【書籍紹介】両利きのプロジェクトマネジメント 結果を出しながらメンバーが主体性を取り戻す技術
2025年6月出版の『両利きのプロジェクトマネジメント』(翔泳社)を、本書の執筆伴走を担当された長谷部可奈さんにご恵贈いただきました。ありがとうございます!
長谷部可奈さんとは以前から、アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)という読書会ワークショップでご一緒してきました。
可奈さんにファシリテーターを務めていただく形で『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』『いのちの声に聴く』『BIG MAGIC』を連続して扱った『パーパス探求を紐解く』読書会シリーズや、『ビジョンプロセシング』の出版前先行開催企画、未邦訳書籍『A Hidden Wholeness』を翻訳しながら読み進める探求読書会など、本を通じてさまざまな角度から働き方・生き方についての探求をご一緒してきました。
そうした中で、ご自身が所属される株式会社コパイロツトの米山知宏さんが執筆された本書をご恵贈いただき、とても嬉しく思います。
今回は本書について、そもそも『プロジェクトマネジメント』とはどういったものか?についても触れながら簡単にご紹介できればと思います。
本書が生まれることとなった背景とは?
本書を読み進める上で私が思い浮かべたのは、「Self-Management」という海外で認知が広がりつつある経営のあり方・潮流です。
2024年出版の書籍『コーポレート・レベルズ』では、現在の世界的な経営のトレンドとして以下のような8つの潮流があると紹介されています。

「利益」から「パーパス」へ
From Profit To Purpose & Values
「ピラミッド」から「チームのネットワーク」へ
From Hierarchical Pyramid To Network of Teams
「指示型リーダーシップ」から「支援型リーダーシップ」へ
From Directive To Supportive Leadership
「予測と計画」から「実験と適応」へ
From Plan & Predict To Experiment & Adapt
「ルールと管理」から「自由と信頼」へ
From Rules & Control To Freedom & Trust
「中央集権型」から「分散型」へ
From Centralized to Distributed Authority
「秘密主義」から「徹底した透明性」へ
From Secrecy To Radical Transparency
「ジョブディスクリプション」から「才能と熟達」へ
From Job Descriptions To Talent & Mastery
Corporate Rebels: Make work more fun
変化の大きな環境への適応の要請、組織を取り巻く複雑性の増大に伴う1人のリーダーや一部のマネジメント層による意思決定の限界、行き過ぎた利益追求による自然環境破壊や人々の疲弊といったさまざまな要因から、世界中で新たなビジネス、経営、組織・事業運営のあり方が模索されるようになりました。
この潮流に特に大きなインパクトをもたらした出来事としては、2014年のフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)による『Reinventing Organizations(邦題:ティール組織)』出版が挙げられるかもしれません。
「Self-Management」は上記のようなトレンドを踏まえて現れてきた、ビジネス、経営、組織・事業運営に取り組むあり方及び、多様な実践・方法論群を総称するキーワードです。
国内において「Self-Management」に関連する取り組み等は「自律分散型組織」や『ティール組織』(英治出版)における「自主経営(Self-Management)」、ソフトウエア・通信業界では「アジャイル(agile)」や「スクラム(scrum)」などのキーワードで紹介されています。
さらに、『両利きのプロジェクトマネジメント』でも取り上げられるホラクラシー(Holacracy)は、ソフトウエア・通信業界発祥の『ティール組織』事例であり、独自の組織運営法でもあります。
『両利きのプロジェクトマネジメント』では、現代のプロジェクトマネジメントにおけるジレンマや、それが引き起こす問題について詳細に分析した上、紹介されています。
加えて、『両利きのプロジェクトマネジメント』では、前提となっている3つの世界観や『リーダーが1人で無理しないための処方箋』という表現も帯に見られます。
こうしたジレンマやそれが引き起こす問題、それらに対応するために生まれてきた『両利きのプロジェクトマネジメント』もまた、先述のような世界的な経営トレンドや潮流がプロジェクトレベルに反映されたもの、と考えることができそうです。
『両利きのプロジェクトマネジメント』の前提情報
本書における『プロジェクト』及び『プロジェクトマネジメント』という用語は、プロジェクトマネジメント協会(Project Management Institute:PMI)が発行するPMBOK(Project Management Body of Knowledge)Guideの意味に基づき、それらの意味を広く捉え直して使用しています。
以下、プロジェクトマネジメント協会(Project Management Institute:PMI)とPMBOK Guide、『プロジェクト』、『プロジェクトマネジメント』について簡単に整理していきます。
『PMI』と『PMBOK』
プロジェクトマネジメント協会(Project Management Institute:PMI)は1969年にアメリカ・ペンシルバニア州で創設されたプロジェクトマネジメントに関する研究・調査及び普及啓発機関です。
PMIの歴史はプロジェクトが世界に果たしてきた役割とともに語られており、その中には人類が初めて月面に到達したアポロ計画、モトローラによる世界初の携帯電話の発明、デルタ航空のターミナル5の就航といったものが取り上げられています。
PMIは現在、世界各国で300以上の支部が存在し、日本では一般社団法人PMI日本支部(PMI Japan Chapter)が活動しています。
PMBOK(Project Management Body of Knowledge)GuideはPMIが発行するプロジェクトマネジメントにおけるベストプラクティスやフレームワークを包括したガイドブックを指し、1996年の初版発行以降も版を重ね、現在は第7版が出版されています。
『プロジェクト』と『プロジェクトマネジメント』
以上、『PMI』と『PMBOK』について見てきましたが、『両利きのプロジェクトマネジメント』において『プロジェクト』と『プロジェクトマネジメント』はどのように考えられているのでしょうか?
著者の米山さんは以下のように紹介しています。
プロジェクト
PMBOKはプロジェクトを独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有機的な業務と定義しています。しかし本書ではプロジェクトをより広くとらえて「新たな価値を生み出していくための活動」と定義します。別の言い方をすれば、ルーティン業務ではないものととらえていただいて構いません。
強調筆者
プロジェクトマネジメント
一般にプロジェクトマネジメントは「スケジュール管理」や「タスク管理」といった「管理業務」をイメージされがちです。しかし本書では、プロジェクトマネジメントとは「新たな価値を生み出す」ためにプロジェクトをなんとか推進していくことであり(manage to do には、なんとか……するという意味があります)、具体的にはプロセス・プログレス・チーミング・ラーニングをマネジメントすることを意味します。
より具体的には、プロジェクトマネジメントとは、プロジェクトの最終的な成果の実現に徐々に、そして着実に近づいていくために、チームが実験を繰り返しながら、小さな出力を生み出し続けるとともに、プロジェクトをよくするための気づきを共有し続けること、かつ、それらを行うための仕組みや環境を構築することを意味します。
強調筆者
『両利きのプロジェクトマネジメント』とは?
まず、『両利き』と聞いたときに多くの方が思い浮かべるのは、『両利きの経営』(東洋経済)でしょう。

