
・「利益」から「パーパス」へ
・「ピラミッド」から「チームのネットワーク」へ
・「指示型リーダーシップ」から「支援型リーダーシップ」へ
・「予測と計画」から「実験と適応」へ
・「ルールと管理」から「自由と信頼」へ
・「中央集権型」から「分散型」へ
・「秘密主義」から「徹底した透明性」へ
・「ジョブディスクリプション」から「才能と熟達」へ
邦訳出版された書籍『コーポレート・レベルズ』については、全文公開されている訳者まえがき及び、ログミーBizの記事にもなっている出版記念ウェビナーの動画もご覧ください。
『解放企業』及び『解放型リーダー』について
『フリーダム・インク』著者二人は本書の中で『解放企業』、『解放型リーダー』という組織に自由と秩序を両立させ、業績を伸ばす存在について紹介しています。
著者らによる『Freedon,Inc.』キャンペーンサイトの記述によると、それぞれ『解放企業(Liberated Companies)』、『解放型リーダー(Liberating Leaders)』と表現されています。
この背景を探るには、現在のわたしたちが従来型企業として認識している、産業革命以降に発展した官僚主義、官僚組織の誕生に目を向ける必要があります。
18世紀の後半に始まった産業革命は、規格化した一定の品質の製品を大量生産することを可能にしました。そして、その最中で人々の担う仕事は分業が進められ、ある製品を生み出すための機械的かつ予測可能なプロセスに標準化され、唯一最良の方法を実施することが良いとされるパラダイムが支配的となりました。
また、こういった組織運営には『人々はコントロールされるべきであり、仕事のやり方を指示される必要がある』という前提が存在しています。
このような階層型、官僚的、あるいは指揮統制型のトップダウン組織は物質的な進歩と革新的な製品を世界にもたらし、私たちの日常生活を形作りました。
一方で、人々の創造性を抑圧し、現場にそぐわない規律やルールに対する面従腹背や無気力、ストレスを生み、現在も世界中の企業でストライキが起こるなど、人を対価・犠牲としてきました。
そのような状況の中で、官僚主義(ビューロクラシー:bureaucracy)に対し、変化に対応する柔軟性を備え、一人ひとりの創造性や主体的な行動を促進することをめざす組織運営のあり方について、世界で最も影響力を持つ経営思想家として知られるゲイリー・ハメル氏はヒューマノクラシー(humanocracy)と名づけました。

『フリーダム・インク』では、上記のような官僚主義的な組織づくりによって機能不全に陥った組織文化を変革し、人々を解放した上で業績を向上させたリーダー、企業である『解放企業』、『解放型リーダー』の事例を紹介しています。
なお、『フリーダム・インク―「自由な組織」成功と失敗の本質』出版後には、著者の1人であるアイザーク・ゲッツ氏からの特別寄稿及び編集者・下田理さん、翻訳者・鈴木立哉さんへのインタビュー動画が公開されています。
いずれも、本書が組織モデル以上にリーダーシップに焦点を当てていることが述べられており、本書を読み進める上での参考にぜひご覧ください。
『フリーダム・インク』の主たる事例企業
最後に、『フリーダム・インク』にて取り上げられている主たる事例企業についてまとめられればと思います。
本書では数多くの企業名や実践者の名前も多く出てくるため、一読しただけではどの企業で・どのような取り組みが行われたのかが理解しづらい一面があります。
以下、あくまで簡単に名称だけ触れられた企業を除いて、エピソードや事例を扱った企業を簡潔にまとめています。
簡潔にまとめただけでも20社の事例が出てきたため、本書を読み進める場合の参考にご覧いただければ幸いです。
本書で取り上げられた特徴的な事例企業:13社
●トヨタ自動車株式会社(TOYOTA MOTOR CORPORATION)
標準化された作業手順を採用する官僚組織でありつつも、それはあくまで「知っているなかで最善の方法」であり、よい仕事をしたい、学びたいという従業員の意欲を信頼している「人間的な大企業」として紹介されている。
●シー・スモーク・セラーズ(Sea Smoke Cellars)
1998年、ボブ・デイビッズ氏(Bob Davids)がアメリカ・カリフォルニア州で設立したワイナリー(ワイン製造販売事業者)。創業者のボブはワイナリー設立直前まで、当時世界第3位の利益を上げていた玩具メーカーラディカ・ゲームズ(Radica Games)の創業者兼CEOだった。
●バーテックス(Vertex, Inc.)
アメリカ・ペンシルバニア州に拠点を置く税務ソフトウェア関連企業。1978年にレイ・ウェストファール氏(Ray Westphal)によって創業され、2000年に3人の子どもがレイから会社の株式を購入し、共同オーナーとなる。
●ハーレーダビッドソン(Harley-Davidson, Inc.)
