【勝手にコンサル】ZONeはモンスターを抜けるか? CRMとIP資産を「浸透率」へ接続する戦略
先日、公開情報だけを使ってau PAYカードの成長戦略を勝手に考える記事を書きました。
有効会員数、キャリア内での利用状況、検索量、競合カードの数字などを集め、「もし自分がこの案件を担当したら、どこを伸びしろと見るか」を考えた記事です。
思った以上にこの作業がおもしろかったので、勝手にコンサル第2弾をやります。
今回のお題は、サントリーのエナジードリンク「ZONe ENERGY」です。
きっかけは、ZONeのLINEに実際に登録してみたことでした。
商品についているQRコードを読み込むとポイントが貯まり、抽選やキャッシュバック、コラボ景品などに使える。ここまでは、飲料ブランドのキャンペーンとしてそれほど不思議ではありません。
ただ、登録時のアンケートを見て少し驚きました。
年齢や性別、職業だけではなく、「エナジードリンクをどれくらい飲むか」と「ZONeをどれくらい飲むか」を別々に聞かれます。さらに炭酸飲料全体の飲用頻度や、普段飲む炭酸飲料の種類まで取得していました。
つまり、カテゴリーをよく買うのにZONeはあまり買わない人と、そもそもエナジードリンク自体をあまり買わない人を分けられる設計です。
かなり高度なCRMです。
一方で、この仕組みを触っているうちに別の疑問が湧きました。
これだけ高度なCRMで、一人あたりの購買頻度を上げることは、本当にZONeがモンスターエナジーを抜くための最大の成長レバーなのでしょうか。
調べてみると、ZONeはすでに多くの人に試され、IPコラボを積み重ね、CRM、商品開発、ブランド資産、サントリーの流通基盤まで持っています。
だとすれば次に必要なのは、足りないものを新しく作ることではなく、これまで獲得した資産を「頻度」から「浸透率」へ接続することなのかもしれません。
そんな仮説から、勝手に考えてみます。
もちろん私はZONeの社内データも、本当のKPIも、コラボごとの費用対効果も知りません。
そのためこの記事では、確認できた事実、そこから比較的根拠を持って考えられる仮説、まだ検証できない仮説を分けながら進めます。
まず確認できる事実|ZONeは、もう「誰にも飲まれていない挑戦者」ではない
2026年6月にJMR生活総合研究所が全国20〜69歳の男女1,229人を対象に実施した調査では、直近3カ月に買って飲んだ割合は、モンスターエナジー10.0%、レッドブル・シュガーフリー8.0%、ZONe7.7%でした。
ここは最初に線を引いておきます。
この7.7%は市場シェアではありません。あくまで今回のインターネット調査における「3カ月内購入率」です。
実売では、2025年1〜12月のメーカー販売箱数を基準に、モンスターエナジーが国内エナジードリンクNo.1とされています。
ただ、同じJMR調査にはもっと興味深い結果があります。
前年調査ではモンスターエナジーが再購入意向を除く6項目で首位でしたが、2026年には「購入経験」と「今後飲みたい」でZONeなどに首位を譲っています。再購入意向でも首位のモンスターは58.2%で、上位ブランドはかなり小差です。
この調査だけで、「ZONeの浸透率がモンスター目前だ」と断定することはできません。
ただ少なくとも、
「知られていないから負けている」
「一度も飲まれていないから負けている」
「飲みたいと思われていないから負けている」
だけでは説明しづらい位置には来ています。
一度試してもらう力は、すでにかなり持っている。
これが今回のコンサルの出発点です。
確認できる事実|ZONeは、本当にIPコラボが多い
ZONeについて「コラボが多い」という印象を持っていましたが、公式サイトを追うと印象だけではありませんでした。
2026年8月26日時点で公式サイトの「CAMPAIGN / EVENT」に並ぶ直近10件を見ると、6件がエンタメIP関連です。
ウマ娘が2件、ドラゴンクエストが2件、『超かぐや姫!』が1件、『日本三國』が1件。
直近10企画のうち6件で、4つの異なるエンタメIPが登場しています。
