【学び】新人が自分を出せない職場で、何が起きているのか
はじめに|静かな職場で感じた違和感
前回の問い記事では、派遣スタッフの方との会話から、「仕事はできるけれど、自分を出しにくい環境」について考えました。
その方は、新しいセクションに来てからまだ間もなく、周囲のスタッフを「大人しい」と感じていました。そして、自分自身も普段の明るさやユーモアをあまり出せていないようでした。
私と何気なく雑談をしているうちに、少しずつ本来の雰囲気が見えてきて、他のスタッフとの会話にもつながっていきました。
この出来事を振り返ると、働きやすさは業務の仕組みや人数だけではなく、「この場所で自分はどう振る舞っていいのか」と感じられる関係性にも左右されるのではないかと思います。
今回は、その違和感を心理的安全性や組織の関係性という視点から、整理してみます。
学び①|心理的安全性は、明るい職場をつくることではない
今回の出来事に関連して思い浮かんだのが、エイミー・C・エドモンドソンの『恐れのない組織』です。
エドモンドソンは、心理的安全性を、チームの中で対人関係上のリスクを取っても安全だと共有されている信念として説明しています。
対人関係上のリスクとは、たとえば、
分からないことを質問する
ミスを報告する
異なる意見を伝える
助けを求める
といった行動です。
ここで大切なのは、心理的安全性は「みんなが仲良く、いつも明るく話している状態」と同じではないということです。
静かな人が多い職場でも、必要なことを安心して伝えられるなら、心理的安全性は高いかもしれません。
一方で、普段は賑やかでも、ミスや反対意見を言えない職場であれば、安心して働けるとは限りません。
今回の派遣スタッフの方が感じていた「自分をさらけ出せない」という言葉も、それだけで心理的安全性が低いと判断できるものではありません。
ただ、その言葉をきっかけに、私はこう考えました。
「この人は、分からないことを気軽に聞けているだろうか」
「困ったときに、誰に相談すればいいか分かっているだろうか」
「自分の感じたことを、否定される不安なく伝えられるだろうか」
職場の静かさそのものではなく、こうした行動が取りやすいかどうかに目を向けることが、働きやすさを考える入口になるのかもしれません。
学び②|雑談は、人と人の距離を縮める「接点」になる
今回、私がしたことは、特別な面談や指導ではありませんでした。
目の前の仕事について話したり、ちょっとした冗談を交わしたり、通りかかったスタッフに話を振ったりしただけです。
それでも、その方が少しずつ自分のことを話してくれるようになり、周囲との接点が生まれていきました。
ここから感じたのは、雑談には、業務上の役割だけでは見えない相手の一面を知る働きがあるということです。
「この人はこういう話をするんだ」
「意外とユーモアがあるんだな」
「この人になら、ちょっと聞いてみようかな」
そんな小さな発見が積み重なることで、次に話しかけるときの心理的なハードルが下がることもあると思います。
もちろん、雑談が苦手な人もいますし、プライベートなことを話したくない人もいます。
だから、無理に会話を引き出したり、明るく振る舞うことを求めたりする必要はありません。
大切なのは、雑談を強制することではなく、話したいときに話せる接点があり、話さないことも尊重されることなのではないでしょうか。
雑談は、それ自体が目的というより、相手を知り、関係性をつくるための一つの入口なのだと感じました。
学び③|「慣れるまで待つ」だけでは、環境の課題が見えにくい
新しい職場に入ったばかりの人が緊張するのは、自然なことだと思います。
最初から全員と打ち解けられる人ばかりではありませんし、時間をかけて関係性をつくることも大切です。
一方で、「そのうち慣れるだろう」と考えるだけでは、受け入れる側の環境を見直す機会を失ってしまうかもしれません。
新人スタッフは、仕事の内容だけでなく、
誰がどんな役割なのか
どのタイミングで質問していいのか
どんな雰囲気で会話が交わされているのか
といった、目に見えないルールも学んでいます。
以前から働いている人にとっては当たり前でも、新しく入った人には分からないことがたくさんあります。
たとえば、
忙しそうな先輩に声をかけていいのか分からない。
質問したいけれど、誰に聞けばいいのか分からない。
ちょっとした冗談を言いたいけれど、この場では控えたほうがいいのかもしれない。
こうした迷いは、本人の性格だけで生まれるものではなく、その場の関係性や、暗黙のルールとの間で生まれている可能性があります。
だからこそ、新人がなかなか馴染めていないときには、「本人がもっと積極的になればいい」と考える前に、受け入れる側にもできることがないかを考えてみたいと思いました。
学び④|人を仲間として受け入れるとは、同じにすることではない
