SNS時代に、なぜアイドルはテレビへ出続けるのか
SNSが普及し、個人が自ら発信し、ファンを集め、広告収入を得られるようになった。
かつてはテレビや雑誌に出なければ、多くの人に知られることは難しかった。しかし今では、YouTube、TikTok、Instagramなどを通じて、個人が自分の得意領域やキャラクターを直接発信できる。実際、強い影響力を持つインフルエンサーも数多く生まれている。
それでも、テレビや雑誌を中心としたマスメディアで、インフルエンサーが既存のタレントやアイドルを大きく置き換えたとは言いにくい。
同じ「人前に出て発信する仕事」に見えても、SNSとマスメディアでは、求められる役割が大きく異なるからではないか。
そして、この違いを考えると、SNS時代にもアイドルがマスメディアで機能し続ける理由が見えてくる。
SNSとマスメディアは、似ているようで異なる市場である
インフルエンサーは、基本的に自分を選んで見に来た人へ価値を提供する。
フォロワーは、その人のファッション、考え方、生活、話し方、専門性などに関心を持ち、自らアカウントを訪れる。多少内輪的な表現があっても、その人を理解したファンとの間で価値が成立すればよい。
これは、個人とファンが直接つながるB2C型のビジネスに近い。
一方、テレビ番組や雑誌は、自分を選んでいない人にも見られる。
出演者を知らない人、関心がない人、場合によっては苦手に感じる人も含めた不特定多数に対して、短時間で役割を理解してもらい、番組や誌面全体の価値に貢献する必要がある。
さらに、マスメディアの収益を支えているのは広告主である。視聴者に面白いと思われるだけでなく、番組、テレビ局、出版社、広告代理店、スポンサーの意向や制約の中で機能しなければならない。
インフルエンサーが、自分自身を中心に置いたコンテンツを運営する存在だとすれば、マスメディアのタレントは、他者が設計したコンテンツの中で機能する存在である。
両者は似た芸能活動に見えても、異なる顧客と評価基準に最適化された、別の職能なのだと思う。
発信力があっても、テレビで機能するとは限らない
SNSでは、自分の個性を強く打ち出すことが価値になる。
自分の土俵へ来てくれたファンに対して、期待されているキャラクターや情報を提供し続ければよい。発信のペースも、編集も、文脈も、基本的には本人側が握っている。
しかしテレビでは、自分の話だけをしていればよいわけではない。
共演者の発言を受け、番組の流れを読み、短い時間で言葉を返し、時には自分を引くことも必要になる。知らない視聴者にも伝わる表現を選び、番組全体の目的に合わせて振る舞わなければならない。
自分を見に来てくれた人へサービスを提供する能力と、自分を選んでいない大衆の前で価値を出す能力は、必ずしも同じではない。
一時期、YouTuberやインフルエンサーが「話題の人」として多くテレビに出演した。しかし、その話題性が一巡した後も、マスメディアの中心的な出演者として定着した人は限られている。
これは、インフルエンサーの能力が低いという話ではない。
そもそも戦っている市場が違い、そこで求められるスタンスも違うということだ。
両方をうまく行き来できる人はいる。しかし、それは二つの市場が同じだからではなく、異なる二つの職能を持っているからだろう。
アイドルグループは、個人より大きく、事務所より小さい
ここで、アイドルという存在が特殊な意味を持つ。
通常のタレントは、個人単位でキャリアを積み上げていく。テレビ番組や雑誌がその人を起用するためには、演技力、話術、専門性、知名度、受賞歴など、「なぜこの人なのか」という理由が必要になる。
一方、アイドルには、グループという分かりやすいラベルがある。
「乃木坂46の新センター」
「今人気のカワラボ所属グループのメンバー」
「元○○の俳優」
このような紹介があれば、個人の知名度がまだ十分でなくても、その人がなぜそこにいるのかを短時間で説明できる。
アイドルグループは、事務所ほど広すぎず、個人ほど不安定でもない。
事務所名だけでは、その人がどのような存在なのかは伝わりにくい。一方、グループ名には、音楽、若さ、華やかさ、人気、ファン層、世界観といった意味がすでに含まれている。
つまり、アイドルグループは人の集まりであると同時に、メディアが扱いやすいキャスティングカテゴリーでもある。
グループブランドは、キャスティング理由を供給する
アイドルの強みは、知名度のある看板を個人へ貸し出せることだけではない。
アイドルグループは、定期的に「呼ぶ理由」を作り続ける。