前年を見ても、NIKKE、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』、DUSTCELL、クリエイターのNAKAKI PANTZ、神楽めあなど、ゲーム・アニメ・音楽・クリエイターとの企画が継続しています。
しかも、単にキャラクターを広告へ使っているだけではありません。
NIKKEとの企画では、HYPER ZONe3本とオリジナルタオルをセットにした限定パックを約7万パック、約1.2万ケース展開しています。
タフグミとのキャンペーンでは、対象商品を買ってQRコードを読み取り、15ポイントでヘッドホン、6ポイントでG-SHOCKへ応募する設計でした。
つまりIPや外部ブランドは、
購入する
→ QRを読む
→ IDに購買を紐づける
→ ポイントを貯める
→ 次の購入機会を作る
ところまで接続されています。
では、この大量のコラボと高度なCRMは、どんな成長を作っているのでしょうか。
ここからは仮説です。
根拠のある仮説①|ZONeは「購買頻度」を介入対象として強く見ている可能性がある
これはZONeが公式に「購買頻度が最重要KPIです」と明言しているわけではありません。
ただ、そう考えたくなる材料はあります。
今回私が登録した「Z-TANSANメンバーズ」では、カテゴリー全体の飲用頻度と、ZONe自体の飲用頻度を別々に取得していました。
これだけでも、
「エナジードリンクはよく飲むがZONeは少ない」
「カテゴリー自体をあまり飲まない」
「ZONeを頻繁に飲む」
といった状態を分けられます。
過去のキャンペーンも、購入回数を動かせる設計になっています。
2025年の「ZONe MEMBERS BOOSTER CUP」では、友人をLINEへ招待しただけでは成果になりません。新規会員がZONeを1本以上購入し、缶のQRコードを読み込んで初めて招待ポイントとしてカウントされました。
同年の「超覚醒学割」では、22歳以下の学生を対象に、30円分のキャッシュバッククーポンを原則1日1回、長期間にわたって付与しています。
IDを取得する。購入を確認する。次の購入を促す。
さらにサントリー全体でも、LINE公式アカウントの友だちを「熱量の高い方」と捉え、継続的なコミュニケーションによるファン化を進めています。
したがって、一人あたりの購入回数や継続購買を重要な介入対象の一つとして見ている可能性は高いと私は考えます。
ただし、「ZONeが浸透率より頻度を優先している」「社内の最重要KPIが頻度である」とまでは分かりません。
そこは未確認です。
その頻度は「原因」なのか、それともブランドが小さい「結果」なのか
ここで、エビデンスベーストマーケティングの知見を当ててみます。
消費財では、ダブルジョパディという購買行動の規則性が繰り返し確認されています。
簡単に言えば、小さなブランドは大きなブランドより購入者が少なく、その購入者の購買頻度などのロイヤルティ指標も少し低くなる傾向があります。
ここで注意したいのは、
小ブランドは頻度が低い
↓
だから既存客の頻度を上げれば大ブランドになれる
とは限らないことです。
頻度差の一部は、ブランドが小さいことに伴って生じている結果かもしれません。
Ehrenberg-Bass Instituteも、成長ブランドではカテゴリー購入者の獲得が既存顧客の離脱抑制より大きく寄与し、研究例では獲得側の寄与がおよそ2倍だったと整理しています。
だから私なら、
「ZONeをすでに5本買う人に6本買ってもらう」
だけを成長の主戦場にはしません。
年間ほとんど買わない大量の人が、ある期間に0回だったところから1回買う。普段はモンスターを選ぶ人が、そのうち1回だけZONeも買う。
一人ひとりの変化は小さくても、それを大量のカテゴリー購入者で起こす。
こちらを狙います。
根拠のある仮説②|キャラクターIPは「総リーチ」ではなく「増分リーチ」で評価した方がいい
次に、IPコラボです。
ここではウマ娘、NIKKE、ドラゴンクエストなどのキャラクター・エンタメIPと、後で触れる商品開発型のコラボを分けます。
キャラクターIPを使う大きな価値の一つは、そのIPがすでに持っている注意とオーディエンスへ入れることです。
だから私なら、評価したいのは単純な総リーチではありません。
「そのIPだったから、新しく届いた人は何人いたか」です。
