団地をのぞむ天空のギャラリー〜長崎のローカルチェーン『牛右衛門』をぜんぶめぐりたい vol.4 東長崎店編〜
令和のいまでも、長崎のレストランチェーン『牛右衛門(ぎゅうえもん)』は良い。けれど、そう感じる理由は「おいしいから? 懐かしいから?」とあいまいだ。県内9店舗をめぐって、「良さ」の解像度をあげてみる。
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vol.1 大塔店編
vol.2 佐々店編
vol.3 浜町店編
思わず口が開いた。窓の外、山の麓にはなんとも雄大な「団地」が広がっていたのである。わたしは目線を外せないまま、ソファにずるりと腰掛けた。
団体さまがいてうれしい
道の両側にそびえ立つ木々……ではなく「団地」のあいだを縫うように車を走らせる。巨大で、人の生活が密集していて、機能美にあふれた「団地」がわたしは大好きだ。この道を走れただけでも満足である。
向かっていたのは「牛右衛門 東長崎店」。このあと、PTA活動で遠征しており、その前の腹ごしらえだった。
“坂の街”長崎らしく、道の傾斜がぐんぐんあがっていく。鼻歌しながらヨイショとハンドルを切ると、片側二車線の「日見バイパス」に躍り出た。視界がばっと開けると同時に、車がびゅんびゅんと目の前を行き交っている。おののきつつも合流し、あの看板を目指した。

着いたのは開店時間前。横長いバイパス沿いの駐車場に車を停めた。あたりを見回すと、ちらほらお客さんがいる。店の向こう側にリンガーハットが見えた。一号店の「宿町店」だろう。長崎チェーン界の二強が並ぶ日見バイパスが、なんだか黄金色に輝いててまぶしい。
それにしても、きょうは雨だな。牛右衛門の背後には、リンガーハットを除けば緑の山と白く曇った空しか見えない。じめっとした空気も相まって、なんだか山頂にいるかのような気分になった。

平成初期の楽しげな空気感をまとった電飾看板を見つけて駆け寄った。色の褪せ方や電球の抜け感をじっくり味わっていると、背後にマイクロバスが停まっているのが見えた。「おお、団体さまだ!!!」と心の中で歓声をあげてしまう。わたしはただの客なのに、なぜかうれしい。

バスから、フォーマルな格好をした人たちがぞろぞろと降りてきた。入口に集まって談笑し、喫煙スペースで一服したりしている。
この日が、何かしら特別な日で、わざわざ予約してやってきたのだろう。その一連の流れを想像しただけで、「良かったねぇ」と、お店をねぎらいたくなった。
天空のギャラリーへようこそ
11時ジャスト。自動ドアが開き、お客さんの列が動き出す。わたしも、いそいそと団体さんの後ろをついて行った。が、ドアの手前で立ち止まってしまった。目の前には、スターウォーズのキャラクターの等身大フィギュアが飾られていたのである。

いや、これは、祀られている。それほどの熱い想いを感じる。誰の……? たぶん、このお店の店長さんの……まさか、社長の?


これまで訪れた牛右衛門では、絵画や写真などのアート作品がよく飾られていたので、まさかホビー的なお宝が見られるとは思ってもいなかった。ケースの端には「なんでも鑑定団で落札しました」と書いており、本気だ、とうなる。

眼福の想いで店内へ。「お好きな席へどうぞ」と案内されたので、キョロキョロ見渡すと、見晴らしの良さそうな窓側の席が目に入った。外は、冒頭で書いた、雲海のごとき団地の風景。今まで訪れたレストランの中で、一番強い意志を持って座ったかもしれない。いや、座らされたと言ってもいい。


規則的に並んだ団地の美しさ。小さなツノのように生えてる給水タンクもかわいい。さらには山の斜面に立つ住宅やマンションも一望できる。ここだけでも、長崎市の住宅事情を物語るのに十分な光景だった。
わたしの地元・佐世保では、山の斜面に家が立ち並んでいることが多く、下から上を見上げて「家だなー」と思うことはあっても、眼下に見下ろすことはそうそうない。だからこそ新鮮だった。鳥の目で見る団地、美しい。
ぼーっと窓の外に見とれていると、店員さんがやってきて「団体様のオーダーでお待たせしてしまうと思うので、お早めのご注文をおすすめします」と、小さな声で知らせてくれた。わたしは感謝しながらメニューをばっと広げた。


グラタンに全振りする勇気
わたしはお腹が空いていた。おまけに、この後たくさん動くので体力も温存したい。そこで、以前、友人からおすすめされたグラタンが浮かんできた。でも、単品だと足りないかも、何より、飽きてしまうのではといった懸念があった。じゃあやっぱり肉か。前にも食べたしなぁ……サイドメニューに肉はないか? などと考えながらページをめくると、あった。ミニグラタンとミニステーキ丼のセットが。

地中海風のグラタンと、和風のステーキ丼が国境を越えて出会いってしまった。クールな顔をしておとなしめの皿におさまっているが、これは、わんぱくな大人様ランチだ。


ステーキ丼にはステーキ丼で満足。けど、グラタンよ、きみをもっと食べたい。グラタン単品とミニステーキ丼にしても良かった(ランチ代がわんぱくになるが)。だったら、ミニグラタンもう一個注文するか? いや待て。オニオンスープを飲んで落ち着こう。

「トアルコトラジャコーヒー」でも飲んで気を引き締めよう。今まで何度もメニューで目にしてきた一杯だ。“グルメコーヒー”のフレーズがずっと気になっていた。ようやく注文するときが来たぞ……! 団地の絶景を眺めながら飲む一杯は、さぞ格別であろう……!

深煎りで、香り高く飲みごたえがあった。自信作です、と謳うだけはある。一息ついて、やや視界がひらけてきた。
団体さんはいくつかのテーブルに分かれていたが、楽しそうに食事の時間を共有している。ランチ客も増え、わたしの周りの席はほぼ埋まった。すりガラス越しに見えるスーツ姿の男性4人組は、出張マンかもしれない。アツアツの鉄板でジュージューと運ばれてきたレモンステーキのゆげが、頭上にもうもうとあがっていた。
ぜひ店内を歩いてみてほしい
東長崎店のおもしろいところは、団地の景色に加えて、ギャラリーのような空間にある。

店員さんの妨げにならない程度に、ぜひ歩き回って逸品を眺めてみてほしい。


また、子どもがいるわたしが特に心動かされたのはキッズスペースだ。アーチまで作ってくれているところに親しみを感じる。

ここに来て、チェーン店でもある牛右衛門のイメージが少し変わった。団地の景色を含め、貴重なコレクションをコッソリ見せてくれるような、クローズな歩み寄りをしてくれるんだなぁと嬉しくなった。
長崎らしい街並みのひとつを、心ゆくまで眺められるこのお店。またこの目で見てみたい。
ついゆったりと過ごしすぎたわたしは、その後、会場周辺の駐車場を見つけることができず遅刻した。駐車場待ちの渋滞にはまっていたことは確かだが、団地に見とれていたのも本当で、もちろんそのことは言えず、心の中にそっとしまっておいたのだった。