1903年にアメリカ・ウィスコンシン州で設立されたオートバイメーカー。社名は創業者であるウィリアム・S・ハーレーとアーサー・ダビッドソン、ウォルター・ダビッドソン、ウィリアム・A・ダビッドソンら、ダビッドソン兄弟の名に由来する。
●バージニア大学(University of Virginia)
アメリカ合衆国建国の父で、「独立宣言」起草者および第3代アメリカ合衆国大統領を務めたトーマス・ジェファーソン(Thomas Jefferson)が創立した州立大学。1891年に設置された。
●オーティコン(Oticon A/S)
1904年、ハンス・デマント(Hans Demant)によって設立されたデンマークの補聴器メーカー。現在はデンマークに本社を置き、世界30カ国で聴覚検査機器などヘルスケア機器の製造販売を行うデマント(Demant A/S)が保有するブランドとなっている。
●エイビス(Avis Rent A Car System, LLC)
1946年、ウォーレン・エイビス(Warren Avis)がアメリカ・ミシガン州で創業したレンタカー会社。現在は、エイビス・バジェット・グループ(Avis Budget Group, Inc.)の子会社に当たる。
●クアッド・グラフィックス(Quad.com)
1971年、アメリカ・ウィスコンシン州にてハリー・V・クアッドラッチ(Harry V. Quadracci)により創業。雑誌印刷会社としてスタートし、『Time』『Business week』『Vogue』『The New Yorker』などの印刷を手掛けてきた。
●USAA(United Services Automobile Association)
1922年にUnited States Army Automobile Associationとして設立。アメリカ・テキサス州に拠点を置く、金融・保険企業。電話やインターネットを活用したダイレクト・マーケティングの先駆者としても知られる。
●リチャーズ・グループ(TRG:The Rechards Group)
現在はTRGとして知られるリチャーズ・グループは1976年、スタン・リチャーズによって創業された広告代理店。創業者スタンは自身の組織づくりについて、著書『The Peaceable Kingdom(平和な王国)』でも語っている。
●SOL(SOL Palvelut Oy)
現在も操業しているフィンランド最古の企業の1つであり、1848年に創業されたリンドストローム社(Lindström Oy)にルーツを持つ。リサ・ヨロネン氏(Liisa Joronen)は同社のオーナー一族の生まれであり、1991年以降、会社の分割の末、クリーニングサービスと廃棄物処理事業を受け継いだ。
●チャパラル・スチール(Chaparral Steel Supply Inc.)
1973年、アメリカ・テキサス州にて創業された鉄鋼メーカー。1982年にCEOに就任したゴードン・フォワード氏(Gordon Forward)は、1999年、『New Steel』誌により、アンドリュー・カーネギーやJ.P.モルガンらと並び、20世紀の米国鉄鋼業において最も影響力のある11人の経営者の一人と評された。
●IDEO
ビジネスの世界においてデザイン思考(Design Thinking)を広げたアメリカのデザイン・コンサルティングファーム。1991年にデビッド・ケリー(David Kelley)、ビル・モグリッジ(Bill Moggridge)、マイク・ヌタル(Mike Nuttall)の3名により創業された。
フレデリック・ラルー『ティール組織』でも紹介されている企業:4社
●W.L.ゴア&アソシエーツ(W. L. Gore & Associates, Inc.)
1958年、ビル・ゴア(Wilbert Lee Gore)とヴィーヴ・ゴア(Genevieve Gore)が創業し、アメリカに本社を置く化学素材の開発・加工メーカー。「ゴアテックス(GORE‑TEX)」が同社の代表的な製品。
●FAVI
1957年にフランスで設立された金属部品メーカー。1983年以降、CEOを務めたジャン=フランソワ・ゾブリスト(Jean Francois Zobrist)には、当時何年も働いていた上司に呼び出され、ヘリコプターでFAVIの工場へ運ばれた後、全従業員の前で「彼が新しいCEOだ」と任命されたという逸話がある。
●ザッポス(Zappos.com)
トニー・シェイ(Tony Hsieh)がアメリカで創業した、靴を中心としたアパレル関連の通販小売店。フレデリック・ラルー『ティール組織』では、ホラクラシー(Holacracy)という組織運営法の実践企業としても紹介された。
●サン・ハイドローリックス(Sun Hydraulics)
1970年、ボブ・コスキ(Bob Koski)がアメリカで創業した、油圧部品セグメントの製造・販売を行うメーカー。2019年、名称をサン・ハイドローリックス(Sun Hydraulics Corporation)からヘリオス・テクノロジーズ(Helios Technologies, Inc.)に変更した。
現在はM&Aなどで経営体制が大きく変わった企業:3社
●GSI(ADP-GSI)
フランスで創業された、給与計算アウトソーシングのコンピュータ・サービス会社。欧州におけるリーディングカンパニーへと成長したが、1995年、アメリカの給与計算・人事アウトソーシング業務トップ企業であるADPによって買収された。
●モンテュペ(Montupet)
フランスのアルミ鋳造会社であり、自動車部品サプライヤー。2015年にカナダのリナマー(Linamar Corporation)に買収を持ちかけられ、現在はリナマーの軽金属鋳造部門に属している。
●NUMMI(New United Motor Manufacturing, Inc.)
トヨタとゼネラルモーターズ(GM)が合弁で設立した自動車製造会社。2009年にGMが撤退した後、2010年以降はテスラとトヨタによる電気自動車(EV)の共同開発・生産拠点となる。
さらなる探求のための参考リンク
ヒューマノクラシーのご紹介(日本語版序文・全文公開)
ファビィ:指示命令形の組織の変革ストーリー
Oticon:いかにしてヒエラルキーを(20回も)撤廃して巨大な成功を収めたか
人の力を解き放つ組織のあり方を考える──官僚主義に陥らないために何ができるか(嘉村賢州×佐宗邦威×細野佳代)
いいなと思ったら応援しよう!
サポート、コメント、リアクションその他様々な形の応援は、次の世代に豊かな生態系とコミュニティを遺す種々の活動に役立てていきたいと思います🌱