ゲームエイジ総研の過去調査では、『ウマ娘 プリティーダービー』のユーザーは男性85.6%で、中心は20〜30代男性でした。『勝利の女神:NIKKE』も男性が90%以上で、20〜30代男性だけで約7割を占めていました。
これは、ウマ娘ユーザーとNIKKEユーザーが実際に大きく重複している証拠ではありません。
IP間の実ユーザー重複率は公開されていないからです。
言えるのは、複数の主要コラボ先が人口統計的には似た層へ強いため、総リーチと増分ユニークリーチの差を確認する価値があるというところまでです。
100万人へ届くIPと5回組んでも、毎回違う100万人なら500万人へ広がります。しかし、多くが過去のZONe接触者なら、新しく増えた人数はもっと小さい。
キャラクターIPコラボのKPIを、
「何万人に届いた」
「何件応募された」
だけで終わらせず、
過去のZONe接触者を除いた増分ユニークリーチ、新規購入者、キャンペーン終了後の購入
まで追いたいところです。
IPコラボによる一時的な獲得と、その後の定着が別であることを考える参考例もあります。
NIKKEが『チェンソーマン』とコラボした際には若年男性ユーザーが大きく増えましたが、コラボ終了前からユーザー数が減少し、終了後には多くの年代で開始時を下回りました。
もちろんゲームと飲料ではカテゴリーが違うため、そのままZONeへ一般化はできません。
ただ、「IPが人を連れてくること」と「IPがいなくなった後にもブランド自体が選ばれること」は分けて測る必要があると考える材料にはなります。
IPコラボと「CEPを広げる商品開発」は別物として考える
一方で、「ZONe POWER MORNING ENERGY」や日清焼そばU.F.O.との共同開発は、ウマ娘やNIKKEと同じ種類の施策ではありません。
2025年に発売された「ZONe POWER MORNING ENERGY」は、「朝食代わり」「朝のアタマ・カラダの起動」という飲用場面を明確に設定しています。
カフェイン75mgに加えてエネルギーやブドウ糖、ビタミンなどを配合し、従来の炭酸エナジードリンクとは違う無炭酸の商品設計にしています。
日清焼そばU.F.O.との「U.F.O. ZONe ENERGY」はさらに分かりやすい事例です。
ZONe側の独自調査でU.F.O.とエナジードリンクの併買傾向などを確認し、「手軽にお腹を満たしながら、頭もフル回転させたい」というニーズを背景に、U.F.O.と一緒に飲むことを前提とした商品まで共同開発しています。
これは人気IPから注意を借りる施策というより、新しい購買場面とZONeを結びつける商品開発です。
カテゴリーエントリーポイント、略してCEPとは、消費者がそのカテゴリーへ入るきっかけになる状況や欲求です。
だから私なら、この2種類を明確に分けます。
キャラクターIPは、新しい人へ届くための「増分リーチ」の資産。
商品開発や異業種とのコ・ブランディングは、新しい購買場面へ入るための「CEP開拓」の資産。
目的が違えば、評価する数字も変えるべきです。
CEPを広げると、競争相手まで変わる
ただし、「朝」や「食事」へ広がれば無条件に成長するわけではありません。
CEPを広げた瞬間、競争市場そのものが変わります。
たとえば「朝の起動」を取りに行けば、比較対象はモンスターだけではありません。コーヒー、栄養系飲料、ジュースなど、すでに朝に強い別カテゴリーとも競うことになります。
「食事と一緒」を取りに行けば、お茶、水、炭酸飲料なども選択肢です。
つまり、ZONeブランド内で見れば新しい購入機会でも、飲料市場全体では既存需要の代替である可能性があります。
さらにサントリー全体で見れば、もう一段注意が必要です。
ZONe POWER MORNINGが1本増えても、その人が従来飲んでいた別のサントリー商品が1本減っていれば、ZONeブランドには増分でも、サントリー全体では増分になっていないかもしれません。
だから実案件なら、
ZONeの売上が増えたかではなく、サントリー飲料ポートフォリオ全体で増分利益が生まれたか
まで確認します。
CEP拡張はブランド戦略であると同時に、企業全体のインクリメンタリティの問題でもあります。
