
教員の世界にも「働き方改革」は叫ばれています。それでも、目の前の業務が特に減ったわけではない、というケースも決して少なくありません。授業の準備もそこそこに、行事をこなし、部活動の管理を行う、そうしているうちに季節だけが過ぎていく。
年度の区切りが見える度、「来年もここで働き続けるのが正しいんだろうか」と、ふと頭をよぎることもあるでしょう。
「もう3年、迷ったままなんです」。キャリアコーチング「クジラボ」には、そんな先生の相談が数多く寄せられるといいます。
代表の森實泰司さんによれば、迷いが何年も続くのは、性格や決断力のせいではありません。先生の転職には一般企業とまったく違う時間割があり、それを誰も教えてくれないから。いつまでに、なにをすればいいのかを聞きました。
【プロフィール】
森實 泰司(もりざね・だいじ)
株式会社クジラボ 代表取締役。1986年、福岡生まれ。ソフトバンク、リクルートを経て、ITベンチャーのキュービックで人事責任者を務め、組織を3年で30名から300名へと拡大。2019年に学校法人の事業承継に携わり、教育の現場へ。2021年に株式会社クジラボを設立する。「支えるひとをささえる。」をビジョンに掲げ、先生・公務員・看護・介護・保育など、誰かを支える仕事に就く人のためのキャリアコーチングを手がける。
迷ったまま3年たつのには理由がある
迷いが長引くのには、ちゃんと理由があります。
まず、教員・学校という職種は少し特殊です。就職の入り口も違えば、売上や利益のことが最重要とされるわけでもない。一般的な就職活動とは別の筋道で採用や就職が決まり、教員以外から転職してくる人も多くはありません。他の業界との関わりもそれほど強くないので、「一般企業のことがよくわからない」となりやすい構造です。
転職活動に踏み込んでみたとしても、求人票には「新規開拓(新しい取引先を探して営業をかけること)」「顧客折衝(お客さまとの交渉や調整)」といった見慣れない言葉が並びます。意味を調べればわかるとしても、その仕事を自分がやれるのか、やりたいのかまでは、言葉からは見えてきません。判断できないものには応募のしようがなく、ここで足が止まってしまうのです。
ここまで見ると、要するに「情報の不足」がためらいの主因だということが見えてきます。でも、経験がないことを過度に恐れる必要はありません。
考えてみてください。一般企業間の転職だって、他の会社や職種のことを「経験したことがある」なんてことはそうそう多くないはずです。他の業界のことを経験したことがないなんて普通のことです。まずはしっかりと「情報」を整理していくことから始めるといいのです。
転職活動をためらう理由にもうひとつ、よく相談されることがあります。「もったいない」という言葉です。転職を決意し、先輩や校長に相談するとよく出てくる言葉です。ここまで積み上げてきた経験や実績、安定した待遇。たしかに手放すものはいろいろあり、一理ある言葉でもあるので、悪気なく引き止めてきます。
ただ、そう言っているのは「続けることを選んだ人たち」であり、生存者バイアス、つまり、上手くやれている人たちの言葉である可能性もあります。あなたの、固有で個人的な消耗を理解した上での言葉であるとは限らないのです。

先生の転職は「12月」がタイムリミット
先生の転職には特別な時間割があるとお伝えしました。
では、いつまでに決めればいいのでしょう? 答えは思ったより早く、12月です。
多くの学校では12月の頭ごろに、来年度の意向を聞く面談があります。ここで「います」と答えれば、実質的に次の1年が決まります。年度の途中で辞めるのは、児童や生徒に対する思いや責任感などから、きわめて難しいことだと思います。
だから、この面談を素通りするたびに、迷いが自動的に1年延長されるわけです。「もう3年迷っています」はこの構造から生まれがちです。
逆に、知っておいてほしい失敗パターンもあります。時間のある夏休みに、求人へ応募してしまうことです。
気持ちはよくわかります。でも、4月に入社したい人が8月に応募しても、未経験の人材を半年先まで待ってくれる会社はほとんどありません。エージェントからも「12月ごろにまた来てください」と言われてしまいます。せっかくの勇気と夏休みが、空振りに終わるのです。
それなら、12月から動けばいいかというと、そうもいきません。応募や面接の本番となる12〜3月は、学校がいちばん慌ただしくなる時期と重なるからです。
受験や進路指導に関わる学年なら、まさに1年のピーク。
そうでなくても、成績処理や指導要録、卒業式や進級に向けた仕事は、この時期に集中します。
小学1年生の担任のように、この時期は比較的落ち着いて過ごせる場合もあります(そのぶん4月が1年でもっとも忙しいのですが)。それでも、平日の勤務があることに変わりはありません。
そのなかで平日に年休を取って、面接に行けるでしょうか。土日に面接をしてくれる会社は、ほとんどありません。じっくり企業を調べる時間も、なかなか取れないのが実態です。
ここまで読むと、転職はかなり難しいのでは……と思われた方もいるかもしれませんが、そうではありません。要は、やり方と「時間割」にあわせて動きましょう、というお話です。
つまり、選考が始まる前に、受ける会社を絞り込めているかどうかで勝負が決まるのです。

動き始めは、いつごろがベストタイミング?
整理すると、先生の1年はこう使うのが現実的です。
この表は、辞める人だけのものではありません。棚卸しの結果、残ると決めるなら、12月の面談は「来年度はこの業務を外してほしい」と伝える場にもなります。
つまり、辞める人も残る人も、やるべき準備と締め切りは同じなのです。準備だけして残っても、なにも損はしません。
「そもそも考える時間がない」という先生は、誰かに話すところから始めてみるのもひとつの手段。頭のなかだけで考えても、忙しさにのまれて、また来年になってしまうものです。同僚に言いにくければ、私たちのような外部の無料相談でもかまいません。
「辞めるか決めてないのに行っていいの?」と聞かれますが、大歓迎です。迷っている段階の話を聞いて、なにから手をつければいいかを一緒に整理するのが、私たちの仕事だからです。

【先生のキャリア実践編 連載】
- 第1回 やりがいと、業務過多の狭間で。学校の先生たちは「仕事」とどう向き合うのか
- 第2回 迷ったまま、また4月を迎えないために。教員の転職・キャリアの整理は「いつ」始めるのがいいのか(本記事)
- 第3回 教員の転職と転職エージェント。エージェントに話をする前に、強く勧めたい「自己分析」について(近日公開)
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社 代表取締役/株式会社スタディーハッカー創業者。1977年生まれ、福岡出身。2014年、メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ。以後運営に携わる。
X→@oka_kgs / Instagram→@oka_ken2010
/ 著書(amazon)