なぜ「マーケットイン」は、日本では当たり前で、海外では難しいのか
「マーケットイン」という言葉は、
日本ではあまりにも当たり前に使われている。
だから逆に、
それがどれほど特殊で、
どれほど再現が難しいかを、
私たちは意識していない。
日本の外食では、
「誰に向けた店か」を決めずに
メニューを作ることは、ほとんどない。
だが海外では、
その順番が簡単に逆転する。
この記事で扱うこと
マーケットインが、日本では「理論」ではなく「感覚」になっている理由
日本の外食が、料理の前に決めていること
海外で起きがちな「マーケットアウト」という状態
なぜメニューと物販を分けた瞬間に思想が崩れるのか
マーケットインに必要な「売らない勇気」
料理人の才能を、正しく機能させるために必要なこと
マーケットインは、特別な理論ではない
マーケットインというと、
市場調査やデータ分析を思い浮かべる人も多い。
だが、日本の外食におけるマーケットインは、
そうした理論以前に、
現場で身体化された思考様式だ。
この立地なら、昼は何分で食べ終わる必要があるか
この価格なら、どこまでの「丁寧さ」が伝わるか
この街では、どんな安心感が求められているか
こうした問いが、
メニューを考える前に、
ほとんど無意識のレベルで共有されている。
日本では、
「売りたいもの」より先に
「どう使われるか」を考える。
それが当たり前になっている。
日本の外食が“先に決めていること”
日本の外食は、
料理を決める前に、
実は多くのことを決めている。
誰が来るのか
いつ来るのか
どんな気持ちで入店するのか
食後、どんな状態で店を出てほしいのか
これらが曖昧なまま、
料理だけを磨き上げることはほとんどない。
メニューは主役ではない。
体験を成立させるための構成要素の一つにすぎない。
この順序感覚こそが、
日本の外食を支えてきた
マーケットインの正体だ。
海外で起きがちな「マーケットアウト」という状態
海外で日本食や和テイストの店を見ていると、
しばしば奇妙なズレを感じる。
市場調査はしている。
数字も見ている。
ターゲット設定もしている。
それでも、
どこか決定的に噛み合っていない。
この状態を、
私は 「マーケットアウト」 と呼んでいる。
市場を見ている“つもり”で、
実際には
思考が市場の外に出てしまっている状態だ。
市場は分析対象であって、設計の起点になっていない
顧客はデータであって、生活者として扱われていない
「売れる理由」より「売りたい理由」が先に立つ
結果として、
マーケットインを装った企画が生まれる。
だがそれは、
市場の内側には届かない。
メニューと物販を分けた瞬間、思想は崩れる
もう一つ、よく見られる分断がある。
それは、
メニューと物販を別物として扱ってしまうことだ。
日本の外食では、
食べる体験と持ち帰る体験は、
本来ひと続きのものとして設計されている。
店で感じた印象
味の記憶
その店らしさ
それを家に持ち帰るからこそ、
物販は「売り場」ではなく
体験の延長になる。
ここが分断された瞬間、
物販は在庫になり、
メニューは単なる商品になる。
海外で「日本らしさ」が
薄れていく原因の一つは、
この構造的な断絶にある。
マーケットインとは「売らない勇気」である
マーケットインを本当に実行するうえで、
最も難しいことは何か。
それは、
作りたいものを捨てる勇気だ。
有名だから
得意だから
過去に成功したから
そうした理由で残された要素は、
市場との接点を少しずつ失っていく。
日本の外食は、
「やらないこと」を先に決める文化が強い。
この判断ができなければ、
マーケットインは成立しない。
料理人の才能を、正しく機能させるために
今、世界の外食ビジネスに必要なのは、
新しいレシピではない。
料理人の才能を
正しく機能させるための
思考と設計である。
優れた料理人の存在は不可欠だ。
だが、その才能が最大限に発揮されるかどうかは、
料理の外側にある構造によって決まる。
市場をどう読み、
体験をどう組み立て、
どこで何を足し、
どこで何を引くのか。
そこが設計されて初めて、
料理は価値として立ち上がる。
日本の外食は、思想として輸出できる
日本の外食が世界で通用しないのではない。
通用しないのは、
料理だけを切り取ろうとする姿勢だ。
本当に輸出できるのは、
市場を読む順序
体験を設計する視点
メニューと物販を一体で考える思想
これらを含めた
思考のフレームそのものである。
レシピはいらない。
有名であることも、本質ではない。
必要なのは、
日本の外食が長年かけて
当たり前にしてきた
「考え方」を翻訳することだ。
それは、
確実に価値になる。
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