CEPは広げてもいい。ただし「何でもZONe」にすればいいわけではない
ここにはもう一つ反論があります。
朝、ゲーム、食事、勉強、スポーツ。
そんなに購買場面を増やしたら、ZONeが何のブランドか分からなくなるのではないか。
ただ、EBMでは、多くの関連するCEPとブランドを結びつけること自体は、メンタルアベイラビリティを高める方向だと考えます。
一方で、CEPは増やせば自動的に成長するものでもなく、どのCEPへ投資するかの優先順位付けが必要です。
問題は、CEPが増えることでブランドの意味が自動的に薄まることより、有限の予算を分散させすぎて、どの購買場面とも弱い記憶しか作れなくなることだと思います。
だから私なら、
CEPは広げる。でも、ブランドコードは広げない。
とします。
この点で、2026年のパッケージ刷新は興味深い動きです。
ZONeは定番5商品の「スイッチマーク」の大きさと位置を統一しました。公式にも「どの商品を手にとってもZONeブランドであることが一目でわかる」ようにしたと説明しています。
ゲームのときも、朝も、食事のときも、コラボ相手が変わっても、
「スイッチが入る=ZONe」
という記憶だけは毎回蓄積する。
入口は増やす。しかし、呼び出されるブランドは一貫させる。
この設計なら、CEP拡張とブランド識別は両立できます。
さらに、ZONeが新しい購買場面を開拓すれば、モンスター側も商品やコミュニケーションで追随できます。実際、モンスターはグローバルで多数の商品ラインやカルチャー接点を持つブランドです。
だから、先に「朝」や「食事」へ入ること自体は長期的な参入障壁にはなりません。
新しい入口を増やしながら、その接触をスイッチマークのようなZONe固有のブランド資産へ蓄積すること。
真似されても残るものを作る必要があります。
CRMは強い。でも「市場全体の実験装置」ではない
ここで、Z-TANSANメンバーズへ戻ります。
私は、このCRMを既存顧客の頻度向上だけではなく、マーケティングを学習するための実験基盤として使いたいと思います。
ただし、限界もあります。
LINEへ入り、QRコードを読み、アンケートまで回答する人は、市場全体から無作為に選ばれた人ではありません。すでに商品と接点を持つ、比較的関与の高い人である可能性があります。
だから会員をランダムに二つへ分けて、
「朝というCEPを訴求したら購入が増えた」
と分かったとしても、
一度もZONeを買ったことがないノンユーザーにも同じ効果が出るとは言えません。
会員内でランダム化できていれば、その集団内での因果効果は比較的きれいに測れます。
問題は、その結果を市場全体へ一般化できるかという外的妥当性です。
だからCRMの役割は限定します。
休眠層や準ライト層で、どのCEPやクリエイティブに可能性がありそうかを高速に探索するテストベッド。
まずLINE内で小さく実験する。
有望だった仮説は、次に広告、店頭、サンプリング、地域別施策など、ノンユーザーまで含む市場で再検証する。
CRMで仮説探索 → 市場で外部検証 → 大規模展開。
これなら、すでに作った顧客データ資産を活かしつつ、LINE会員だけに最適化する罠も避けられます。
D2Cの成功法則を、200円前後の飲料へそのまま持ち込むのも危ない
ZONeそのものはD2Cブランドではありません。
商品はコンビニ、スーパー、自動販売機などを通じて販売されます。
サントリー自身も、ソフトドリンクを小売店を介して消費者へ届けるBtoBtoCモデルと説明する一方、ZONeではLINEを使って消費者と直接つながり、そのデータを企画や施策へ活用していると説明しています。
つまり、
売る場所はマス流通。顧客接点はD2C的。
というハイブリッドです。
この仕組み自体はかなり面白い。
ただ、低単価の消費財に「一人を獲得し、その人のLTVを最大化する」というD2C型の考え方をそのまま当てると、経済性には注意が必要です。
McKinseyも、衝動購買型や平均バスケットサイズが小さい消費財では、顧客獲得や運用にかかるコストと利益を慎重に比較する必要があると指摘しています。
ZONe POWER MORNING ENERGYやU.F.O. ZONe ENERGYの希望小売価格は税別203円です。
