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それは見事なU字型を描いて~長崎のレストランチェーン『牛右衛門』をぜんぶめぐりたい 〜vol.6、7 諫早店→新戸町店ハシゴ編


令和のいまでも、長崎のレストランチェーン『牛右衛門(ぎゅうえもん)』は良い。けれど、そう感じる理由は「おいしいから?  懐かしいから?」とあいまいだ。県内9店舗をめぐり、「良さ」の解像度をあげる旅へ。

▼バックナンバーはこちら
vol.1 大塔店〜フォルクスもジョイフルもロイヤルホストも見送ってきた、大塔ファミレス界隈のドン〜
vol.2 佐々店〜その額に、輝く「FAMILY」を掲げて〜
vol.3 浜町店〜地下1階の秘密基地えもん〜
vol.4 東長崎店〜団地をのぞむ天空のギャラリー〜
vol.5 松浦店~アジフライランチ難民のオアシス~  


溜まっていた仕事をようやく終え、思い切り背伸びをした。だらっと休むか、気分転換に出かけようか。逡巡して「そうだ、牛右衛門めぐりだ」と思い立った。
まだ訪れていない店舗は4つ。諫早店、新戸町店、時津店、佐世保四ヵ町店だ。とはいえ、佐世保四ヵ町店は家から近いので今回はやめておく。たまたま長崎南部に固まっていた3店舗への経路をGoogleマップで検索した。すると、あることに気がついた。
「え、ちょっと待って。これ、ハシゴできるんじゃ?」

まず、諫早までは車で約1時間半として、諫早店から新戸町店までは車で約30分。さらにそこから時津店までは約30分と意外と近い。Googleマップで諫早店を始点に設定。続いて時津店を終点にし、経由地に新戸町店を追加した。画面には「牛右衛門」の文字が縦に3つずらりと並んでいる。
「何してんだ自分」と一瞬我に返るも、画面上に経路を示すブルーの線を見ておぉ、と確信した。少し脱線してはいるがU字型を描いており、ほぼ一筆書きでぐるっと回れることを示していた。一時間ほどあれば、牛右衛門を3店舗、ハシゴできるだと……!?  やれやれ、大人になってからこんな素敵な未来が待っていたとは世の中まだまだ捨てたもんじゃない。

「そうと決まれば出発だ」と子2を幼稚園に送り届け、高速に乗り込む。園の先生からの「いってらっしゃい」を頭の中で反芻しながら「実はわたし、今から、牛右衛門に行くんですよ」と目を細める。使命感を抱えたようなハンドルさばきで、青空ドライブに繰り出した。

さて、ここまで読んでお気づきだろう。本記事のタイトルには2店舗しか記載されていない。子らのお迎え時間に間に合わず、時津店は今回断念したのだ。
実際に訪れてみて、ゆったりと3店舗ハシゴするには半日が必要だと分かった。対して、お迎えまでのタイムリミットは4時間。「あれ?  往復だけで3時間で、ということは食事できるの1時間もない?」と気付いた時には、もうすでにステーキにかぶりついていた。
そもそもの時間がタイトすぎた。そのうえわたしは調子に乗って、メイン料理を2店舗立て続けにオーダーしてしまう。どちらかサイドメニューかスイーツにすればよかったのに、うっかり強欲を出してしまった。そして何より衝動に身を任せすぎた。でも後悔はしていない。

全方位ピカピカ牛右衛門【諫早店】

諫早店は、見通しのよい交差点の一角に位置している。大塔店と同じく駐車場の入口は2ヶ所。ファサードには松浦店と同じ、ピカピカの「Gyuemon」の文字が躍っている。全体的に彩度が高い気がする。

牛右衛門 諫早店。向かいには広めの歩道。ここの自販機は、通行人の注目を一身に浴びそうで存在感たっぷりだ
駐車場側から見てもピカピカ
ここが入口です

どの方向から見ても隙がない。アシュラマン(キン肉マンのキャラ)のように、全方位正面入り口みたいな佇まいなのだ。
あまりにまぶしいので「一番新しい店舗なのかな?」と公式ホームページでチェックしてみる。開店したのは平成13年で、令和元年に建て替えられたそう。“令和生まれ”の牛右衛門かぁ。建物としては一番若い。

