「ママとパパを見つけたの」2歳の娘が話した、生まれる前の記憶
「姫はね、赤ちゃん屋さんから来たの」
2歳を過ぎたころ、長女が突然そんなことを言いました。
「赤ちゃん屋さんって、どこにあるの?」
そう聞くと、
「そこでね、どこに行こうかなーって見てたの。
で、ママとパパを見つけて、あそこに行こうって思ったの」
と、娘は言うのです。
さらに娘は、自分が生まれてきたときのことまで話し始めました。
「トンネルみたいなところをね、
こうやって回りながら、
よいしょって出てきたの」
……え?
2歳の子が、どうしてそんなことを知っているの?
これは、長女が2歳のころに話してくれた、不思議な記憶の話です。
よくしゃべる、育てやすい子だった
姫は今年25歳になりました。
初めての子育てだったので、当時は何が普通なのかわからず、毎日必死でした。
でも今思うと、この子はとても育てやすい子だったと思います。
言葉を話すのも早かった。
ママより先に「パパ」と言ったのは少し残念でしたが。
私の両親にとっては初孫。
私の妹たちにも、まるで動くお人形のように可愛がられ、大人に囲まれて育ちました。
だから言葉も、大人との会話の中でずいぶん覚えたのかもしれません。
そんな娘だったから、2歳になったころには、こちらが何気なくした質問にも、思いがけない答えが返ってくるようになっていました。
「姫は、ここのおうちに来る前はどこにいたの?」
私は、何も知らない幼児相手に無茶ぶりをするのが好きでした。
ある日、娘に聞いてみました。
「ねぇ、姫はここのおうちに来る前はどこにいたの?」
娘は少し小首を傾げて考え、
「赤ちゃん屋さん」
と言いました。
「え? 赤ちゃん屋さんってどこにあるの? どんなところ?」
すると娘は、自分の知っている町の名前を答えながら、
「そこでね、どこに行こうかなーって見てたの」
と言いました。
そして続けて、
「でね、ママとパパを見つけたの。
それで、あそこに行こう!って思ったの」
と。
娘の話によると、そこにはたくさんの赤ちゃんがいて、それぞれがどこに行こうか行き先を探しているんだそうだ。
2歳の子どもの空想だと思えば、それまでです。
でも、その後の話には驚きました。
「トンネルみたいなところを、こうやって…」
娘がさらに付け足すように言いました。
「あのね。
トンネルみたいなところをね、
こうやって回りながら、
よいしょって出てきたの」
そう言うと娘は、肩を縮め、首をうねうねさせながら、その場でくるくる回ってみせました。
……え?
私は後日、妹たちに聞きました。
「ねぇ、赤ちゃんがどうやって産道から出てくるかって、姫に教えた?」
もちろん妹たちは、
「そんなこと言うわけないじゃん」
と口をそろえました。
当時、妹たちは未婚で、出産経験もありません。
そもそも、2歳の娘にそんな話をする理由もない。
じゃあ、誰から聞いたの?
私は出産前に、育児書や出産に関する本を読んでいました。
赤ちゃんが産道を通るとき、体を回旋させながら生まれてくることも知っていました。
でも、出産中の私はそんなことを考える余裕などありません。
痛い、苦しい。
鼻の穴からメロンが出てくるような感覚。
それしか覚えていない。
だからこそ、娘の説明と動きには本当に驚きました。
娘は、覚えていたのだろうか
「赤ちゃん屋さん」の話だけなら、
子どもの豊かな空想なのかもしれません。
でも、
「トンネルみたいなところを回りながら出てきた」
という話は、あまりにも具体的でした。
誰かに教わった形跡もない。
本で読んだわけでもない。
私はスピリチュアルなことを何でも信じるタイプではありません。
だからこそ、余計に不思議でした。
これは、娘自身の記憶だったのだろうか。
胎内にいたころの記憶なのか。
生まれてくるときの記憶なのか。
それとも、私たち大人には理解できない2歳の子どもの想像なのか。
真相はわかりません。
いつの間にか、娘は忘れてしまった
その後、一年、二年と過ぎてから同じ質問をしてみました。
でも、娘が同じことを話してくれることは二度とありませんでした。
成長するにつれて、忘れてしまったのかもしれません。
試しに、二番目の子が2歳になったときも、同じ質問をしてみました。
「坊は、ここのおうちに来る前はどこにいたの?」
でも息子は、
「わかんなーい」
で終わり。
赤ちゃん屋さんの話も。
生まれてくるときの話も。
何もありませんでした。
だから、あのとき娘が話していたことは、今でも私の中にだけ残っています。
「ママとパパを見つけたの」
2歳だった娘は、あれからずいぶん大きくなりました。
「ママとパパを見つけたの」
そう言っていた娘は、その後、反抗期を迎えました。
本気でぶつかり、腹が立ったこともあります。
そして大人になった娘は、20年間使った机を残して家を出ました。
あの頃の娘は、今ではもういません。
でも、あの小さな声で話したことだけは、今でもはっきり覚えています。
「ママとパパを見つけたの」
本当にそうだったのかどうかは、わかりません。
もう本人も覚えていません。
それでも。
もし本当に、たくさんの行き先の中から、
「ママとパパのところに行こう」
と決めて来てくれたのだとしたら。
それは、なんだか嬉しい話だなと思うのです。
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