もちろん、実際のCRM運用費、IPライセンス料、1本あたり限界利益、会員1人あたりの増分購入本数は公開されていません。
したがって、
「ZONeのCRMは採算が悪い」
とは言えません。
ただし、この価格帯の商品で一人の顧客を深く追い続けることだけを成長モデルにするなら、経済性の検証は必要です。
だからこそ、CRMの価値をLTV最大化だけに置かない。
市場で何が効くかを学ぶためのデータ基盤としても使う。
こちらなら、D2C的に獲得した資産とEBMは対立しません。
フィジカルアベイラビリティは「何台あるか」だけでは測れない
最後に、「思い出したときに買えるか」です。
サントリーのキャッシュレス自販機アプリ「ジハンピ」は、2026年6月末で2,000万ダウンロード、対応自販機21万台を突破しています。
なお、この21万台はサントリー自販機の総台数ではなく、あくまでジハンピ対応機の数です。
一方、コカ・コーラ ボトラーズジャパンは約65万台規模の自販機を展開しており、2026年6月からモンスターエナジーを1都2府35県の自販機へ順次導入し始めました。
これも、約65万台すべてにモンスターが入っているという意味ではありません。
したがって、
「ZONe21万台対モンスター65万台」
という比較はできません。
本当に知りたいのは、両ブランドの数値配荷率、加重配荷率、自販機での実配荷台数、コンビニやスーパーでのフェイシングです。
さらに飲料なら、単に店舗に置いてあるかだけでも足りません。
冷蔵棚でちゃんと冷えた商品が買えるのか。何フェイス確保されているのか。目に入りやすい位置にあるのか。欲しい味や容量が欠品していないか。
実案件なら、ここまで見ます。
公開情報ではZONeとモンスターの実際の店頭条件を比較できませんでした。
ただ、モンスターが2026年からコカ・コーラ ボトラーズジャパンの大規模な自販機ネットワークへ新しくアクセスし、「購入機会の拡大」を進めていることは、ZONeにとって無視できない競争変化です。
思い出せるだけでは勝てない。
飲みたい瞬間に、冷えたZONeが選べる。
そこまで含めてフィジカルアベイラビリティです。
勝手に考えていたら、サントリー自身もすでに動き始めていた
ここまで「私ならこうする」と勝手にコンサルしてきました。
ところが調べている途中で、一つかなり面白い事実を見つけました。
サントリー食品インターナショナルは、2025年3月28日に日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI)へ加盟しています。
EBMIの公式発表でも、同社との協働を通じて研究領域を広げていくとされています。
ここで、もう一度ZONe自身の動きを振り返ってみます。
定番5商品のスイッチマークを統一する。
従来のゲーム・デジタル文脈だけではなく、POWER MORNINGで「朝」という新しい場面へ入る。
U.F.O.との共同開発で「食事をしながら頭を動かす」という別の需要を探る。
サントリー全体ではLINEを使った高度なCRMを構築する一方、広告領域では複数メディアを横断しながらリーチ最大化を考える取り組みも進めています。
もちろん、これらがEBMを意図して設計されたのかは分かりません。
EBMIへ加盟したことと、個々のZONe施策に因果関係があるとも言えません。
それでも、外からEBMを当てはめて勝手に戦略を考えていたら、実際のサントリーも同じ方向へ動き始めているように見えてきました。
ここで今回の「勝手にコンサル」は少し意味が変わります。
今のZONeを否定して、別物へ作り替える提案ではありません。
すでに始まっているかもしれない変化を、さらに徹底するとしたらどうするか。
という提案です。
私なら、獲得した資産をEBMへさらに接続する
ここまで調べると、ZONeに必要なのは今までのマーケティングを否定することではないと思います。
キャラクターIPとのネットワークがある。
LINEとQRで購買につながるデータ基盤がある。
新しい飲用場面へ対応した商品開発も始まっている。
スイッチマークというブランド資産も統一され始めている。
そしてサントリーという巨大な販売基盤がある。
