
情シスの働きが鍵?「つながらない権利」実現までの壁と対策を考える



通常、私たちは制度を「社会全体のルール」として捉えています。社会の秩序を維持し、公平性を担保するためには、時代の変化に応じて制度を見直していくことは欠かせません。
一方で、TEMの視点に立つと、制度は単なるルールではなく、人々の選択肢を形づくる環境でもあります。また、同じ制度変更であっても、その影響はすべての人に一律に及ぶわけではありません。日本で起業を目指す人、日本企業で働く人、子どもの教育を理由に移住した家族など、それぞれの状況によって制度の意味は大きく異なります。
だからこそ、制度改正を考える際には、「制度が変わった」という事実だけではなく、その変化が人々のライフコースにどのような新たな選択肢や制約を生み出しているのかという視点も欠かせないのです。

TEMでは、人の人生は一本の道ではなく、さまざまな出来事や環境の影響を受けながら複数の径路へと分かれていくものとして捉えます。その分岐を生み出す要因の一つが、「社会的方向づけ(Social Direction:SD)」です。また、特定の選択肢へと人の背中を押したり、歩みを進めるサポートとして機能する「社会的助成(Social Guidance:SG)」も、径路を形づくる重要な要素となります。
社会的方向づけや社会的助成には、家族や学校、職場だけではなく、法律や行政制度も含まれます。制度は私たちの日常から少し離れた場所にあるように感じられますが、実際には人々の選択肢そのものを変える力を持っています。制度が変われば、その制度の上に人生設計を築いてきた人たちは、新たな選択を迫られることになります。

この点に関していえば、近年、日本では外国人の在留制度をめぐる見直しが相次いでいることに注目せざるを得ません。その象徴が、2025年10月に施行された経営・管理ビザ制度の改正です。
制度見直しの背景には、事業実態のない法人を利用した在留資格取得や、制度趣旨から逸脱した運用への懸念がありました。2025年8月20日に開催された出入国在留管理政策懇談会では、こうした事例を踏まえ、制度の信頼性を維持するための見直しが必要であるとの議論が行われています。

また、2026年には永住許可制度や在留資格に関する運用も見直され、外国人を取り巻く制度環境は短期間のうちに大きく変化しました。制度改正にはそれぞれ合理的な目的があります。しかし、その変化は、日本を生活の拠点としてきた外国人一人ひとりにとって、新たな人生の選択を考える契機にもなっています。
このように見ると、制度改正は単独の出来事ではありません。複数の制度変更が重なり合い、一つの大きな社会環境の変化として、人々のライフコースに作用していると考えることができます。
| 時期 | 制度改正・政策 | 主な内容 | ライフコースへの影響(TEMの視点) |
|---|---|---|---|
| 2025年4月 | 在留手続手数料改定 | 在留資格変更・更新・永住許可などの手数料を改定。オンライン申請の料金体系も新設。 | 在留資格の維持や変更に伴う経済的負担が増し、長期的な生活設計にも影響を及ぼす。 |
| 2025年8月 | 出入国在留管理政策懇談会(第6回) | 外国人受入れの拡大を背景に、在留管理の適正化を図るための制度見直しを整理した資料。とくに「経営・管理」在留資格について、事業実態のない申請や制度の不適切な利用が課題として示され、審査基準の厳格化や要件見直しの方向性が提言されている。 | 制度改正は、日本で起業・定住を目指す外国人にとって新たな「社会的方向づけ(SD)」となり、これまで可能だった進路の再考を迫る分岐点(BFP)を生み出した。制度は人生を決定するものではないが、選択肢や行動の方向性を大きく変える要因となることが読み取れる。 |
| 2025年10月 | 経営・管理ビザ要件厳格化 | 資本金要件の引き上げ(500万円→3,000万円)、日本国内での常勤雇用要件などを導入。制度の信頼性向上を目的とした見直し。 | 日本で起業・定住を目指す外国人にとって、新たな「社会的方向づけ(SD)」となり、事業計画や移住計画の再検討を迫る。 |
| 2025年10月 | 外国免許切替(外免切替)厳格化 | 住所確認を厳格化し、原則として住民票の写しを求めるほか、観光などの短期滞在者は対象外とした。知識確認は10問から50問へ、技能確認も日本の免許取得時と同水準に引き上げられた。制度変更後3か月では、知識確認の通過率は92.5%から42.8%、技能確認は30.4%から13.1%へ低下している。 | 地方での就職や生活を計画する外国人にとって、自動車の利用可能性は生活設計に直結する。外免切替の厳格化は、運転免許取得という生活基盤にも新たなハードルを設け、日本で暮らすための選択や準備に影響を与える「社会的方向づけ(SD)」として機能している。 |
| 2026年6月施行 | 改正入管法 | 査証免除国からの短期滞在者を対象とした電子渡航認証制度(JESTA)を創設し、入国前にスクリーニングを実施することで、不法残留の防止と上陸審査の迅速化を図る。また、在留資格変更・更新・永住許可に関する手数料の上限額を引き上げ、外国人の出入国・在留管理に要する費用を反映できる制度へ見直すことで、公正かつ持続可能な在留管理体制の構築を目指している。 | 渡航前の認証や在留手続きの費用負担が増すことで、日本を移住先として選ぶか、あるいは長期滞在や永住を目指すかという意思決定に影響を及ぼす可能性がある。TEMの視点では、制度変更は個人の人生を直接決めるのではなく、その後のライフコースを方向づける「分岐点(BFP)」として位置付けられる。 |

