道徳教材「埴生の宿」を新しいタイプの道徳授業で考えると…
道徳教材「埴生の宿」の新しいタイプの授業を紹介します。
心に残ったことを話し合って考えを深める展開です。
この教材では、小さい頃の出来事で感情と言葉を失った生徒に対して、学級全員が一緒になって励まし続けます。
一人の生徒のために、勝ち負けを捨てて、心を込めて行動する感動的な話です。文章は担任教師の目線から綴られています。
内容項目は「思いやり、感謝」です。
本教材からは、担任と学級全員が一人の生徒に対して、勝ち負けを越えて行動する様子を通して、人の思いやりの力について考えを深めてほしいという意図を想像することができます。
みなさんは、どのような授業展開を考えますか?
本稿では、「考察探究型の道徳授業」という新しいタイプの道徳授業を紹介します。
これまでの授業とは異なり、
現在の活動で話し合われた内容が次の活動の材料となり、
次の活動で話し合った内容がその次の活動の材料になる
「重層的な授業構造」に特徴がある展開方法です。
具体的には、「教材内容の抽出」「抽出した内容の考察」「考察した内容の俯瞰」という三段階の学習過程を通して、価値について考えを深めていきます。価値を深く考えることができる展開方法です。
「考察探究型の道徳授業」は、次の書籍で詳しく説明しています。
☆授業構造を詳しく知りたい方は、こちら。
考察探究型の道徳授業には、17種類の授業類型がありますが、そのうち「心に残ったことを考える展開」と言う展開パターンを用いて授業を構成しています。
この展開方法では、
1 教材内容から心に残ったことを取り上げる
2 その内容が心に残った理由を話し合う
3 それらの共通点、つながる思い、人物の考えなどから、人の生き方などを想像する
という思考活動を体験することができます。
それによって、
どんな言動が人の心を動かすのか
なぜ、人の心が動くのか
人の言動からは、どのような思いが読み取れるのか
そうした思いや考えをするのはなぜなのか
どうしたら、そうした生き方ができるのか
などの思考方法を身に付けることができます。
教材のすばらしさを最大限に活かす授業を目指しています。
「俯瞰の力で学びを深める」新しいタイプの授業をぜひ体験してみてください。
この授業では、次のような流れで学習が進みます。
1 苑子の様子や学級の様子で、心に残ったことを教材から取り上げる。
はじめに、「傷ついた生徒」と「その学級の生徒」の様子を確認し、その様子を教材文から取り上げます。
2 取り上げた内容が、心に残った理由を話し合う。
次に、それらの様子について感想を述べ合います。
本教材は長文のため、1と2の活動を場面ごとに行います。
3.全体を俯瞰して「人が人を思いやる理由」について話し合います。
生徒にとって大切な「合唱コンクール」と「学級リレー」の「勝負」を捨ててまで、一人の生徒を励ます活動を続けたことを例に、人が人のために行動できる理由を考えます。

導入では、「埴生の宿」の曲について知る活動をします。
まず、「埴生の宿」のメロディを視聴します。
続いて「『埴生の宿』を聞いてどんな感じがしましたか?」と問いかけます。
生徒からは「優しい感じがする」「聞いたことはある」「美しい旋律だ」などの意見が出ることでしょう。
この曲は「ビルマの竪琴」など、数多くの映画で使われました。イングランド民謡で「ホーム・スイート・ホーム(楽しき我が家)」という題名でも知られています。
続いて、「人の思いやる力について考えてみよう」という学習課題を確認します。
展開前段の活動です。
本教材は、①小4の事件と苑子の様子、②埴生の宿を歌ってあげる部分、③合唱コンクールの場面、④運動会のリレーの場面、⑤苑子の回復とその後の様子に分けられます。
はじめに、あらすじを話します。
次に、「教材を読んで、心に残った、印象に残った内容に線を引きながら読みましょう」と指示します。
まず、心に傷を負っている生徒の様子と、その生徒を励ます学級生徒の様子を取り出します。
そして、そうした様子に対する感想を述べ合います。
本教材は長文のため、5つの場面に分けて、教材を読んで心に残った様子を発表し、感想を述べ合う活動を行います。
それぞれの場面では、まず、「この部分で心に残ったことはありましたか?」と発問して内容を取り出します。(教材内容を抽出する活動)
はじめの場面では、「事件が苑子の言葉と感情をうばった」「下を向き言葉で反応しない」などの、苑子の様子が挙げられることでしょう。
苑子は、ある事件のために、酷い状態になっていることが確認できます。
次の場面では、「数名が、放課後に苑子のために歌を歌う」「毎日歌った」「歌う生徒が増える」ことが、心に残ったこととして挙がることでしょう。苑子の様子が気になり、学級の皆が苑子のために活動を始める様子が確認できます。
このようにして、5つの場面から心に残ったことを発表する活動を行います。
この活動には、心に残った内容を教材文から抽出し、一目で分かるように板書に整理することのほかに、書かれた内容の要点を確認するという役割もあります。どの学級にも、教材を一読しただけでは概要を理解できない生徒はいると思います。そうした生徒も、要点を確認することで、話の内容をしっかりと理解できるようになります。
