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中2の娘、漢検準二級で上白糖に泣く


娘がさっきからレシピを見ながら、
首を傾げている。


「えっと……じょう? うえ? しろ? とう? ○グラム? なんだろ、これ?」


黙ってゲームをしていたパパが、顔を上げた。


「上白糖だろ! 普通の砂糖のことだよ!!」


娘は、またレシピを覗き込む。


「うーん……ぜん……??? 
うーん、粉? これはなんだろ?」


「全粒粉でしょーが!!!」


私も思わず口を出した。


するとパパが、呆れたように言った。


「お前さ、
それでよく漢検準二級受かったな(笑)」


私も、ほんとにそう思った。


信じられない。


娘がバレンタインのお菓子を
作ろうとしていた、いつかの話だ。


前年は、お友達の家で手伝って
もらいながら作ってきた娘。


今年は、自分で作るつもりらしい。


その横では、息子も興味津々。


二人でレシピを覗き込み、
何やら相談している。


私は最初、微笑ましく眺めていた。


…この時までは。


「オーブンね」


娘がクッキーを焼こうとしている。


「オーブンっていうのは……」


また、娘の手が止まった。


「クッキングシートって、なんだろ?」


息子がすかさず、


「ほら! ピザ焼くときに、
下に敷いてるやつじゃない? 
銀色の」


娘は、


「あぁ、そうかな。
でも、
あれはアルミホイルじゃないの?」


私は黙って聞いていたが、
だんだん嫌な予感がしてきた。


「ねぇ。
オーブンで焼くって書いてあるからって、クッキングシートをトースターに敷いて焼いたりするつもりじゃないでしょうね?」


「え? 違うの?」


本気で分かっていない。


「じゃあ、
オーブンなんてうちにはないじゃん!」


そして少し考え、


「あ、魚焼きグリルで焼けばいいのか」


やめて。


私は慌てて止めた。


「馬鹿者! 
電子レンジは温めるだけの道具じゃないのよ!」


オーブン機能がちゃんとあることを説明し、


「火事でも起こしたら大変だから、
間違ってもママがいないときに、
こういうことをやらないで頂戴!」


と、念を押した。


本当に、なんにも知らない。


小さい頃には、
一緒にクッキーも焼いた。


スイートポテトだって作った。


なのに、全部忘れているらしい。


よりによって、
魚焼きグリルで焼こうとしている。


娘は基本的に、
家事の手伝いを何もしなかった。


料理も、洗濯も、掃除も。


全部、私がやっていた。


そんな娘を見て、私の母は、
いつも私にぼやいていた。


「女の子なのに、
何にもやらせないから……」


半分は呆れたように。


でも、もう半分は違った。


「そんなふうに何にもやらせないでいる、あなたの躾が悪いんじゃないの?」


そう責められているような気もした。


私は、そのたびに少し耳が痛かった。


でも、当時の私は、
それほど気にしていなかった。


学生の本分は勉強。


学生のうちは、勉強をしていればいい。


家事なんて、
必要になれば勝手にできるようになる。


そんなふうに思っていた。


それに、娘に家事をさせるより、私がやってしまったほうが早い。


そうやって私は、娘が自分でやる前に、何でもやってしまっていた。


それで何の問題もないと思っていた。


まさか、そのツケをバレンタインの
レシピで見ることになるとは。


しかも娘は、昔から少々危なっかしい。


中学二年生にもなって、階段で派手に転倒したことも、すでに二回。


本人は何かというと、


「わかってる!」


と怒る。


いやいや。


たぶん、分かってない。


私は、娘が困らないように。


危ない目に遭わないように。


失敗しないように。


ずっと先回りしてきた。


それが親心だと思っていた。


でも今振り返れば、
娘が自分でやる機会を、
私が減らしてしまったのかもしれない。


私の母が言っていた、


「女の子なのに、何にもやらせないから……」


という言葉が、今になって少し分かる。


恥ずかしながら、
そのように育てたのは、この私なのだ。


それは分かっている。


分かっているけれど。


漢検準二級。

それなのに、上白糖で止まる。


……娘よ。


家事も大事だけど、
漢字の勉強も、
もうちょっとしておこうか。


と思った、いつかのバレンタインでした。


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