未完成婚・セックスゼロで母になる!?#23 採卵、発熱、限界
夫と一度も膣性交ができないまま迎えた体外受精、どんどん心のバランスを崩していった私は、病院の不妊相談のカウンセリングを受け、知人からは強烈なアドバイスをもらい、どうにか心を保っていた。
⬇️前回からのつづき
採卵の2日前の夜、排卵を誘発するオビドレルというホルモン剤を自己注射した。これで、しばらく自己注射から解放される……!!約2週間続いた自己注射、やっと慣れてはきたものの、しなくて済むとなるとやっぱりうれしい。
エコーにより、「採卵できるのは、5個くらいですかね〜…」と言われていた。正直言うと、こんなにしんどい中、頑張ってるんだから、もっと多く採れたらいいのに!!と思った。
これが、39歳の現実なんだろう。
採卵は全身麻酔だ。寝てる間に終わる……はずだか、私の友人は、採卵のときに局所麻酔だったのか、もしくは麻酔が効かないタイプだった。痛さと恐怖で泣き叫び、夫側の不妊原因もある中で、成功確率のとても低い体外受精のために採卵を何度も繰り返すことが苦痛となり、最終的に子供を産むことを諦めた、と聞いた。
細いとは言え、女性器の中に針を入れ、そこから卵巣まで針を刺して、複数個の卵子を採取する……
これが、麻酔が効かない意識下で行われる場合を想像するだけで青ざめる……恐すぎる!!!どうか、麻酔が効きますように!!と願った。
採卵のときは、1人で病院に行くと決めていた。一番最初に、夫と2人で体外受精の説明を聞いたとき、『採卵の日に、自宅で採精するか?病院で採精するか?』尋ねられた。病院だとうまく採精できない可能性もあるので、自宅での採精を選んだ。
そのときに、夫が「家で採精すれば、私は病院に来なくていいんですよね?」と看護師に確認をとっていた。その言葉を聞いたとき、「あ………この人は、私が全身麻酔で採卵するときに、付き添う気持ちがないんだ………」と、受け止めた。
ショックだった。
夫の仕事はとても忙しい。なるべく病院に行きたくない気持ちも、よくわかった。私は、昨年の子宮内膜ポリープ手術で、全身麻酔もすでに経験しているから、大丈夫と思ったんだろうか…でも……
「はじめての採卵で不安なのに……友達が、採卵のときに麻酔が効かなくて、激痛で泣き叫んだ話も伝えたのに!ホルモン剤注射も採卵も全部、女性側だけ辛くて苦しくて、男性側はそれを体験することもまったくないんだから、せめて付き添いくらいはしてくれてもいいのに!セックスしないんだったら、採卵くらい付き合ってよ!!」
これが、私の本音だった。でも、夫は「病院に行かなくてすむかどうか」確認していた、そして行かなくてすむことがわかり、ほっとした顔をしていた……
私は自分の本音が言えなくなったまま、採卵まで来てしまった。膣性交が一度もないままに体外受精をしている辛さと悲しさに加え、採卵の付き添いのことでも、我慢を重ねてしまっていた。
採卵当日の朝は早い。
夫も頑張って採精してくれた。採精を嫌がることは一度もない。そこは、本当にありがたく思っている。
まだ寒い2月、ダウンコートのポケットにジップロックに入れた採精カップを大事に入れて、病院へと向かった。
名前が呼ばれ手術着に着替え、点滴をしてもらい手術室で横たわる。子宮内膜ポリープ手術のときの病院とは違うが、私にとっては2回目の全身麻酔、前回よりも緊張感は少なかった。
いつもの女性担当医が、優しく声をかけてくれた。麻酔よ、絶対に効いてくれ……!!!強く願った。
目が覚めたら、そこは手術室の外だった。一瞬でワープした感覚、これよこれ、これが麻酔の感覚。
「よかった!!麻酔が効いたんだ!!」ほっと安堵した。
「目覚めましたね。お疲れさまでした。点滴がまだ残っているので、もうしばらくゆっくり休んでください。」
看護師さんが、声をかけてくれた。「ありがとうございます。」私は、そう言ってまた目を閉じた。
それから、どれくらい時間が経ったのだろうか…1時間はなかったような気がする。点滴が終わり、看護師さんが声をかけてくれた。起き上がろうとしたそのとき、
「!?!?!?い、痛いっ!?」
お腹に力を入れた瞬間に生理痛マックスのような鈍痛に圧迫され、立ち上がることができなかった。
「大丈夫ですか!?」
「い、痛いです…お腹に力を入れようとしたら、痛くて……生理痛みたいな感じです。」
「横になってください。鎮痛剤、追加しましょうか?」
「はい、お願いします…!!」
こうして、痛み止めの点滴が追加された。2本目の点滴よ……効いてくれ…!!そう願いながら、再び目を閉じた。
「立てますか?大丈夫ですか?」
「はい!大丈夫です!」
元気な声が、カーテンの向こうの隣のベッドから聞こえてきた。私の後に採卵した、別の患者さんだ。1本目の痛み止めの点滴が終わったのだろう。
「私の後に採卵した人は痛くなさそうだし、点滴1本で終わったのかぁ……個人差大きいって、本当だなぁ…」
まだ寝ぼけた頭で、そんなことを思っていたら、私のベッドのカーテンが開けられた。
「フラミンゴさん、大丈夫そうですか?ちょっと立ってみましょうか?」
恐る恐る、立ち上がる…今度は大丈夫だ、痛み止めの点滴が効いたようだ。看護師さんにお礼を言い、診察の順番を待った。
痛み止めが効いてるうちに、家に帰りたい!!と思いながら、待合室でぼんやりと座っていた。診察の順番がきた。
「卵子は7個、とれましたよ。」
7個!!やった!!