『両利きの経営』では『両利き』について、経営学者・入山章栄は以下のように解説しています。
両利きの経営
本書の柱であり、世界のイノベーション研究でもおそらく最も重要な経営理論である。「両利き(ambidexterity)」とは、まるで右手も左手も利き手であるかのように、それぞれがうまく使える状態を意味する。
そして、企業活動における両利きは、主に「探索(exploration)」と「深化(exploitation)」と言う活動がバランスよく高い次元で取れていることを指す。(中略) このように、不確実性の高い「探索」を行いながらも「深化」によって安定した収益を確保しつつ、そのバランスをとって二兎を追いながら両者を高いレベルで行うことが、「両利きの経営」である。両利きの経営が行えている企業ほどパフォーマンスが高くなる傾向は、多くの経営学の実証研究で示されている。
強調筆者
しかし、『両利きのプロジェクトマネジメント』では上記のような『両利き』という用語を物事や問題の捉え方として、意味合いや枠組みを拡張しています。
『両利きの経営』における『両利き』は、物事や問題を『あれかこれか』でとらえる二項対立(dichotomy)ではなく、『あれもこれも』でとらえ、状況に応じて何をなすべきかを機動的に判断、行動する『生き方(a way of life)』である「二項動態」に通じるとしています。
その上で、「両利きのプロジェクトマネジメント」は「どちらか」ではなく「どちらも」活用する二項動態的なプロジェクトマネジメントの方法論であると、著者は言います。
「両利きのプロジェクトマネジメント」は上記のような「どちらか」ではなく「どちらも」活用する二項動態的なプロジェクトマネジメントの方法論であるという前提を基に「直線的なモード」と「曲線的なモード」という2つのマネジメントスタイルを提示し、それら2つのモードに触れながら「両利きのプロジェクトマネジメント」を定義づけてもいます。
上記の複数の用語を整理すると、以下のようにまとめられます。
「直線的なモード」
合理性や計画性などを重視し、一直線にゴールをめがけて進んでいくマネジメントスタイル
「曲線的なモード」
散歩するように、必ずしも具体的なゴールを求めることなく、さまざまなものに偶発的に出会うことを意図するマネジメントスタイル
「両利きのプロジェクトマネジメント」
プロジェクトを推進する際に、「直線的なモード」と「曲線的なモード」を状況に合わせて行き来しながら使いこなしていく考え方
こうした整理のもと、『両利きのプロジェクトマネジメント』では現代のプロジェクトで起こっている3つのジレンマ(思考軸、時間軸、組織軸)をいかに扱っていくか?や、思考軸、時間軸、組織軸の複数軸を両利き的に扱い、組み合わせることでいかにプロジェクトをより良く進めるための発想につながるか?等について紹介されていきます。
『両利き』と、『両立思考』『対極思考』
以上、『両利きのプロジェクトマネジメント』について簡単にまとめてきました。
ここからは、『両利きのプロジェクトマネジメント』が意図する『両利き』を考えた時に連想されたアイデア、思考法などについてまとめていければと思います。
『択一思考』と『両立思考』
ここまで「両利きのプロジェクトマネジメント」とは『「どちらか」ではなく「どちらも」活用する二項動態的なプロジェクトマネジメントの方法論』である、と見てきました。
こうした考え方の中で一番初めに思い浮かんだのは、『両立思考 「二者択一」の思考を手放し、多様な価値を実現するパラドキシカルリーダーシップ』(日本能率協会マネジメントセンター)です。
本書は経営学者であり、個人、対人関係、組織におけるパラドックスの研究を行なってきた2名の著者による書籍です。
ますます複雑で不確かで曖昧になるこの世界では、見るからに手に負えないコンフリクト(葛藤、衝突、対立)や、解決不能な難題が至るところに転がっています。
そして、その中で一方を選ぶ択一思考(Either/Or)から、相反するものを成り立たせる両立思考(Both/And)に移行する機運がかつてないほど高まっています。
2名の著者はパラドックスを「相互に依存しながら持続する矛盾」と定義し、これを自覚・理解することの重要さと、パラドックスが生み出す緊張関係(テンション:Tension)を乗りこなすための「ABCDシステム」という独自モデルを本書内で紹介しています。
『両立思考』(JMAM)は『両利きのプロジェクトマネジメント』が意図する『両利き』を理解する上でさまざまな角度から示唆を与えてくれる一冊だと言えるでしょう。