ジャイアントキリングに必要な部品は、かなり揃っています。
一方で、まだ分からないことも多い。
IP間の実オーディエンスがどれくらい重複しているのか。コラボによって何人の増分購入者を獲得できたのか。LINE施策で購買頻度が因果的にどれだけ増えたのか。ZONeとモンスターの実際の配荷・棚条件にはどれくらい差があるのか。
ここを推測で埋めるべきではありません。
だから私なら、今ある資産を残したまま、目的と評価方法をさらに浸透率へ接続します。
キャラクターIPは、応募数ではなく増分ユニークリーチと新規購入者を増やす資産へ。
商品開発やコ・ブランディングは、優先すべき未獲得CEPへ入る資産へ。ただし、隣接カテゴリーとの競争やサントリー社内でのカニバリゼーションまで確認する。
CRMは、既存ファンを深くするだけでなく、準ライト層で仮説を高速検証するテストベッドへ。
そこで見つけた仮説は市場全体へそのまま外挿せず、広告や店頭、地域実験で再検証する。
CEPは無制限に増やさない。市場規模、現在のブランドとの結びつき、競争状況から優先順位を決める。
そして、どのIPと組んでも、どの場面へ入っても、スイッチマークを中心としたZONe自身のブランドコードだけは一貫させる。
最後に、店頭と自販機で確実に買える状態までつなぐ。
モンスターファンを全員ZONeファンへ変える必要はありません。
年間に何度かエナジードリンクを買う大量の人が、そのうちたった1回だけZONeを選ぶ確率を少し上げる。
その小さな変化を、より多くのカテゴリー購入者で起こす。
これが、私なら狙うジャイアントキリングです。
すでにある資産を「ファン」だけで終わらせない
今回調べ始めたときは、「ZONeはコラボをやりすぎなのではないか」と思っていました。
実際にLINEへ登録すると、「購買頻度をコントロールしようとしすぎているのではないか」とも感じました。
しかし、調べるほど単純な批判ではなくなりました。
IPコラボは、新しいカテゴリー購入者へ届いているなら強い。
CRMも、増分を学ぶ実験基盤として使えば強い。
CEP拡張も、重要な購買場面を選んで記憶を作れるなら強い。
顧客データも、LTV最大化だけでなく市場理解へ使えば強い。
そして最後に分かったのは、サントリー自身がすでにEBMを研究する側へ入っていたことです。
問題は資産そのものではなく、何を最大化するために使うかです。
一人のファンをもっと深くすることを最終目的にするのか。
それとも、そこで得たデータ、接点、IP、商品、ブランド資産、流通を使って、より多くのカテゴリー購入者がZONeを買う確率を上げるのか。
私なら後者を選びます。
足りないものを新しく作るのではなく、ここまで積み上げた資産を、
「一人にもっと買わせる」だけで終わらせず、「もっと多くの人に買われる」ことへ接続する。
JMR調査では、直近3カ月購入率がモンスター10.0%に対してZONe7.7%まで来ています。
この数字だけで逆転が近いとは言えません。
それでも、購入経験、IPとの接点、CRM、商品開発、ブランド資産、流通という手札を考えれば、ZONeは「どうやって存在を知ってもらうか」だけを考える段階の挑戦者ではありません。
そして、今回私が勝手に考えた戦略の一部は、もしかするとサントリー自身がすでに進み始めている方向なのかもしれません。
だとすれば、次に見たいのは施策の数ではありません。
それぞれの資産が、本当に新しいカテゴリー購入者と増分売上を生み始めているのか。
ここです。
ジャイアントキリングを考えられるところまでは、もう来ている。
私はそう見ています。
プロフィール
マーケティング戦略コンサルタントです。
事業会社とコンサルティング会社の両方で、販売・CRM・データ分析・市場調査・需要予測・価格・広告・Webなど、マーケティングの上流から下流まで経験してきました。
このnoteでは、実務と研究を行き来しながら、仕事・キャリア・発信に使える再現性の高い考え方を紹介しています。
詳しい自己紹介はこちら。
自己紹介|実務とエビデンスから、マーケティングの本質を探しています
この記事がおもしろかったら、スキで教えてください。
おすすめ記事
au PAYカードは、なぜ検索されないのに1,000万人いるのか?
