
中国、国家研究開発を「企業主導・産業化重視」へ――AI・自動車・ロボットの研究評価と資金制度を改革
[メンバーシップ限定]中国共産党中央弁公庁と国務院弁公庁は2026年10月21日、科学技術の研究開発と産業の技術革新を一体的に進めるための新たな政策文書「科学技術イノベーションと産業イノベーションの高度な融合の推進に関する中国共産党中央弁公庁・国務院弁公庁の意見」を公表した。
今回の政策は、AIやロボットなどの先端技術を新たに重点産業へ指定するものではない。国家研究開発プロジェクトの運営、研究成果の評価、大学から企業への技術移転、研究資金の供給、実証環境の開放、規格策定までを見直し、研究成果が実際の製品や事業につながる仕組みを強化するものである。
特に重要なのは、産業応用の目標が明確な国家研究開発プロジェクトについて、原則として企業が主導する方針を明記した点である。
国有企業の研究開発では、通常の資産評価から切り離した資金管理や失敗を許容する制度の整備を奨励する。民間企業についても、国家自然科学基金への参加機会を広げ、大学・研究機関との共同研究を支援する。
中国が進める自動運転AI、世界モデル、Embodied AI、次世代電池、低空経済などの技術開発を、研究段階から実用化・商業化へ結び付けるための制度改革として注目される。
10月21日、中央・国務院が研究開発と産業化の一体改革を公表
今回の政策文書は、中国共産党中央弁公庁と国務院弁公庁が連名で公表したものである。中国科学技術部は同日、政策全文に加えて担当責任者による公式解説も公表した。
文書は、総論、研究開発と産業の連携、重点技術の開発、企業主導の産学連携、研究資源の配分、制度環境の整備、地方での改革、実施体制という8つの部分で構成され、17項目の具体的な政策措置を示している。
中国政府が掲げる目標は、科学技術の研究成果を産業競争力へ結び付け、さらに経済全体の発展と国家の技術的自立につなげることである。
中国ではこれまでも、大学や研究機関と企業の共同研究、研究成果の事業化、戦略的新興産業の育成などを進めてきた。
今回の政策は、そうした既存の方向性を継続しながら、研究開発の組織運営や評価制度、資金供給の仕組みまで踏み込んで改革しようとするものである。
「研究成果ができてから事業化を考える」方式を見直す
中国科学技術部は、今回の政策の狙いについて、研究成果が生まれてから事業化を考える従来の発想を改めることだと説明している。
これは、研究活動そのものを否定するものではない。
基礎研究や独創的な技術開発を進めながら、産業応用を目的とする研究については、研究計画の策定段階から企業や利用者の需要を反映させるという考え方である。
従来の研究開発では、技術的な成果が得られても、量産コスト、信頼性、実際の利用条件、製品化に必要な設備などの問題によって、産業利用に至らないことがある。
今回の政策は、こうした研究と事業化の間に存在する隔たりを縮小することを目指している。
そのため、研究課題の設定から成果の評価、技術移転、試作検証、商業化までを一連の過程として管理する方針が示された。
国家研究開発プロジェクトは、産業応用を目的とする場合に原則企業主導へ
今回の政策で最も重要な規定の一つが、国家研究開発プロジェクトにおける企業の役割の拡大である。
産業応用の目標が明確な国家科学技術計画プロジェクトについては、原則として企業が主導して実施し、研究成果の事業化についても企業が中心的な役割を担う。
さらに、国家研究開発プロジェクトの募集要項作成、採択審査、成果評価において、企業やベンチャー投資機関の専門家を適切に増やす方針が示された。
企業の技術的な需要を継続的に収集し、研究課題の設定に反映させる仕組みも強化する。
ここで注意したいのは、すべての国家研究開発を企業主導へ切り替えるわけではないという点である。
対象となるのは、産業応用の目標が明確なプロジェクトであり、基礎研究を含む研究開発全体を企業の短期的な事業利益に従属させる方針ではない。
むしろ、大学や研究機関が担う基礎研究と、企業が主導する応用開発・製品化を、より緊密に結び付けようとしている。
技術は実用場面で、製品は市場で評価
研究開発プロジェクトの評価方法も見直す。
今回の政策は、技術の評価には実際の応用を、製品の評価には市場を重視する仕組みを整備する方針を示した。
また、研究開発の技術的な目標と、産業化に関する目標を一体的に評価する。
研究資金については、課題の達成を目指して応募する方式や、事業主体に一定の裁量を与える方式を改善し、進捗段階に応じた評価と資金交付を進める。
具体的には、開発の節目ごとに成果を確認するマイルストーン管理や、段階的な資金交付などを活用する。
これは、中国の自動運転AIやロボット研究を評価する際にも重要な視点となる。
例えば、自動運転AIの研究では、公開ベンチマークで高い評価を得ても、実際の道路で同じ性能を発揮するとは限らない。
ロボットAIについても、研究室内の特定条件で高い成功率を示すことと、工場や物流施設で長期間安定して稼働することは異なる。
