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音楽四季暦04|音楽の都、パリ

25ans Culture Club
「クラシック四季暦」 
第4回 音楽の都、パリ

Mai Takano | Text
first published in 2023

「どうすればクラシック好きになれますか?」

4月ははじまりの月。新しいこと――たとえば音楽など少々、と目を輝かせる人々に、こんなふうに問われる。

たしかに私はクラシックが好きだけれど、この質問にはちょっぴり戸惑う。家族の影響ではない。特別な経験をしたわけでもない。しいていえば「モーツァルトに恋をしたから」。それだけで、少女のあこがれの座に君臨してしまったのが、私にとってのクラシック音楽だからだ。

クラシックは王侯貴族のBGM。ピアノによりそう白シャツの男の子は王子様。なにより音符って、なんてかわいいんだろう━━。それはドレスやお菓子、ばらの花に憧れるのとまったく同じ感覚で、指南役も、少女マンガや映画や女性誌だった。

だから必然的に、わたしにとっての「音楽の都」はパリである。ウィーンやローマも好きだけれど、いちばんはパリ。だってパリ以上に、女性のあこがれを具現化した都市があるだろうか?

ご存知のとおりパリには、私たちをうっとりさせるアートとファッションとグルメとロケーションがそろっている。しかし、音楽の世界では、どこか脇役の印象がある。それがわたしには、もったいない。

なぜなら、この街が「音楽家たちの首都」だった時代が確かにあったからだ。モーツァルトもショパンもリストも━━ナポレオンが邪魔しなければベートーヴェンも、より世界的な名声を得るためにこの街を目指した。オペラ座でオペラやバレエを初演することは、成功の証だった。

ロシア出身のストラヴィンスキーもそのひとり。1913年、センセーショナルな『春の祭典』で一躍革命児となった作曲家とココ・シャネルとの恋愛は、「魂の共鳴」を重視するパリらしさの象徴だ。

2014年の春、わたしはふたりが出会ったパリにいた。わが音楽人生に大いなる影響をもたらした、東京フィルハーモニー交響楽団創立100周年記念ワールドツアーの一幕だった。ニューヨーク、マドリード、パリ、ロンドン、そしてアジア。オーケストラの随行記者として訪れた各地は、普段は見られないさまざまな表情で驚かせてくれましたが、なかでもパリでの体験は衝撃的だった。

美しいアール・デコ様式のサル・プレイエル。隣で黛敏郎の『BUGAKU(舞楽)』を聴いていた作家のクロード・イズナルが、ため息とともにつぶやいた「古代日本への旅ね」という言葉。ヴァイオリン協奏曲の第一楽章のおわりで、堪えきれぬように巻き起こった拍手と喝采。そうした熱気によって、張りつめた空気がまるで生物のようにまろやかに熟していった『春の祭典』。あふれる感情を、人々と共有したい。そういう聴衆の存在で、こんなにも音楽は変わるのだと、私はパリの人々に教えられた。

「魂の共鳴」こそが音楽なのだ。知識で語られがちなクラシックだが、そうではない。未知なる領域に果敢に踏み込んで、心地いいとか退屈だとか、人生が変わるくらい揺さぶられたとか、ありのままの心の動きを楽しみたい。

音楽の都パリを思い出すたび、そんな「原点」を心に刻む。




※本稿は、『25ans』2023年4月号に掲載された「クラシック歳時記」に加筆したものです。

(2023/2/28初出、2026/4/10加筆修正)

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高野麻衣 読んでいただきありがとうございます。新しい「物語」のため、大切にします。