今回の「勝手にコンサル」シリーズ第1弾です。
〖10分でわかる〗CRMとは?顧客を育てるより大事だと思うこと
今回のZ-TANSANメンバーズにもつながる、CRMを「顧客育成」だけではなく企業側のマーケティング精度を高める基盤として捉えた記事です。
〖5分でわかる〗Double Jeopardy(ダブル・ジョパディ)とは
「小さいブランドの頻度が低いなら、頻度を上げれば成長する」と単純には言えない理由を理解するための基礎記事です。
参考URL
JMR生活総合研究所
「エナジードリンク(2026年7月版) 市場は混戦模様?『ZONe』は『モンスターエナジー』を超えられるか」
ZONe ENERGY「CAMPAIGN / EVENT」
ZONe ENERGY「ZONe MEMBERS BOOSTER CUP」
https://zone-energy.jp/campaign/2025/02/3250/
ZONe ENERGY「ZONe超覚醒学割2025」
https://zone-energy.jp/campaign/2025/04/3401/
ZONe ENERGY「タフグミコラボ 必勝成就キャンペーン」
https://zone-energy.jp/campaign/2025/01/3080/
ZONe ENERGY「勝利の女神:NIKKE オリジナルタオル限定パック」
https://zone-energy.jp/campaign/2024/11/3023/
サントリー
「サントリーだからこそ実現できるデジタルを通した価値創造を目指して」
https://www.suntory.co.jp/recruit/media/articles/000135.html
LINEヤフー for Business
「LINEを“メディアの軸”に!サントリーが実践する『統合プランニング』×『サントリー流CRM』戦略とは?」
https://www.lycbiz.com/jp/case-study/line-official-account/suntory-02
ゲームエイジ総研「ウマ娘 プリティーダービー ユーザー分析」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000090.000039514.html
ゲームエイジ総研「勝利の女神:NIKKE ユーザー分析」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000114.000039514.html
ゲームエイジ総研「NIKKE×チェンソーマン コラボユーザー分析」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000129.000039514.html
ZONe ENERGY「ZONe POWER MORNING ENERGY」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000041.000074677.html
ZONe ENERGY「U.F.O. ZONe ENERGY」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000043.000074677.html
ZONe ENERGY「定番デザイン刷新」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000049.000074677.html
Ehrenberg-Bass Institute
「Effective brand growth: Acquisition or retention?」
https://marketingscience.info/news-and-insights/effective-brand-growth-acquisition-or-retention
Ehrenberg-Bass Institute
「Category Entry Points Dissected: How They Really Contribute to Growth」
https://marketingscience.info/category-entry-points-dissected-how-they-really-contribute-to-growth/
Ehrenberg-Bass Institute
「The Four Commandments: future proofing a brand’s identity」
https://marketingscience.info/news-and-insights/the-four-commandments-future-proofing-a-brands-identity
McKinsey & Company
「Should CPG manufacturers go direct to consumer—and, if so, how?」
https://www.mckinsey.com/industries/consumer-packaged-goods/our-insights/should-cpg-manufacturers-go-direct-to-consumer-and-if-so-how
サントリー
「ジハンピ 2,000万ダウンロード、対応自販機21万台超」
https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/2026/SBF1719.html
コカ・コーラ ボトラーズジャパン
「モンスターエナジーを自動販売機で販売開始」
https://www.ccbji.co.jp/news/detail.php?id=1861
コカ・コーラ ボトラーズジャパン「事業内容」
https://www.ccbji.co.jp/corporate/activity/
日本エビデンスベーストマーケティング研究機構
「新規加盟社のお知らせ ―サントリー食品インターナショナル株式会社―」
https://ebmi.jp/3776/
日本エビデンスベーストマーケティング研究機構「加盟社一覧」
https://ebmi.jp/list-of-member-companies/
日本エビデンスベーストマーケティング研究機構「組織図」
https://ebmi.jp/organization-chart/

