【種字本】 わずか2ミリの活字のもと “種字” を手彫りした「種字彫刻師」って?
こんにちは、雪 朱里です。文字の本をつくっています。
8月上旬に水鈴社から新著『活字の種をつくった人々 わずか2ミリの活字のもと “種字” を手彫りした彫刻師たち』が出版されることになり、amazonでの予約受付がスタートしました。
(8/26追記:8月上旬に発売されました。全国の書店ならびにネット書店で発売中です)
本書は2023年11月 3日~2024年 6月 2日まで、市谷の杜 本と活字館で開催された企画展「活字の種を作った人々」を書籍化したものです。
とはいえ、展覧会時につくったのはハンドアウト(解説小冊子)のみ。本書の大半は書き下ろしです。展覧会が終了した一昨年から準備を進め、ようやく予約開始にまでたどりつくことができました。早くみなさんに見ていただきたい!
でも、いきなり「種字」といわれても、それがなんだかご存じない方のほうが多いですよね。そこで今回は、種字彫刻師ってなんなのか、本書がどんな本なのかを紹介していきます。
1) 種字ってなんだろう?
「種字」とは、活版印刷にもちいられる「活字」をつくるための、おおもとになる型です。「型」といわれると、どんな形状を想像するでしょうか。クッキー型みたいなもので型抜く? それとも、人形焼の型みたいなところにトロ〜っと活字の材料を流し込んで固める? いえいえ、そうではありません。じつは見た目には、活字とそっくりなんです。


なにが違うの? という方も多いと思いますが、文字のまわりの余白部分に注目してみてください。活字の周囲がピシッと平滑なのに比べて、種字の余白部分にはなんとなく揺らぎのような手彫り感がありませんか?
明治のはじめに日本に本格的に導入された活版印刷では、このように、まず活字にそっくりな「種字」をつくり、その表面に銅メッキをして型をとって、量産用の型である「母型」をつくりました(電胎法といいます)。そして母型から、何百本、何千本という金属活字をつくった(鋳造した)のです。最初のころは、上に載せたような金属の種字ではなく、木彫り種字がもちいられました。
ちなみに、どうして活字を何百本、何千本と鋳造しなくてはならなかったのでしょう? 活版印刷とは、ハンコのような鉛の活字を組み合わせて、機械で印刷する方法です。ひとつひとつの文字は、1本1本の鉛活字を並べることで刷られていました。

文章のなかには、同じ文字が何度も登場しますよね(たとえばこのnoteの文章のなかに「の」は何回登場しているでしょうか?)。だから本や新聞を印刷しようと思ったら、ひとつの文字を何十本と用意して棚に並べておく必要があったのです。

2) 種字はどうやってつくったの?
では、種字はどうやってつくったのでしょうか? 紙に書いたり、写真に撮ったりしたのでしょうか?
いいえ、違います。
種字は、人が手で彫りました。つくりたい活字と同じデザイン(明朝体、ゴシック体、楷書体など)、同じサイズで。それだけでもびっくりですが、一番すごいのは、それを鏡文字(左右反転した文字)で彫ったということです。
つくりたい活字と同じサイズということは、本文用でもわずか2、3ミリ角です。そこに明朝体などの文字を手彫りする。その種字のデザインが、そのまま活字になるのです。ちょっとなにを言ってるのかわからないですよね。
しかも種字は、1文字だけを美しく彫れば済むものではありません。活字は、いまでいう「フォント」の役割を果たすもの。ですからそのもととなる種字は、数千という文字を統一された書風で、どんな文字同士が隣に並んでも大きさや太さ、黒みがバランスよくそろうよう彫刻しなくてはならなかったのです。
この記事のヘッダー画像は、大日本印刷に残されている木彫り種字です(この書体は「秀英体」と呼ばれています)。この美しい文字をだれかが彫って、そこから活字がつくられていたなんて、にわかには信じられないことですね。
3) 種字彫刻師はどんな人たち?
こんな美術工芸品のような美しい種字を彫った「種字彫刻師」とは、いったいどんな人たちだったのでしょうか。そもそもこんなにすごい「種字」は、貴重な宝物として、大切にとっておかれたのでしょうか?
残念ながら、当時の印刷会社や母型・活字メーカーにとって、「種字」はあくまでも「母型」をつくるための過程での製作物に過ぎませんでした。しかも第二次世界大戦後にはベントン彫刻機という母型彫刻の機械が普及したため、種字の多くは「もう使わないから」と捨てられてしまいました。
種字彫刻師の名前を記録に残した会社も、ごくわずかでした。彼らの多くはその名を残すことなく、ただ、美しい文字だけを残していった――。しかし種字彫刻師たちが彫った文字は、次代の書体デザイナーたちに受け継がれ、現代のデジタルフォントにまでつながっているのです。
はたして、「種字彫刻師」の仕事とは、どのようなものだったのでしょうか。そして「種字彫刻師」とは、どんな人たちだったのでしょうか。種字彫刻師の仕事が現代のデジタルフォントにつながっているといえるのは、なぜなのでしょうか?
本書では、いま私たちの身のまわりにあるスマートフォンやパソコン、本、雑誌、新聞などに当たり前のように表示され、印刷されている文字――フォントの源流といえる文字を彫っていた「種字彫刻師」の人と仕事を、わずかに残された資料や実物から、たっぷりの写真とともにひもときます。

雪 朱里 著『活字の種をつくった人々 わずか2ミリの活字のもと“種字”を手彫りした彫刻師たち』水鈴社刊
写真:池田晶紀・池ノ谷侑花(ゆかい)/イラスト:セキサトコ/ブックデザイン:山田和寛+竹尾天輝子(nipponia)/編集:津田淳子
【くわしい目次】
◉ただいま予約受付中!
本書の発売は8月上旬なのでまだ少し先なのですが、もしネット書店を利用しようと思っていらっしゃるかたがいらしたら、すでにamazonと楽天ブックスで予約が始まっていますので、よかったらご注文いただけるとうれしいです(最初の1カ月の予約数で入荷数が決まるようです)。もちろん、店頭に並んでからお近くの書店でお求めいただくのも大歓迎です!
これから少しずつ、こちらのnoteでも情報を公開していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
【著者プロフィール】
雪 朱里(ゆき・あかり)。著述業/ライター。
1971年生まれ。武蔵大学人文学部日本文化学科卒。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。
文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこない、文字分野では描き文字から活字・写植・デジタルフォントまで、つくり手や、それがつくられる/使われる現場への取材を通じて、「人」の見える書体デザイン史、印刷史を詳らかにすることに取り組んでいる。
著書に『活字地金彫刻師 清水金之助』(ボイジャー・プレス)、『「書体」が生まれる ベントンと三省堂がひらいた文字デザイン』(三省堂)、『もじモジ探偵団 文字バンザイ編』『時代をひらく書体をつくる。―書体設計士・橋本和夫に聞く 活字・写植・デジタルフォントデザインの舞台裏』『印刷・紙づくりを支えてきた 34人の名工の肖像』『描き文字のデザイン』『もじ部』(以上グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)ほか。2011年より『デザインのひきだし』誌レギュラー編集者もつとめる。
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