見出し画像

皮脂があるのに、頭皮は乾く。「脂っぽい」と「潤っている」は別の話。

夕方になると、髪が少し重くなる。

前髪がまとまる。
指で頭皮に触れると、わずかに油っぽい。
だから、自分の頭皮は「乾燥」とは無縁だと思っていた。

むしろ逆だ。

皮脂が多い。
もっときれいに洗った方がいい。
そう思って、シャンプーを念入りにする。

翌朝は、さっぱりしている。
ところが数時間すると、またベタつく。
そして、ときどき。

かゆい。

ここで、少し話がおかしくなる。
脂っぽいのに、つっぱる。
ベタつくのに、かゆい。
皮脂があるのに、乾燥しているような感じがする。
もし、「脂っぽい」と「潤っている」
同じ意味なら、これは説明できない。

でも皮膚は、そんなに単純ではない。
頭皮を触ったとき、私たちが分かりやすく感じるのは皮脂だ。
皮脂は、皮脂腺から分泌される脂質を中心とした物質で、皮膚表面の状態に関わっている。

一方で「潤っているか」を考えるときには、
角層にどれくらい水分が保たれているか。
皮膚のバリアが、水分を逃がしすぎていないか。

という別の要素が出てくる。

つまり、皮脂量と水分状態は、同じものを測っているわけではない。
油が多い。
だから、水分も十分。
この式は成立しない。


実際、2026年に報告された、皮脂量が多くフケのある中国人を対象とした研究では、頭皮は比較部位より皮脂が多い一方、水分量が低く、バリア機能も弱いという特徴が観察された。さらに、その集団では毛穴周囲の皮脂量が多いほど頭皮水分量が低いという関連も示されている。

もちろん、これは特定の集団を調べた研究で、
「皮脂が多い人は全員乾燥している」
という意味ではない。

でも少なくとも、ベタついている頭皮が、同時に水分不足の状態にあることは矛盾ではない。

ここが重要だ。

私たちは「触った感じ」で、頭皮を分類しすぎている。

顔なら、「インナードライ」という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれない。(いる?)

ところが頭皮になると、判断が急に雑になる。
ベタつく。
だから脂性。

カサつく。
だから乾燥。

二択だ。

でも実際の皮膚には、皮脂。
角層水分量。
水分蒸散。
バリア機能。
pH。
炎症。
微生物環境。
いくつもの要素が同時に存在している。


フケのある頭皮を調べた研究でも、皮脂が多いタイプと少ないタイプの両方で、健常群と比べて角層水分量の低下や経皮水分蒸散量(TEWL)の増加が観察されている。

「油っぽい」と「乾いている」は、反対語ではない。
同じ頭皮の中で、同時に起こりうる。

では、皮脂は悪者なのか。


ここで前回までのJOURNALを読んでいる人なら、
少し引っかかるかもしれない。

ISSUE 06では、「頭皮の皮脂は、本当に悪いのか」
という話をした。


今回、「皮脂が多くても乾燥する」と言っている。
では結局、皮脂はあった方がいいのか。
ない方がいいのか。

答えは、、

その二択自体が雑だ。

皮脂を含む皮膚表面の脂質は、皮膚の状態と無関係ではない。古い研究では、頭皮表面の脂質を除去すると表面水分量が低下したことも報告されている。一方で、過剰な皮脂やその組成は、フケや脂漏性皮膚炎などの頭皮環境とも関係する。
つまり皮脂は、「ある=悪い」でも、「ある=潤っている」でもない。

身体は善と悪だけでできていない。

「もっと洗う」は、どこまで正しいのか?


夕方、ベタつく。
だから夜、しっかり洗う。

この行動自体がおかしいわけではない。
頭皮を洗浄し、余分な皮脂や汚れを取り除くことには意味がある。
実際、先ほどの2026年の研究でも、一度のシャンプー後に表面および毛穴の皮脂量が低下している。