続いて「心に残ったのはなぜですか?」と発問して、心に残ったと考えた理由を発表し合います。(抽出した内容を考察する活動)
はじめの場面では、傷ついた生徒の痛ましい様子が描かれています。
生徒は「言葉を失うなんて信じられない、よほどつらいことがあったのだろう」「首を振るだけの反応とはひどい。誰もが心配する」「掃除や当番が免除されるのも当然た、何とかしてあげたい」などの意見が述べることでしょう。
この活動によって「その生徒を励ましたい」と誰もが考えることでしょう。
次の場面では、その生徒のために担任と有志が「埴生の宿」を歌い始めます。その曲の一部を聴かせた上で、教材文を読んで話し合います。
生徒は「一人のために歌を歌うのはすごい」「みんなが協力するのがすごい」などの意見を述べることでしょう。三週間後にその生徒に変化が見られるようになったことにも感動することでしょう。
このような「感動した内容と感動した理由を発表し合う活動」を、合唱コンクールの場面、運動会のリレーの場面、成長してから場面でも行います。これによって、学級生徒全員が、この学級の生徒のすばらしさ、その子を大切に思う様子が理解されていきます。
本教材には、ほとんど見聞きすることがないような「すばらしい活動」の様子が描かれているのです。
こうした活動によって、「思いやり」の大切さと、その効果のすばらしさについて、学級生徒は深く考え、心が動かされることでしょう。
そして、全体を俯瞰して、人が勝ち負けを超えて人のために行動できる理由を話し合います。
まず、この学級生徒は、勝ち負けを超えて一人の生徒のためにできる限り尽くしたことを確認します。
そして、教師は「人が勝ち負けを超えて、人のために尽くすことができるのはなぜなのか?」を問いかけます。難しい問いですが、この教材のすばらしさによって、それは可能になります。(考察した内容を俯瞰して考える活動)
生徒は、当初は「友達だから」「何かしてあげたい」「人は優しい」などの一般的な意見を述べることでしょう。
しかし、話合いが進むと、「つらい様子を見ると、放っておけないのだと思う」「何かしてあげないと、気が済まない」「何かしないと、人として自分はダメだと思ったのではないか?」など、深く考えた意見が述べられるようになります。
人には、困っている人が気になり、何とかしてあげたいという願いが、誰の心にもあるのです。
教師は、そうした意見に共感した上で「みなさんには、そんな経験があったのですか?」などと、生徒の経験を想起させ、経験とリンクさせて意見を述べるように促します。
そうすると生徒からは「こんな時があって、その時、放っておくなんてできなかった」など、具体的な経験に基づいた意見が述べられるようになります。
「思いやり」の価値について、具体的な経験や行動を踏まえた考察が始まります。
このように話合いを導くことによって、生徒は「思いやり」の価値について、さらに深く、具体的に、経験を想起しながら、そうした場面を想像しながら話し合うことができ、考えを深めることができるのです。
展開後段では、人の「思いやる力」を感じた経験を発表し合う活動を行います。
具体的には「今までに、人の思いやる力を感じた経験はありますか?」と問いかけます。
生徒は、いろいろな経験を話してくれることでしょう。
その後、「皆さんは、人とどのように関わって、生ていきたいと思いますか?」と問い、思いやりに関して自分のこれからの在り方を考え、発表し合います。
これによって、価値を自分ごととして考えることができます。
終末では、学習内容を振り返り、共有する活動を行います。
具体的には、「人の思いやる力について、どんなことを考えましたか?」と発問して、考えたことを発表させます。
このような展開によって、「思いやり、感謝」の価値について深く考えることができます。
いかかでしょうか?
みなさんは、「埴生の宿」で、どんな授業を行いますか?
この授業は、次の授業案集に掲載しています。
考察探究型については、次の記事で詳しく解説しています。
授業効果を評価してみませんか?
授業効果の良し悪しについては、「道徳科感想分析法」で評価することができます。
道徳の授業は、他の教科と違って評価テストに当たるものがありません。
そのため、「授業の様子」をもって、授業の良し悪しが語られていた側面があります。
そのため、授業の焦点が「ねらいの価値」から大きく逸れている授業が多く見られていました。
著名な授業者の授業や授業案でも、時折そのようなものが見られることがあります。
道徳科感想分析法は、授業のねらいが達成されたかを客観的に評価する方法です。一度、確認してみるのはいかかでしょうか?
ダウンロードはこちらから
「埴生の宿」の授業案(B5版2頁)を購入したい方は、有料でPDFファイルをダウンロードできます。
*設定可能な最低価格にしています。
(主要指示、発問、板書案、教材作成の意図などを掲載しています)
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
