丁寧な暮らし|A Table! ~ノスタルジックな休日|ドラマは心の処方箋
ドラマの台詞にある「時間は螺旋状に存在する」という言葉や、パラレルワールドにとても興味があります。量子力学は難解過ぎて、何となくしか言葉で表現できないけれど、懐かしい風景やゆっくり流れる時間は、とても心地良い。「暮しの手帖」に書かれたレシピを夫婦の休日に再現するドラマは、私もこんな暮らしがしたいと憧れます。
古き良さへの憧れ
市川実日子さんが出演されているドラマを観ていると、中島歩さんとの台詞のテンポが心地よく、時間がゆっくり流れるのを感じます。そんな穏やかな
空気感に触れるたび、私はツレと過ごした日々を思い出します。
ツレとは、よく古道具屋さんに行って家財道具を見つけて購入していました。私自身、古着は利用していたけれど、家具は初めてで掘り出し物を見つける楽しさもありました。

この茶箪笥は、十津川村へ移住してすぐ新宮の古道具屋で調達したもので、今も健在です。冷蔵庫や洗濯機は壊れて買い替えしたけれど、家具は壊れず味を出しています。地震で倒れなければ、生涯使えます。
ゆったりと丁寧な暮らし
私とツレも時間はたっぷりあって、丁寧な暮らしをしていたはずでしたが、口論が絶える事がなく、時間を浪費していました。その口論が私を成長させ、今があるのですが、ドラマのような時間もありました。
でも、今振り返って思うのです。あの「浪費」に見えた時間は、実は自分を形作るために必要な「自分磨き」の時間だったのだと。
激しいぶつかり合いの中で、自分の幼さを知り、相手の深さを知る。結果として仲直りするという「結末」は同じでも、その道中でどれだけ感情を動かし、ぶつけ合ったかという「過程」の熱量こそが、今の私を成長させてくれました。
ドラマを観ていて感じる心地よさは、何もかもが完璧だからではありません。お互いを尊重しながらも「個」を消さない、あの絶妙な温度感。

編み物が出て来るのも嬉しい。私たちのあの日々も、あんなふうに、ぶつかり合いながらもお互いの輪郭を確かめ合っていた……そんな「心の処方箋」を、今さらながら受け取っているような気がします。
食は作ることも楽しむ
ドラマの中で、二人が台所に並び、「暮しの手帖」のレシピに挑戦する姿。その楽しそうな「過程」を見ていると、かつての私たちの食卓が鮮やかに蘇ります。

私のツレは、1980年代のニューヨークでマクロビオティックを学んでいました。倹約家で料理好きな私とは、不思議と食の感覚がぴったり合っていたのです。
十津川村での山暮らしは、外食とは無縁の世界。だからこそ、私たちは「自分たちの手で作る」ことを徹底的に楽しみました。
梅干しや味噌は自分たちで仕込み、移住前にはパスタマシンも新調。息子も一緒に、玄米と粉食(こなもん)が半分ずつの、滋味深くも豊かな食生活を堪能していました。

畑で育てる野菜、そして身近に自生する野草。それらは、ピザやラザーニア、あるいは豆腐を巧みに使った和洋折衷の料理へと姿を変えます。揚げ物が得意なツレが揚げるサクサクのカキフライ、私が焼くパン、そしてツレが担当する食後のケーキ。
二人とも海外での旅が長かったせいか、山奥にいながらにして、私たちの食卓には世界中の風が吹いていました。
「食べる」ことは「生きる」こと。ドラマが教えてくれるのは、完成した料理の味だけでなく、その前の「何を作ろうか」と相談し、手を動かす時間の愛おしさです。
不便なはずの山暮らしを、何よりも豊かに彩ってくれたのは、間違いなくあの台所で「作る楽しみ」でした。
ノスタルジックな体験を活かす
過ぎ去った時間は愛おしく、けれど戻ることはできません。独りになって3年。ツレと別々に暮らし始めてからは、もう20年近い月日が流れました。振り返れば、共に暮らした時間よりも、離れて過ごした時間の方がずっと長くなっています。
今、私は自分の特性であるADHDやASDの個性を深く理解し、身体を整えることで、ようやく「自分らしく生きる」ための安定した土台を手に入れました。

田園風景が広がる故郷での幼少期。
世田谷の邸宅でのハウスキーパー経験。
世界中を旅した自由な日々。
広尾の仕事場から国分寺へ通ったあの頃。
それらすべての景色が、私の感性の地層となっています。ドラマの中で二人が「もしも」の自分を想像するように、私もまた、無数にあったかもしれない別の世界線を、今の自分という一点に繋ぎ止めています。
これからは、この山奥のローカルな空間を大切にしながら、視線はグローバルに向けていきたい。流行りに流されるのではなく、培ってきた感性を作品のリニューアルや、ネットを介した自分らしいビジネスの構築に注ぎ込んでいく。
アナログな暮らしの豊かさと、デジタルの利便性、過去のノスタルジーと、未来への挑戦。その「過程」を楽しみながら、多様性の中で、私は私であり続けたい。
このドラマが教えてくれた「心の処方箋」は、過去を懐かしむだけでなく、今日という日を新しく書き換えていくための勇気でもあったのです。
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