メインコンテンツへスキップ
見出し画像

世界モデルは「未来動画」でなくていい――千里智駕WA-JEPA、潜在空間で世界と行動を共同予測

    [メンバーシップ限定]中国の高度運転支援開発で「世界モデル」を巡る競争が本格化する中、吉利(GEELY)系の同分野子会社、千里科技による千里智駕が一つの異なる答えを示した。未来の道路をリアルな映像として生成するのではなく、車線構造や周囲の車両との関係、運動傾向、走行可能領域といった、運転判断に本当に必要な未来を潜在空間で予測するというアプローチである。

    千里智駕の研究開発チームは2026年8月、電子科技大学、東南大学、北京郵電大学、天津大学と共同で、世界・行動モデル「WA-JEPA(World-Action Joint Embedding Predictive Architecture)」を発表、オープンソース化した。千里科技は2026年9月20になりそれを公表、背景や技術要素を説明した。

    ベースとしたのは、動画から高次元の意味構造を学習するV-JEPAである。ただしWA-JEPAは単にV-JEPAを自動運転へ転用したものではない。「現在の世界を理解する」モデルから、未来世界を予測し、その未来と自車の行動を同時に生成するモデルへ作り替えた。

    世界モデルは必ずしも「未来の動画」を作る必要はない――。WA-JEPAが提示しているのは、自動運転における世界モデルの役割そのものを問い直す技術的アプローチである。

    軌道だけを学習しても「なぜそこを走るか」は分からない

    現在のE2E(End-to-End)運転支援を極端に単純化すれば、複数カメラの映像、車両状態、ナビゲーション情報などを入力し、将来の走行軌道を出力する仕組みと説明できる。

    しかし、千里智駕はここに根本的な情報差があるとする。

    教師となる熟練ドライバーの軌道は、「この状況ではこう走るべきだ」という結果をモデルへ教えることはできる。しかし、その軌道だけでは、道路がどういう構造になっているのか、周囲の車両がどのような関係にあるのか、なぜその状況が生じ、数秒後にどう変化していくのかまでは十分に説明できない。

    その結果、幾何学的には滑らかな軌道を生成できても、車線選択そのものを間違える可能性がある。短時間では正しくても、時間が延びるにつれて隣の車線へずれていくこともある。複数車両が絡む場面では、周囲の車両が次にどう動くかを理解できず、局所的な軌道修正が全体を崩し、衝突や走行可能領域からの逸脱につながる可能性もある。

    そこで必要になるのが、「どう走るか」を学習するだけでなく、これから世界がどう変わるのかを内部で理解・予測する能力である。

    千里智駕は次世代の運転支援について、Perception-to-Action(知覚から行動へ)から、World Understanding + Future Prediction + Action Decision(世界理解+未来予測+行動判断)へ進み、さらに「World-Action Joint Modeling(世界と行動の共同モデリング)」へ向かうとの考えを示している。

    世界モデルには二つの方向がある

    ここで問題になるのが、「未来を予測する」とは何を予測することなのか、である。

    千里智駕は現在の世界・行動モデルを、大きく二つに分けている。

    一つが、未来の画像そのものを生成するピクセルベースのモデルである。現在の映像から数秒後の道路、車両、歩行者などを映像として作り出せるため、人間にも「AIが想像した未来」が分かりやすい。

    一方で、運転には直接必要のない道路表面の質感、車体の色、光や影などまで生成するため、大量の計算資源を必要とする。

    もう一つが、潜在空間を使うモデルである。

    こちらは未来の映像を完全に再現するのではなく、映像を抽象的な特徴量へ圧縮する。重要になるのは「何色のクルマが映っているか」ではなく、「その車両がどちらへ動き、自車との関係がどう変化するか」といった意味情報である。

    千里智駕は、特に自動運転のロングテール場面では、後者の方が本質的だと考えている。

    つまり、世界モデルの性能を「未来映像をどれだけリアルに作れるか」で測る必要はないということである。

    V-JEPAの「意味を理解する能力」に着目

    そこで千里智駕がベースに選んだのがV-JEPAである。

    V-JEPAは動画の一部を隠し、残された情報から隠された部分の特徴表現を予測することで、動画に含まれる時空間構造を自己教師ありで学習する。

    千里智駕によれば、V-JEPAは道路配置、物体同士の関係、動的な変化など、動画に含まれる高次元の意味情報を表現する能力に優れている。

    しかし、そのままでは自動運転計画には使えない。

    V-JEPAの学習では動画をランダムに隠して補完するため、場合によっては過去と未来の双方を見ることができる。しかし実際のクルマに未来の映像は存在しない。

    また、一つの正解へ回帰する方式では、複数の合理的な未来をうまく扱えない。さらに、V-JEPAそのものには、予測した世界と自車の行動を直接結び付ける仕組みもない。

    そこでWA-JEPAでは、V-JEPAの意味表現能力を残しながら、三つの大きな変更を加えた。

    画像
     
     
    急速に進む中国のCASE(Connected&Cabin,Autonomous,Shared&Service,Electric)やAIについての最新情報。2018年から1日1本以上のレポート配信。毎朝8:00日刊中国モビリティレポートと適時号外レポート

    あなたへのおすすめ