新曲のリリース、新センターの発表、新メンバーの加入、ライブ、写真集、周年、卒業。通常のタレントが個人の実績や偶発的な話題を積み上げるのに対して、アイドルは仕組みとしてニュースを生産できる。
そして、その話題はグループだけでなく、個人にも分配される。
新曲を出せば、グループ全体で音楽番組に出演できる。新センターが決まれば、その人をインタビューやバラエティへ呼ぶ理由が生まれる。写真集を出せば、個人として雑誌や番組に登場する文脈ができる。
アイドルグループは、人材を供給するだけでなく、キャスティング理由も供給している。
この点は、賞レースのチャンピオンやファイナリストがテレビに呼ばれやすくなる構造にも似ている。
その人の能力を完全に説明しなくても、「今年の優勝者」「話題のファイナリスト」というラベルが、出演の理由になる。
アイドルは、そのラベルを一度ではなく、継続的に更新できる仕組みを持っている。
ブランドは、選定責任も引き受ける
マスメディアのキャスティングでは、視聴者に対する説明だけでなく、社内や広告主に対する説明も必要になる。
なぜ、この人を選んだのか。
なぜ、この番組や広告に起用して問題ないのか。
無名の個人を独自に発掘して起用する場合、問題が起きたときには、その選定自体が問われる。一方、知名度のあるアイドルグループの現役メンバーや卒業生であれば、一定の実績や活動歴を理由として説明しやすい。
グループブランドは、視聴者向けのネームバリューであるだけではない。
制作会社、テレビ局、広告代理店、広告主の意思決定を通すための信用補完でもある。
これは、グループに所属していたことが、本人の能力や人格を完全に保証するという意味ではない。
ただし、少なくとも起用側からは、大規模な現場を経験し、集団活動に適応し、一定の管理環境の中で活動してきた人材だと認識されやすい。
そのシグナルが、採用時の不確実性を下げる。
特に家族向けの番組やゴールデン帯、広告主の存在感が強い企画では、突出した面白さだけでなく、安心感や安定性も重要になる。
尖った企画では別の評価軸が働くとしても、多くの番組において、一定の管理と実績を持つ人材が選ばれやすい構造はあるだろう。
アイドルは、未完成のまま実践に投入できる
アイドルグループは、人材育成機関としても特殊である。
通常の新人タレントは、個人で番組や誌面に出られるだけの理由や能力を身につけてから、実践機会を得る必要がある。
一方、アイドルは、個人として完成していなくても、グループの一員として現場に出ることができる。
歌番組、バラエティ、ラジオ、雑誌撮影、ライブ、取材、SNS、ファンイベント。本人の能力が形成途中でも、グループのブランドと物語の中で実践経験を積める。
未完成であること自体も、「新人」「成長途中」「次世代メンバー」という価値になる。
そして活動の中で、カメラの前で話すこと、短い時間で印象を残すこと、他人の発言を受けること、集団の中で役割を果たすこと、スポンサーやファンとの距離を調整することを学んでいく。
アイドルグループは、完成した人材を集める場所ではなく、未完成の人材を市場へ出しながら育てる場所でもある。
自己主張と自己抑制を、同時に求められる
アイドルは、グループの中で自分のファンを獲得しなければならない。
SNS、ブログ、ミーグリ、ライブ、キャラクターづくりを通じて、他のメンバーとは違う個性を見せる必要がある。この部分は、インフルエンサーの活動に近い。
一方で、自分だけが目立てばよいわけではない。
グループ全体の秩序、先輩後輩、メンバー間の関係、番組進行、共演者とのバランスも考えなければならない。
目立たなければ埋もれる。しかし、全体を壊すほど目立ってはいけない。
自分の顧客を獲得する自己主張と、他者が作るコンテンツの中で機能する自己抑制。その両方を実践的に求められることが、アイドルをマスメディア向けの人材へ育てているのかもしれない。
卒業しても、「元○○」という職歴が残る
アイドルは一定期間に限定された存在である。
多くのメンバーは、いつかグループを卒業する。しかし卒業後も、「元乃木坂」「元AKB」といった二つ名は残り続ける。
この二つ名は、単なる過去の所属先ではない。
知名度、活動実績、現場経験、集団への適応、一定の管理下で活動してきたという複数の意味を持つ。
卒業直後は、グループの信用を個人が借りている状態とも言える。その後、俳優、モデル、司会、バラエティなどで固有の実績を積み、「元○○」を付けなくても出演理由が成立するようになったとき、初めて個人ブランドとして独立したとも考えられる。