人数調整が必要な現場では、誰をどこに配置するか、何人で仕事を回すかという視点は欠かせません。
私自身も、少人数のセクションで働くことが多いので、効率よく業務を進めることの大切さは感じています。
ただ、配置された一人ひとりを、業務をこなすための役割としてしか見なくなってしまうと、その人がどんなことを感じているのかが見えにくくなることもあると思います。
今回の派遣スタッフの方も、仕事をしている姿だけを見ていたら、普段はもっと明るく、ユーモアのある方だということに気づかなかったかもしれません。
ここで大切にしたいのは、相手を自分たちの雰囲気に合わせることではなく、相手の違いを知ることです。
大人しい人には、大人しい人なりの働きやすさがある。
明るい人には、明るい人なりの自然な振る舞いがある。
一人で集中したい人もいれば、会話を交えながら仕事を進めたい人もいるでしょう。
全員を同じテンションにするのではなく、それぞれが無理に自分を押し込めなくても、必要なときに周囲とつながれること。
そんな環境が、多様な人が働く職場にとって大切なのかもしれません。
学び⑤|リーダーの役割は、関係性の入口をつくることにもある
今回の出来事を通して、現場のリーダーや、長く働いているスタッフの役割についても考えました。
新人スタッフに仕事を教えることは、もちろん大切です。
でも、それと同じくらい、
「誰に聞けばいいか分かる」
「困ったときに声をかけられる」
「自分の存在を知ってもらえている」
と感じられることも、働きやすさにつながるのではないでしょうか。
たとえば、
初めて一緒に働く人に名前を伝える。
周囲のスタッフを紹介する。
仕事の合間に、無理のない範囲で声をかける。
質問があったときに、忙しくても一度受け止める。
相手の得意なことや、今感じていることを知ろうとする。
こうした一つひとつは、業務の成果としてすぐに数字に表れるものではないかもしれません。
それでも、関係性ができることで、質問や相談がしやすくなり、結果として仕事の進めやすさにつながる可能性があります。
ただし、リーダーが全員と仲良くなることを目指したり、常に雑談をしなければならないわけではありません。
大切なのは、誰か一人が頑張って場を盛り上げることではなく、新しく入った人が孤立しにくい関係性を、現場全体でつくっていくことなのだと思います。
構造から整理すると
今回の出来事を、個人の性格ではなく構造から見ると、次のように整理できそうです。
新人スタッフの側には、仕事を覚えたい、周囲と関係をつくりたい、自分らしく働きたいという思いがある。
一方で、現場の側には、限られた時間で業務を終わらせたい、サービスの質を保ちたい、既存のやり方を維持したいという事情がある。
どちらかが間違っているわけではありません。
ただ、業務を進めることが優先される中で、新しく入った人が関係性をつくるための余白が少なくなっているとしたら、そこに小さな摩擦が生まれるのかもしれません。
そして、その摩擦を「新人が慣れていないから」「大人しい職場だから」と片付けるのではなく、関係性や場のつくり方から見直してみることに、今回の学びがあると感じました。
明日からの現場で、意識してみたいこと
今回の体験から、私は大きな仕組みを変える前に、日常の関わり方を少し意識してみたいと思いました。
初対面の人には、まず名前を伝える。
仕事の話だけでなく、相手が話しやすそうな話題があれば、少し会話を交わしてみる。
馴染みのスタッフとの間に、自然な接点をつくってみる。
そして、相手が静かに過ごしたいタイプであれば、その距離感も尊重する。
何より、
「この人は今、どんな気持ちでこの現場にいるのだろうか」
と、少し想像してみることを大切にしたいです。
雑談をすることが正解なのではなく、相手を知ろうとする姿勢が、関係性の入口になるのかもしれません。
まとめ|働きやすさは、業務の外側にもある
今回の出来事から、私は、働きやすさには目に見える部分と、目に見えにくい部分があるのだと感じました。
業務量や人員配置、教育の仕組みといったものは、もちろん重要です。
その一方で、名前を知っていること、ちょっとした会話ができること、困ったときに声をかけられること、自分の違いを無理に隠さなくてもいいと感じられること。
そうした関係性も、仕事を進めるための土台になっているのかもしれません。
今回の派遣スタッフの方との雑談は、私にとって、その目に見えにくい働きやすさを考えるきっかけになりました。
これからも、仕事を円滑に進めることと、人を仲間として受け入れることの両方を大切にしながら、現場の関係性を観察していきたいと思います。
あなたの現場では、新しく入った人が、安心して質問や相談をできる関係性があるでしょうか。
そして、その人らしさを知るための余白は、どこにあるでしょうか。
▼この内容のきっかけになった問いはこちら
摩擦を、構造に。
問いを、資産に。
Yuta

