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「この子はいい顔してる」6歳の娘を見て、神主が唸った


あれは、娘が6歳の夏だった。

生まれたばかりの息子をベビーカーに乗せ、娘を連れて、山の上にある神社の夏祭りへ行った。

当時、パパはサービス業で、帰りも遅かった。
土日だからといって、家にいるわけでもない。

だから私は、子どもたちを連れて、近所のお祭りやバザーなどにせっせと出かけていた。

遠くまで行かなくてもいい。

子どもたちが「今日はどこ行くの?」と楽しみにしてくれれば、それでよかった。

この日も、そんな母子のお出かけのひとつだった。

その神社は、普段はとても静かだった。

というか、静かすぎる。

誰かがお参りしているところなんて、ほとんど見たことがない。

でも、その日は夏祭り。

いつもはひっそりしている境内に人がいて、本殿の前には神主さんがいた。

せっかくだから、お参りしていこう。

私は6歳の娘に神社でのお参りの作法を教えながら、本殿の前に立った。

「こうやってお辞儀してね」

なんて教えながら、娘と一緒に手を合わせる。

お参りを終えると、神主さんがお祓いをしてくれた。

白い紙の束のようなものがついた棒を、娘の頭の上でサッサッと振ってくれる。

ここまでは、何の変哲もない夏祭りの一場面だった。

ところが。

お祓いを終えた神主さんが、娘の顔をじっと見た。

真顔で。

……じーっと。

私は、

「……?」

となった。

何か変なところでもあるのかしら。

そう思っていると、神主さんが娘の顔を見たまま、唸るように言った。

「この子は、いい顔してる」

……え?

私は一瞬、何と返していいのか分からなかった。

「ありがとうございます」

そう言って、その場を離れた。

それだけだった。

そのときは。

「娘を褒めてもらったんだな」

くらいに思っていた。

ところが、なぜだかあのひと言が、心のどこかに引っかかった。

「かわいい顔をしてる」でもない。

「美人だね」でもない。

「この子は、いい顔してる」

なんだろう。

あの人は、娘の何を見て、そう言ったんだろう。

その場では、それ以上考えなかった。

でも、心の片隅にポツンと残った。

そして、それは何年経っても消えなかった。

笑われるかもしれないけれど、私は時々思った。

この子、何か持ってるんじゃないかな。

もちろん、何の根拠もない。

ただの母親の勘というか、思い込みというか。

でも、娘のこれまでを振り返ると、あの言葉を思い出さずにはいられない。

娘には、いわゆる「順調な人生」と呼ばれそうな道だって、いくらでもあったと思う。

慶應大学を出て、優良企業に勤める。

親としては、そんな道を歩いてくれたら安心だと思う。

ところが娘が選んだのは、そんな分かりやすい道ではなかった。

自衛隊の幹部になり、過酷な訓練に耐え、大きな艦に乗って地球を回った。

そして、3年で辞めて帰ってきた。

「さて、次は何をするのかしら」

と思っていたら、今度はワーキングホリデーで1年間ヨーロッパへ。

ヨーロッパ中の国々を巡り、パブを見て歩いた。

……普通、そこを見て歩く?(笑)

そして今。

自分の酒場を持つという夢に向かって、孤軍奮闘している。

まだ発展途上。

何ひとつ完成していない。

でも、振り返ってみれば、ずっと自分の「面白そう」を追いかけている。

そんな娘を見ていると、やっぱり思う。

あの神主さん、あの日いったい何を見ていたんだろう。

▶︎ 娘のその後――慶應大学から自衛隊、そしてヨーロッパへ行った話はこちら

そして、もうひとつ不思議なことがある。

その後も私は、毎年その神社の夏祭りに出かけた。

子どもたちを連れて。

でも――

あの神主さんには、二度と会わなかった。

その年、一度会ったきり。

お祓いをしてくれる神主さんが本殿の前に立っていたのもあれきり。

あの日、たまたま娘を見て、たまたま口から出た言葉だったのかもしれない。

神主さんが何を思ってあんなことを言ったのかなんて、私には分からない。

それでも、あのひと言は今も心のどこかに引っかかったままだ。

娘が何かを決めるたび。

何かに夢中になるたび。

人とはちょっと違う道を選ぶたび。

私は、ふと思う。

「……やっぱり、この子、何か持ってるのかな」

我ながら、根拠のない話だと思う。

でも、親って案外、そういう根拠のないことを信じてしまうものなのかもしれない。

あの日から、ずいぶん遠くまで来た。

でも、まだ途中。

娘がこれからどこへ行くのか、私にも分からない。

だから私は、あの神主さんの言葉の答えを、まだ探さない。

答え合わせは、娘の人生がもう少し進んでから。

それまでは、母親席から。

あの「いい顔」の続きを、もう少し見ていようと思う。


娘が幼かった頃の記事はこちら👇️


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