ただ、ここで目的を間違えない方がいい。
目指しているのは、皮脂をゼロにすることではない。

洗うことは、「何も残さない」ではない。
頭皮は醤油をこぼした床でも、ソースが残っている食器でもない。

生きた皮膚だ。

だから、洗った直後の「キュッとした感じ」だけで、頭皮の状態が良くなったと判断することもできない。

反対に、「洗いすぎると必ず皮脂が余計に出る」
と単純化することもできない。

大事なのは、皮脂の量だけを一つの指標として追いかけないことだ。


フケも、ひとつではない


白いものが肩に落ちている。「乾燥しているんだな」と思う。
これも、必ずしもそうではない。

フケには複数の要因が関わり、Malasseziaという酵母、皮脂、皮膚バリア、個人の感受性などが関係すると考えられている。

興味深いことに、先ほど触れた研究では、フケのある頭皮を皮脂量によって「低皮脂」と「高皮脂」に分けても、どちらにも水分状態やバリア機能の変化が見られた。

つまり、
フケがある → 乾燥。
ベタつく → 脂性。

という一対一の対応では、ない。

結局、頭皮は見えない。


顔なら、朝、鏡を見る。
乾いていれば気づく。

赤ければ気づく。

いつもと違えば、少なくとも見ることはできる。

でも頭皮は違う。
自分の身体なのに、ほとんど見たことがない。
だから私たちは、指で触った感覚や、髪のベタつき、
フケ、かゆみ、シャンプー後の感覚から、
見えない皮膚を想像している。

そして、一番分かりやすい情報に引っ張られる。

ベタついている。

だから、「皮脂が多い頭皮だ」そこまではいい。
問題は、その次だ。だから乾燥していない。

ここには、一段飛躍がある。

身体は、一つの形容詞では説明できない


脂性肌。乾燥肌。敏感肌。
私たちはそれっぽい名前をつける。

名前をつけると、分かった気になる。
でも実際の身体は、その分類より複雑だ。

皮脂が多くても、水分状態が十分とは限らない。
フケがあっても、原因が一つとは限らない。

かゆみがあっても、「汚れている」とは限らない。

頭皮も、髪も、肌も、身体も。

一つの状態だけで存在しているわけではない。
だから次に、夕方の頭皮に触れて、少しベタついていたとしても。
すぐに、「もっと落とさなきゃ」まで進まなくてもいいのかもしれない。

まず分かっているのは、皮脂があるということ。
それだけだ。
その下の皮膚が、今どういう状態なのか。

それは、別の話なのだから。


30秒でわかる|脂っぽい頭皮でも乾燥する?

します。

皮脂量と角層の水分状態は同じ指標ではないため、皮脂が多いことだけを理由に「頭皮は潤っている」とは判断できません。 実際、皮脂量の多い頭皮で低い水分量やバリア機能の変化が観察された研究もあります。
ベタつき、乾燥感、フケ、かゆみなどが続く場合は、「皮脂を落とす」だけで考えず、症状が強い・長引く場合には皮膚科へ相談することも重要です。


Azabu Re.TREAT

Azabu Re.TREATは、麻布十番のプライベートヘッドスパです。
頭皮を「皮脂が多い・少ない」だけで決めつけるのではなく、日常ではほとんど見ることのない頭皮や、自分自身のコンディションに少し意識を向ける時間をつくっています。
ヘッドスパは、脂漏性皮膚炎などの皮膚疾患を診断・治療するものではありません。

Azabu Re.TREATについて、もう少し詳しく知る

Brand Bookhttps://go.fliplink.me/view/99C87CAB-42B2-4BAD-83C4-EC3146AC9F47


ご相談やお問い合わせはお気軽に公式LINEからどうぞ。
▶ Azabu Re.TREAT 公式LINE
https://lin.ee/OK6p7a


PREVIOUS
ISSUE 14
「疲れて見える」は、何を見ているのか。顔の印象と身体の話。


NEXT
ISSUE 16
好きな香りが、しばらくすると消える。鼻はなぜ『慣れる』のか。

部屋に入った瞬間は、確かに香っていた。
でも、10分後にはほとんど感じない。
香りが消えたのか。
それとも、変わったのは自分なのか。
次は、嗅覚の「慣れ」を考えます。



REFERENCES
・Chen K, et al. Physiological Characteristics of Scalp Skin With High Sebum Production and the Impacts of Shampoo Cleansing.Skin Res Technol. 2026;32(8):e70376. PMID: 42584365.
・Turner GA, et al. Stratum corneum dysfunction in dandruff.Int J Cosmet Sci. 2012. PMID: 22515370.
・Lee YW, et al. Biophysical characteristics of dandruff-affected scalp categorized on the basis of sebum levels.J Cosmet Dermatol. 2020. PMID: 32757243.

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。強いかゆみ、赤み、湿疹、痛み、フケなどが続く場合は皮膚科などの医療機関へご相談ください。


いいなと思ったら応援しよう!