今回の政策は、こうした研究段階の成果を、実際の利用条件や製品化の成果へ結び付ける評価制度を強化するものである。
ただし、具体的な評価指標や審査基準は、今後の個別制度やプロジェクトによって定められる。
国有企業の研究開発で、失敗を許容する資金制度を整備
今回の政策では、国有企業の研究開発に関する制度改革も注目される。
中国政府は、国有企業に対し、研究開発のための準備金を独立して管理する制度の整備を奨励する。
この制度では、研究開発資金を通常の国有資産の価値維持・増加に関する評価から切り離し、試行錯誤や失敗を許容する仕組みを設ける方針である。
また、国有企業の評価制度についても、企業と大学・研究機関が共同で実施する研究開発費を、利益評価上で加算調整する割合を引き上げる方針を示した。
これは、研究開発投資が短期的な利益を圧迫する場合でも、その活動を適切に評価しようとするものである。
中国一汽、東風汽車、長安汽車などの国有自動車メーカーにとって、こうした制度改革は研究開発投資の判断に関係する可能性がある。
自動運転AI、車載半導体、次世代電池、ロボットなどの技術開発では、多額の資金を投入しても、すべての研究が製品化につながるわけではない。
新しい技術の開発には、失敗する可能性を前提とした継続的な投資が必要となる。
今回の政策は、そのような研究開発を通常の事業収益とは異なる基準で評価する方向を示している。
ただし、研究開発の失敗を無条件に免責するものではない。具体的な適用範囲や責任の判断基準は、今後の制度整備と運用を確認する必要がある。
民間企業にも国家研究資金への参加機会を拡大
企業主導の研究開発は、国有企業だけを対象としているわけではない。
今回の政策は、国家自然科学基金について、民間企業への試験的な開放を進める方針を示した。
また、企業の研究開発を支援する共同基金の対象と規模を拡大する。
研究開発型の中小企業については、研究開発費の税制上の優遇を強化し、研究投資を促進する。
国家の大型研究施設、高度な科学機器、科学データセンターなどについても、企業が利用しやすい制度を整備する。
さらに、国家的な人材育成制度による企業への支援を拡大し、企業内の博士研究員育成拠点の整備も進める。
中国のAI産業では、大手テクノロジー企業だけでなく、多数のスタートアップが自動運転、世界モデル、ロボット制御などの研究開発を進めている。
今回の政策は、そうした企業が大学・研究機関と共同研究を行い、研究資金や設備、人材を活用する機会を広げる方向性を示している。
もっとも、国家自然科学基金がすべての民間企業へ全面的に開放されると決定したわけではない。今回示されたのは、試験的な開放を進める方針である。
大学の研究成果を中小企業が利用しやすくする
研究成果の技術移転についても、複数の制度改革が盛り込まれた。
大学や研究機関に対しては、技術移転を担当する組織や専門職の整備を支援する。
研究成果を企業へ移転する方法として、技術譲渡、ライセンス供与、知的財産を出資財産として活用する方式などを促進する。
また、研究成果を生み出した研究者が、事業化の過程にも継続的に参加できる仕組みを整備する。
中小・零細企業向けには、大学や研究機関が保有する技術を、先に利用してから対価を支払う方式で提供することも奨励する。
これにより、研究成果の利用開始時に多額の資金を必要とする企業の負担を軽減することが期待される。
さらに、全国的な技術取引市場の整備、専門的な技術移転機関の育成、技術移転を仲介する専門人材の育成も進める。
中国の大学では、自動運転、画像認識、ロボット制御、材料科学などの研究が活発に行われている。
今回の政策は、そうした研究成果を、大学の研究室から企業の製品開発へ移す過程を制度面から支援するものと位置付けられる。
Embodied AI、低空経済、次世代通信の産業化を加速
今回の政策は、将来の産業育成対象となる技術領域も示している。
戦略的新興産業として、新エネルギー、新材料、航空宇宙などの発展を加速する。
また、低空経済については、健全で秩序ある発展を推進する方針を示した。
さらに、量子技術、バイオ製造、水素エネルギー、核融合エネルギー、ブレイン・コンピューター・インターフェース、Embodied AI、第6世代移動通信(6G)などの先端分野を挙げている。
これらの領域では、複数の技術方式を検討し、代表的な応用場面や実現可能なビジネスモデルを探索しながら、産業化・商業化を加速する。
Embodied AIについては、特定のロボット形態や技術方式に統一するのではなく、異なる技術方式や用途を検討する方針が示されている点が重要である。
ロボットの形態、制御方式、AIモデル、学習方法などについて、複数の選択肢を残しながら実用化を進める方向と解釈できる。
一方、今回の文書には、Embodied AIの具体的な生産台数目標や導入台数目標は示されていない。
また、自動運転やRobotaxiを独立した重点分野として列挙しているわけでもない。
これらの技術は、企業主導の研究開発、実証環境の整備、AIの産業応用などの共通政策を通じて影響を受けると考えられる。