※一番若いのは令和6年オープンの松浦店でした。一番若くてラグジュアリー。(2026.3.16追記)

令和生まれだけど、since1979の心構えは忘れない構え。どことなくデザインに佐々店のDNAを感じる

店内は木の素朴な風合いと、天井近くに設えられたワインのディスプレイがバルのような雰囲気も感じさせてくれる。壁には創立50周年大感謝祭のチラシが横一列に貼られており、気合がみなぎっている。

ヘリンボーン柄の壁にはデザイン装飾。まるでインテリアショップのようだ

さて、これから何を注文するか。実はここに来る前からわたしの心は決まっていた。創立50周年記念の限定メニュー「牛右衛門ステーキ」である。

スペシャルなメニューが特別価格でいただけるのだ!

地元グルメである「佐世保レモンステーキ」をいただきたいところだけれどまた次回に。なぜなら、「牛右衛門ステーキ」はお店の名前を冠する圧倒的シンボリックさを感じたうえ、“復活 数量限定”の文字が。完全に心を持って行かれた。牛右衛門の公式Instagramの投稿を見たときから。

平日、オープン直後にジュージューいわせる背徳感

周りをチラッと見ると、観光客らしき人は見当たらない。昼休憩のランチ客が大半で、お目当ては日替わりランチのようだった。
そんななか、ジュージューと音を立てて運ばれてくるステーキ。

牛右衛門ステーキ。オニオンスープとライスのセットをつけました
鉄板ステーキといえばこの白いやつ。昔からずっとマッシュポテトだと思っていたその名が「クリームメンデル」なのだと教えてくれたのは牛右衛門

「平日のオープン直後にジュージューいわせとるわ……」。誰も気にしていないと分かりつつも、一抹のうしろめたさを感じる。焼き石に肉を押し当てると威勢の良いジュワァァが鳴り響きビクッとする。あっ、なんか、なんか、ごめんなさい!!贅沢して、ごめんなさい!!

とはいえわたしは赤みが好きなので焼き石はほぼ使わない。音を聴くのは好き

クリームメンデルをとろりと絡めればなんとも言えない芳醇さ。熟成された希少部位「ザブトン」を使ったステーキなんだけど、お坊さんが座るめちゃくちゃ良い生地の綿がふかふかに詰まった座布団みたいな贅沢さを感じた。
一枚肉でやってくるので、自分の好みの厚みでカットすることができるのにも関わらず、自前の貧乏性からかチマチマ切って枚数を稼いでいた。が、最後は4センチ幅ほど残ったものを一口で食べた。飲み込んだあと、ふぅー、と眺めの吐息が出た。満足した。このオシャレな空間で、今度は甘いものを食べてみたいと思った。

会計後、店員さんがわざわざ内扉を開けてくれたので(外からおばあさんがゆっくり入ってくるのをわたしが待ってたからかもしれない)ありがとうございます、と軽く会釈した。停めた車に乗りナビを設定していると看板業者さんが作業をしているようすが窓から見えた。ベテランらしき男性が手元を軽やかに動かすのを、ステーキの余韻に浸りつつぼーっと眺めた。空は変わらず青い。ピカピカに輝く諫早店を背に、新戸町店へ出発した。


斜面地を利用した立体駐車場に「ウェーイ!」と声が出る。これぞ長崎

諫早市から長崎市の新戸町エリアへやってきた。ここの牛右衛門は、長崎市出身の友人が「親戚とよく食べに来ていた」と語ってくれた思い出の店舗だ。

長崎港の入江を東へ、工場や漁港といった暮らしの雰囲気を味わいつつナビに従い進む。白に赤文字で「牛右衛門 左折↑」と書かれた巨大な看板が見えてきたあたりから気持ちがうずうずし始め、そこからぐいっと、住宅エリアへ続くゆるやかな道をのぼる。カーブを曲がり切った先に立体駐車場が見えて思わず「ウェーイ!」と声が出た。

たたずまいがいいね!