ここまで見てきたように、日本では2025年以降、外国人の在留制度をめぐる見直しが相次いでいます。しかし、こうした制度改正が「日本を目指す外国人が減った」という形で現れているかというと、現時点ではそのように結論づけることはできません。
例えば、厚生労働省が公表した「外国人雇用状況」(令和7年10月末時点)によれば、外国人労働者数は257万1,037人と前年より約26万8,000人(11.7%)増加し、届出制度が始まった2007年以降で過去最多となりました。外国人を雇用する事業所数も37万1,215か所と過去最多を更新しており、日本で働く外国人全体は引き続き増加傾向にあります。
つまり、2025年10月の経営・管理ビザの厳格化や、その後の制度改正が、日本への在留を希望する外国人全体にどのような影響を与えたのかを、現時点のマクロ統計だけで判断することはできません。制度改正から十分な時間が経過しておらず、影響が統計として顕在化していない可能性もあるためです。
さらにいえば、この統計が捉えているのは、日本国内で実際に雇用されている外国人です。そのため、これから留学を予定している人や、日本への移住・起業を検討している人、あるいは在留資格の取得を目指して準備を進めている人などは対象に含まれていません。制度改正がこうした「これから日本を選ぶかどうか」を考えている人々の意思決定にどのような影響を与えているのかについては、現在のマクロ統計だけでは十分に把握することはできないのです。
だからこそ重要なのは、「外国人が増えたか、減ったか」という総数だけを見ることではありません。制度変更が、どのような人に、どのような選択の見直しを迫ったのか。TEMが注目するのは、まさにその一人ひとりのライフコースに生じた変化なのです。

2026年7月には、政府の永住許可制度の新たなガイドラインについてさらなる厳格化を進めることが明らかになりました。
2027年4月以降の申請では、日本人世帯の平均を上回る年収や、厚生年金に30年間加入した場合と同程度の年金受給見込みを原則として求めるほか、日本語能力や日本の制度・ルールへの理解も審査で考慮される方針です。また、税金や社会保険料を故意に滞納し、催告や差押えを受けてもなお納付意思を示さない場合には、永住資格の取消し対象となる具体的な判断基準も示されています。一方で、病気や失業など本人に責任のない事情や、分割納付や納付猶予を受けて誠実に対応しているケースは対象外とされ、個々の事情を総合的に判断することも明記されています。
これらの制度改正には、それぞれ異なる政策目的があります。しかしTEMの視点から見ると、共通しているのは「制度が厳しくなった」ということだけではありません。日本への渡航を考える段階、日本で働き、生活し、そして永住を目指す各段階、ライフコースの各局面において、新たな判断基準や選択肢が生まれ、人々が将来設計を見直す契機となっているということなのです。
制度は、誰に対しても同じように作用するわけではありません。同じ制度改正であっても、それを「新たな挑戦のきっかけ」と受け止める人もいれば、「日本で暮らすことを諦める理由」となる人もいます。TEMが着目するのは、まさにその違いです。
マクロ統計からは見えてこない一人ひとりの人生の変化を丁寧にたどることで、制度改正がどのような「社会的方向づけ(SD)」として働き、新たな分岐点(BFP)を生み出しているのかが見えてきます。制度は人の人生を決定するものではありません。しかし、その後にどのような選択肢が開かれ、あるいは閉ざされるのかを方向づける力を持っているのです。
(TEXT:河合良成、編集:藤冨啓之)
メルマガ登録をしていただくと、記事やイベントなどの最新情報をお届けいたします。
30秒で理解!インフォグラフィックや動画で解説!フォローして『1日1記事』インプットしよう!
データ越境者に寄り添うメデイア「データのじかん」が提供する便利ツールです。
本ツールは、JavaScriptを用いてお客様のブラウザ上で処理を行います。サーバーとの通信は行われず、入力データはお客様のみの端末内で処理されます。