『ソース原理』探求と『対極思考』
上述のような『両利き』の感覚に近い、『対極思考(opposable thinking)』について触れるきっかけとなったのは、『ソース原理(Source Principle)』の探求の最中でした。
ソース原理(Source Principle)とは、経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱された、人の創造性や創造的なコラボレーションに関する洞察・知見の体系です。
そして、このソース原理を初めて体系的に国内に紹介した『すべては1人から始まる』(英治出版)著者のトム・ニクソンは、『ソース原理を取り入れるかどうかは個人の選択』と前置きした上で以下のように述べています。
世界の物事の捉え方について、集団全員に全く同じ思考モデルを押し付けるのは健全でないばかりか、現実的にも不可能だろう。そうなってしまうともはや「教義」のようになってしまい、実務的な概念や原則ではなくなる。(中略) 自分の理性、経験、そして本能がこのレンズを使って物事を見るのは理にかなっていると告げてくるのであれば、それを活用すればいい。
同様に、ソース原理と正面からぶつかり合うような別の見方もあるかもしれないが、どちらの方が正しいかを客観的に証明することはできない。かつて私はそれは問題だと考えていたけれど、やがてそうした見方の違いは「対極思考(オポーザブルシンキング)」の機会なのだと学んだ。
こうした思考によって、対立関係によって捉えるのではなく、共通の方向性を見出し、より大きな意味が立ち現れる可能性を開くことができる。
さらに、チームが複雑な環境下で前進しながら、無数の相反する視点やアイデアを保っておくことにも役立つ。このような考え方は、分断がますます進む世界で極めて重要になってくる
このようなバランス感覚は、AかBかという二極化(polarisation)ないし択一思考(Either/Or)から、相反するものを成り立たせる両立思考(Both/And)や『両利き』の感覚を身につける上で重要なセンスのように思います。

終わりに
以上、『両利きのプロジェクトマネジメント』(翔泳社)について、私のこれまでの探求領域の視点からまとめてきました。
改めて『プロジェクトマネジメントとは何か?』『現代のプロジェクトマネジメントが抱える課題とそれを乗り越えるポイントは何か?』といったテーマに関して見直し、新たな視点を与えてくれる一冊かと思いますので、ぜひご関心のある方は手にとってみてください。

さらなる探求のための参考リンク
7/31(木)シリーズ読書会「両利きのプロジェクトマネジメントを読み解く【コパイロツト読書部】
9/4 (木)『両利きのプロジェクトマネジメント』を読み解き、深めよう【本を通じて次世代組織を探求するブッククラブ】
プロジェクトを両利きでマネジメントしていくための1冊|コパイロツト
国内におけるホラクラシー(Holacracy)探求の潮流を概観する:20年近くの試行錯誤と実践、ホラクラシーの功罪の振り返りから現れつつある、新たな一歩とは?
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