採卵前の診察では5個と言われていた。増えた!よかった!!
その後、何個が受精できて、何個が冷凍できるまで順調に育ったかは、1週間後の診察のときに教えてもらうことになった。
1週間………待ち遠しいな……
そう思いながら、診察室を後にした。
帰宅したら、在宅ワークの夫がパソコンに向かって仕事をしていた。7個採卵できたこと、採卵後の痛みがあり点滴が追加されたことを伝え、寝室で横になった。
翌日も、念のため家でゆっくり過ごした。
異変が起きたのは、採卵から2日後、バイト先から帰宅しているときだった。
「あれ………?なんか、寒気がする…?」
気のせいかと思い、スーパーで買い物をして外に出たところで一気に体調がおかしくなった。ゾクゾクする、フラフラする、心なしか身体が熱い……
もう、いつものスピードで歩けなくなっていた。買い物袋をぶら下げて、よろよろと帰宅した。
冷蔵庫に食材を突っ込み、布団に倒れ込んだ。熱を計ると、38℃超え………完全に発熱だ。慌てて婦人科に電話をかけたが、本日の診察は終わっており、翌日の診察となった。
咳や喉の痛み、鼻水などは一切ない。でも、発熱による息苦しさと寒気で、何もできず食べられず、横になるしかなかった。おかしい……風邪の感覚ではない…採卵の副作用なんだろうか……
不安と苦しさで、夫へ発熱したことをメッセージで伝えた。
夫から
「術後で体力・免疫落ちてるからかな。栄養と睡眠しっかり摂れば、割とすぐ回復すると思います〜」
と、返信が来た…………
ブツン
限界まで伸び切っていた、私の我慢の糸がついに切れた。
食って寝てりゃあ、治るだと!?この人は、採卵の副作用かもしれないと、心配すらしないのか………
溜めに溜めに溜め込んでいた、怒り、悲しさ、虚しさ、すべてが弾け飛んだ。
なんだよ!?なんなんだよ!?
一度のセックスもないままに妊娠するという苦痛に、こんなにも耐えているのに!!
ただでさえ辛い体外受精に、普通だったらしなくてもいい辛さがプラスされているというのに!!
コイツは、なんにもわかっちゃいない!!!
なんで……なんで……私たちは、こうなんだろう……
普通の夫婦のあいだにあるものが、私たちにはない。普通の夫婦ならできていることが、私たちにはできない……
熱に浮かされながら、涙があふれた。
ダメだ………もう、限界だ……
夫に手紙を書こう。義母にも、未完成婚のまま体外受精をしていることを言おう………
もう、私は限界だった。
感情の制御など、到底できようもなかった。
夫の立場になって考えるなんぞ、できるはずもなく、したくもなかった。
翌日、幸いにも熱は下がった。ダルさの残る身体で病院に向かう。片道1時間、こんなときは病院までの道のりが遠く感じる。
コロナもインフルエンザも陰性、卵巣は少し腫れているが、卵巣過剰刺激症候群というほどでもない。
原因は不明だが、炎症止めが処方され、ゆっくり休むよう指示された。
採取した7個の卵子のうち、受精したのが6個、凍結できたのが1個、残り5個は週末まで培養する、と言われた。
採卵&受精してから3日目、凍結できた受精卵はたった1つ………これだけの手順と時間と苦労をかけて、まだ1つか……
気が遠くなりそうだった。
診察結果と受精卵の経過を、夫へメッセージした。
来週の診察のとき、凍結の結果を一緒に聞いてみたい、と返信が来て、そのこと自体はとてもうれしかった。
でも………高熱を出した昨夜から、今まで一言も「大丈夫?」という言葉を、夫からかけてもらえていなかった。
夫が心配しているのは、受精卵の結果だけ……
私の身体は、まったく心配されていない……
病院からの帰り道、ぽろぽろと涙がこぼれた。人目はもちろん気になる、我慢できるものならしたかった。
やっとの思いで帰宅し、横になった。
起きたら、義理の母へ電話をしよう。我々、夫婦のトップシークレットを、勝手に夫の母親にバラすことに、罪悪感がのしかかる。
でも、もうこんな気持ちを、自分の中で抱えきれない……このままでは、夫と一緒にいられなくなる…
これまで何度も何度もするかどうか迷った、カミングアウトのときが近づいていた。
目を閉じた。
閉じた目から、涙がにじんだ。
