#005 戦友の離脱 ~全ては私の責任です...~
日々、世界の輪郭は少しずつ不確かなものになっていく。
昼下がりというにはあまりにも遅い時刻に、前触れもなく唐突に舞い込んでくる明朝のショートミーティングの、その八割までが残念なニュースであると言ってまず間違いない。そもそも、その不吉な予定をカレンダーにねじ込んでいるのはほとんど僕自身なのだから、それも当然といえば当然だった。人事に関するアナウンスというのは、事が正式に確定するまでは極めて慎重を期すべきである一方で、組織の円滑な運営を考えれば可能な限りスピーディーに進めなければならない。その終わりのない二律背反の狭間で、僕はこれまで何度同じような攻めぎあいを繰り返してきたことだろうと、ただぼんやりと井戸の底から空を見上げるような気分で振り返る。
スタッフの全員に向けて送り出したインビテーションに対する返信は驚くほど早い。そして画面の向こうで彼らが推察している大枠のシナリオは、驚くほど正確に的を射ている。静かに、しかし明らかに彼ら自身の鼓動よりも早く、彼らは互いに目配せをしながら、当事者である者の居所を探り始めている。それが本人にとって青天の霹靂であろうとも、あるいは長い苦悩の末の熟慮の結果であろうとも、これから行われる孤独な儀式の準備のプロセスが変わることはない。
……
ショートミーティングの参加者は大半がオンラインだった。オフィスに身を置いている者たちでさえ、それぞれの自席でヘッドセットを装着して冷たいプラスチックの塊のようにおとなしく座っている。定刻の一分前に接続を済ませ、ただじっと待つ。参加者の人数が多かろうと少なかろうと、その重苦しい第一声を自らの口から切り出すために、誰か背中を押してくれないものかと薄い期待を寄せながら、それでも最後はこれが自分の役割なのだという逃げ場のない後悔の念に苛まれつつ、ただ時を刻むパソコンのデジタル時計の向こう側を見つめる。その向こう側にただ佇んでいさえすれば、胸の奥底の何か大切なものが音を立てて零れ落ちずに済むような気がしていた。
「定刻を過ぎましたので……皆さん、おはようございます」
手元に気の利いた台本などあるわけもないというのに、僕は可能な限り、あらかじめ頭の中で丁寧に組み立てておいたスクリプトを、まるでどこかの見知らぬ誰かの手紙を朗読するかのように、その言葉を声に乗せた。
「今回、非常に残念なお知らせをせざるを得ません。達也さんが退社することとなりました。これまでのご尽力に感謝申し上げ……ると共に……」

そこで発せられた自分の声に追い越すようにして突然に押し寄せてきた感情は、心の防壁をあっさりと決壊させ、僕を安全な向こう側の世界から、むき出しの現実が横たわるこちらの世界へと一気に押し戻した。それと同時に、それはまるで制御を失った暗い洪水のように、激しく迸りながら音を立てて流れ落ちていった。
「すべては、私の責任です… 私の不徳の致すところ…に尽きます……」
僕はそう口にのせたつもりだったけれど、実際のところ、その言葉はただの乾いた空気の振動すら起こすことすらできなかった。
それに続く達也の挨拶はどこまでも淡々としており、そこには何ものにも揺るぎない強い決意があった。これまでの同僚や部下たちへの深い感謝の念と、そしてこれからの引き継ぎに対する固い約束が、一つひとつの言葉として丁寧にかたち作られていた。
僕の耳にはそれがまるで遠い国の荒野を走る深夜のラジオ番組から、ざらついたノイズにまじって流れてくるアナウンスメントのように響いていた。
確実に僕らの世界の輪郭は、静かな夜の浜辺に寄せては返す波のように、足元の砂ごとすうっと音もなく消えていった。
…
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