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そもそも、「管理会計」とは何なのでしょうか?
書籍でも説明されている通り会計は大きく「管理会計」と「財務会計」に分けられ、それぞれの定義は以下の通りです。
管理会計
企業内部の意思決定やマネジメントのために用いる会計情報。事業別の利益・採算、部門ごとの業績評価、コスト削減の意思決定、インセンティブ設計など、“会社を動かすための会計”といえます。企業ごとに自由に設計でき、ルールも義務もありません。
財務会計
株主・投資家・銀行など、外部ステークホルダーに向けて開示される会計情報。損益計算書・貸借対照表など、法律に基づいた“会社の通信簿”です。
書籍では、これまでアカデミアの分野で経営者報酬や経営者の業績評価に関する研究に取り組んできており(Jumpei Hamamura┃Google Scholar)、これまで『寡占競争市場の管理会計』(中央経済社、2021)、『経営者報酬の理論と実証』(共著、中央経済グループパブリッシング、2024)などの研究者向け、あるいは実務書のなかでも堅めの書籍を執筆してきた濵村氏のなかでも特に一般向けに執筆された書籍です。
ポップなタイトルからも手に取りやすい、と感じた方が多いのではないでしょうか。
「管理会計に興味はあったが、専門書で勉強するのはハードルが高い」「管理会計の最新の業績について専門家の視点で、かつ読みやすさを重視して書かれた書籍が読みたい」という方は読んでみて、かゆいところに手が届くと感じられる可能性が高いでしょう。

ここからは、『評価と報酬の経営学』の内容を見ていきましょう。
同書はまえがき・あとがきと全6章の本文で構成されています。
第1~第3章はそれぞれ「『経営者』『中間管理職』『現場の従業員』を評価する」とタイトルに冠されており、そもそも各レイヤーのポジションの評価はどのように行われるのかを以下のような身近な疑問を想定しながら解説するパートです。
・経営者と従業員にはなぜ報酬差が生まれるのか
・中間管理職の業績指標には実際にどのような指標が使われているのか
・ラチェット効果(※)を抑制するにはどうすればよいのか
実際の企業の統合報告書(企業の財務・非財務情報を統合して株主などのステークホルダーに伝えるための資料)や、研究報告・調査などをソースに、わかりやすく信頼のおける内容を届けることを重視しているのが同パートの特徴と言えるでしょう。
第4章~第6章では、より大きな視点で「そもそもなぜ評価が必要なのか」「海外と日本の評価システムの比較」「課題と展望」が語られます。そこでも以下のように身近な疑問に答える視点があるのは変わりません。
・360度評価にはどのような効果があるのか
・日本企業で成果主義がうまく機能しないのはなぜか
・そもそもどの業績評価指標を使えばよいのか
また、同書の特徴としてアニメ、ゲーム、野球、コンビニ経営など多様な例を持ち出し、どんな人でも興味が持続できる工夫が施されていることも挙げられます。ライトノベル『魔法科高校の劣等生』、阪神タイガース、ダイエットアプリ「あすけん」など多様な例がどんな場面で出てくるのか、読む際は注目してみてください。
※…成果に基づいて目標が設定される場合、目標が引き上げられることを恐れてあえて努力を節約する効果。「ラチェット(ratchet)」は、「歯止め」を意味する英単語。行動経済学では可処分所得の減少幅に対し、消費の減少幅が小さくなる現象を指すが、書籍では管理会計の文脈で使われている。
ここまで、『評価と報酬の経営学』の内容や特徴について詳しく取り上げながら解説してきました。
ここで、冒頭の話題に立ち返って考えてみましょう。
「多くの日本企業の社員が評価や報酬に対して不満を感じており、その割合は規模が大きくなるにつれて増加する問題」は、管理会計を学べば解決するのでしょうか?
その答えは、‟「解決する」とまで断言はできないが、効果がある可能性は高い”です。
『日本の人事部 人事白書2025』の調査によると、評価・報酬制度の運用における課題で最も割合が多かったのは、企業規模を問わず「評価者による基準や運用のばらつきがある」でした。それに、「評価者のスキルが不足している」あるいは「従業員が評価や報酬に不満を感じている」が続いています。
【従業員規模別】評価・報酬制度の運用における課題(%)
| 評価者による基準や運用のばらつきがある | 評価者のスキルが不足している | 従業員が評価や報酬に不満を感じている | |
| 1~100人 | 58.4 | 45.3 | 29.9 |
| 101~500人 | 72.3 | 56.6 | 40.5 |
| 501~1,000人 | 70.6 | 45.6 | 50.0 |
| 1,000~5,000人 | 78.7 | 62.3 | 49.2 |
| 5,001人以上 | 79.3 | 48.3 | 65.5 |
※当てはまるものを3つまで選択する多肢選択式アンケートへの回答結果。
※出典:日本の人事部 人事白書2025
管理会計の視点から評価制度を共有すれば、「評価者による基準や運用のばらつきがある」問題はある程度解決されるはずです、もちろん、ポジションや職種、職務慣行によって評価が難しかったり主観的な評価が必要になったりすることは避けられないのですが、そういった難しい状況でどのように評価を行うかを考える際にこそ、管理会計は力を発揮します。
たとえば、書籍では必ずしも主観的な評価が否定されているわけではありません。
評価者のスキルや評価・報酬自体の内容に従業員が不満を抱えている状況でこそ、なぜその評価方法が採用されているのかを合理的な理由とともに提示することが重要です。そのことは、「評価プロセスや評価結果を報酬に反映させるプロセスが不透明であること」を課題と考えている従業員は相対的に少ないにもかかわらず、従業員規模が大きくなるほど「従業員が評価や報酬に不満を感じている」割合が高くなることにも反映されているのではないでしょうか。
【従業員規模別】評価・報酬制度の運用における課題(%)
| 評価プロセスが不透明である | 評価結果を報酬に反映させるプロセスが不透明である | |
| 1~100人 | 29.0 | 27.1 |
| 101~500人 | 19.7 | 18.5 |
|
501~1,000人 |
29.4 | 16.2 |
| 1,000~5,000人 | 11.5 | 13.1 |
| 5,001人以上 | 6.9 | 3.4 |
※当てはまるものを3つまで選択する多肢選択式アンケートへの回答結果。
※出典:日本の人事部 人事白書2025
どの様に評価しているのか、どうそれを報酬に反映しているのかを説明することはもちろん重要です。しかし、その前提として「なぜそうした評価・報酬への反映を自社では行っているのか」を伝えることができているのか。
「できていないかも?」と感じたら、『評価と報酬の経営学』を手に取ってみることをおすすめします。
『評価と報酬の経営学』は決して経営者にだけ向けて書かれた本ではありません。書籍の副題にある通り「アイツの査定は高すぎる」と感じる場面は従業員として働く人の多くにあるはず。
そこでどのように査定が行われているのか、そもそも自社の査定は合理性を持って行われているのかを考えることで、異議申し立てを行ったり、自分なりに納得したり、転職先選びに生かしたりといった‟打ち手”が可能になります。
もちろん、研究者ならではのアカデミックな視点も盛り込まれている同書。すべての方が「管理会計」の門をくぐる際、一読することをおすすめします。
(宮田文机)
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