一方で、全員がその二つ名を外す必要はない。
「元○○」という資産を活用しながら、一定のファンと継続的に関係を持つキャリアも成立する。
卒業は、箱から完全に切り離される瞬間ではなく、箱で得た信用と顧客基盤を個人へ移す過程なのだと思う。
卒業後は、二つの方向へ進むことができる
アイドルは在籍中、二種類の資産を蓄積している。
一つは、テレビ局、出版社、広告主などに対する業界内の信用である。
もう一つは、自分を直接応援してくれるファン基盤である。
前者を生かせば、俳優、モデル、司会、テレビタレントなど、マスメディア型のキャリアへ進むことができる。後者を生かせば、ファンクラブ、イベント、SNS、YouTube、グッズ販売など、ニッチなインフルエンサー型の活動を続けられる。
もちろん、在籍時のファンがすべて卒業後もついてくるわけではない。
ファンは本人だけでなく、グループ内での立場、メンバーとの関係、選抜、成長、卒業までの有限性も含めて応援している。そのため、卒業後には、グループが作っていた熱量のうち、どこまでが本人に帰属していたのかが明らかになる。
それでも、個人で芸能界へ入るよりも、すでに一定の顧客基盤を持って独立できる可能性は高い。
アイドルは、マスメディア型とインフルエンサー型の両方へ分岐できる、特殊なキャリア形成の場でもある。
卒業・加入型グループは、認知資産を世代間で継承する
さらに、卒業と加入を繰り返すアイドルグループには、通常のグループにはない強さがある。
一般的なグループは、メンバーとブランドが一体である。活動を終えれば、蓄積してきた認知や信用も、グループとともに失われやすい。
一方、卒業・加入型のグループは、ブランドを残したまま中身を更新できる。
グループ名は継続しながら、新しいメンバー、新しいセンター、新しい物語を生み出す。卒業によって節目を作り、加入によって次の成長物語を始める。
箱が個人に知名度を貸し、個人が外部で活躍することで箱の認知が維持され、その認知を次のメンバーが再び借りる。
これは、知名度と信用を世代間で継承する仕組みである。
ただし、その仕組みが機能するためには、単にファンが多いだけでは足りない。
非ファンであっても、グループ名を聞けば「人気のアイドル」「華やかな存在」「若い世代を代表するグループ」といった最低限の意味が共有されている必要がある。
詳しくは知らなくても、何者かは分かる。
その薄く広い認知が、マスメディア上でのブランド価値になる。
アイドルは、二つのメディア市場をまたぐ存在である
インフルエンサーは、自分を選んだファンへ直接価値を届ける。
マスメディアのタレントは、広告主や媒体の制約の中で、自分を選んでいない大衆にも価値を届ける。
アイドルは、その両方を在籍中から経験する。
個人としてはファンを獲得し、高いロイヤリティを持つ顧客基盤を作る。グループとしては、テレビ局、出版社、広告主が扱いやすいブランドの一員として活動する。
つまりアイドルは、個人ではB2C型の発信者であり、集団ではB2B2C型の芸能ブランドである。
そしてグループは、若手人材を未完成の段階から実践投入し、認知、経験、規律、ファン基盤を与え、現役中も卒業後も芸能市場へ供給する。
SNSが魅力的な個人を発見する仕組みを発達させても、広告主が安心して大衆の前に置ける人材を、継続的に育成し、意味づけし、供給する仕組みまでは完全には代替していない。
だから、SNS時代にもアイドルはマスメディアで求められ続ける。
アイドルグループは単なる人気者の集団ではない。
蓄積した社会的認知を失わずに、人材、物語、出演理由、信用を更新し続ける、マスメディア向けのブランド型人材供給システムなのだと思う。
【この記事が興味深かった方は、以下記事もおすすめです】
<おすすめ記事①>
SNSで広がった後、どうファン化するのか。カワラボの運営モデルから考えたい方はこちら。
<おすすめ記事②>
SNS発のコンテンツが、プラットフォームを超えてブランドになる条件が気になる方はこちら。
<おすすめ記事③>
マスメディアが弱くなった時代に『みんなが知っている』はどう変わるのか、音楽側から考えています。
#アイドル論
#SNS時代
#マスメディア
#インフルエンサー
#芸能界
#テレビ
#キャスティング
#ブランド戦略
#エンタメビジネス
#推し活
#乃木坂46
#櫻坂46
#日向坂46
#坂道グループ
#女性アイドル
#カワラボ
#FRUITSZIPPER
#CANDYTUNE
#CUTIESTREET
#note
#毎日note
#毎日投稿