時が沁みておる!!  斜面を利用して、上を店舗、下は駐車場に。長崎に来たなぁって感じがするな。しかもわざわざ、満車と空車がわかるような表示が出るの、すごくない?

1998年オープンの牛右衛門 新戸町店

さっそくいいものを見たなぁとすっかり舞い上がった。時間がなかったのも相まって、わき目も触れずに小走りで入店した。しかし、これがのちに大きな見落としに繋がったのである。

この部分だけミニチュアにして販売してほしい

初めて見る形の座布団にふるえる

グレイヘアが素敵な店長さんが迎えてくださった。「どのお席でもいいですよ」のお言葉に甘えて、誰もいない座敷の部屋にお邪魔する。

なぜなら景色が、すばらしかったから!!!

東長崎店とはまた違う風景!  「なんだろう、船をメンテナンスするとこ??」とただ眺めていたけれど……

ここから見えるのは造船所?  坂の町並みも見える。同じように高台に店舗を構える東長崎店とはまた違う良さだ。海が多く見える分、より旅愁が強いかもしれない。

お冷は諫早店と同じくクリアカラーのグラスでした
初めて見る形の座布団!!!座る人の腰を優しく支えてくれるタイプか

ここでは、ようやく勇気を出して「地中海ドリア」をチョイスした。このお店の常連の友人がうまいと勧めてくれたからでもあるが、以前食べたミニグラタンがものすごく美味しかったからだ。ドリアにしたのは「おすすめ」の文字につられたから。PRって大事ね。

地中海ドリア(1,199円税込)

窓の外の風景が地中海に見えないことも……ないか。これでもかと海の恵みがぎっしりで大変美味でした。

海鮮好きにはたまらない!

ステーキに続いて地中海ドリアときてしまった。盆と正月が一緒に来たようで景気がいいし、陸と海どちらも制したことになる。胃の中が神話状態だ。お腹もタイムリミットも限界が近づいてきたので、あわあわとお店を出た。もっとあの座布団でゆっくりしたかったけれど……。

レジに設置されていた、リボンのような手書き文字が素敵な呼び出しボタン

世界遺産を見落とす

「……え、世界遺産が見えるレストラン?」

わたしは、ぽかん、と外観を撮りながら気がついた。
なんてことだ。

お店のそそられる側面を違う角度から撮っていた際に……
気が付いた!!!!!!

言い訳のように前置きすると、わたしの長崎市への知識はてんでダメだ。同じ県でも、佐世保市と長崎市は旅行感覚の距離感で生きてきた。なのでこの「世界遺産」の文字を見た時、「え、あの景色の中に軍艦島が!?」と勝手に思い込んだ。そんなわけないのに。
のちに調べると『小菅修船所跡』という、日本初の大型船修理用ドックだというのだ。船を乗せ、レールでガラガラと曳き揚げる台がそろばんの形に見えたため“ソロバンドック”とも呼ばれた。わたしが窓から見た景色はドックのほんの一部で、シンボル的な場所は牛右衛門の駐車場真下に見られたらしい。わたしはそうとも知らず、坂に立ち並ぶ家々とかマンションとか階段とかを写真におさめていた。うっかり写り込んでいないかと探してみたら、ミントグリーンの曳き揚げ小屋の一部が辛うじて見える一枚が見つかった。

世界遺産は写真の下の方で見切れていた

ネットの記事やブログで『小菅修船場跡』の紹介や牛右衛門から見えるソロバンドックの写真を見ながら、本当にたまたま、すごい場所で食事ができたのだなぁと恐れ入ったのだった。

わたしが見たのは、ぎりぎり、ソロバンに見えなくもない座布団たちだった

時津店は次回の楽しみにして、少し子どもたちをお待たせしてお迎えへ。ダッシュで車を走らせながら、「ママ、きょうは何してたの?」なんて聞かれやしないかヒヤヒヤだった。ただドライブして、牛右衛門でご飯食べてきただけなんて言えないけど、世界遺産とニアミスしたことだけは伝えてもよさそうだ。

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