
卓馭、LiDARまでE2Eの一部に――紅旗・天工07で見えた「ハード+AI」戦略
[日刊]中国の先進運転支援システム(ADAS)で、LiDARを巡る競争が次の段階に入りつつある。
これまでは「何ラインか」「何個搭載するか」「何メートル先まで見えるか」といったハードウェアのスペック競争が目立った。これに対し、DJI(大疆)から独立したADAS企業の卓馭科技(ZYT)は、LiDARそのものをE2E(エンドtoエンド)型AIシステムの一部として設計する方向へ踏み込んできた。
一汽紅旗が2026年9月21日に予約販売を開始した中大型セダンBEV「天工07」は、紅旗の「司南智駕5.0」を搭載する。384ラインの動的可変焦点LiDARを採用し、最長600mの探知距離を確保するだけでなく、都市部では広く、高速道路では遠くを見る「可変視野」を導入した。天工07は高速・都市NOA、全シーン駐車支援、階層をまたぐ記憶駐車、駐車スペースから目的地までをつなぐ支援などに対応する。
さらに卓馭は今回、LiDARとカメラを単に別々のセンサーとして使うのではなく、LiDAR点群と異種ステレオビジョンの画像情報をモデル内部で融合する「LiDAR+視覚の前融合E2E」を初めて適用したとしている。
天工07は、卓馭が単なるADASアルゴリズム企業から、センサー、認識、E2Eモデルまでを一つのシステムとして設計するTier1へ変わりつつあることを示す車両でもある。
600mを見るLiDAR、ただし重要なのは距離ではない
天工07に搭載されるLiDARは384ラインの動的可変焦点型で、最長探知距離は600mとされる。公開された天工07の製品情報でも、紅旗司南智駕5.0とこのLiDARの搭載が確認されている。
600mという数字だけでも目を引くが、今回より重要なのは「可変視野」である。
一般的なLiDARでは、視野角、角度分解能、遠距離性能などの間にトレードオフが生じる。広い範囲を見ようとすればセンシング資源が分散し、遠距離を高密度に見ようとすれば視野を絞る必要がある。
卓馭が示した考え方は、この配分を走行環境に合わせて変えるというものだ。
都市では左右から侵入する車両、自転車、歩行者などを見るために広い視野が必要になる。一方、高速道路では左右方向以上に、進行方向の遠距離に存在する車両や障害物を早い段階で把握することが重要になる。
卓馭はこれを「都市では広く、高速では遠く」と表現している。
つまりLiDARを固定された特性を持つ「目」として使うのではなく、走行シーンに応じて「どこを見るか」まで変化させるセンサーとして扱う。
LiDARとカメラを「後から合わせる」のではない
もう一つの重要な変更が「LiDAR+視覚の前融合E2E」である。
従来型のADASでは、カメラ、LiDAR、ミリ波レーダーなどがそれぞれ周囲を認識し、その認識結果を後段で統合する構成が広く用いられてきた。
例えばカメラ側が「前方に自動車が存在する」と判断し、LiDAR側が「前方38mに物体が存在する」と判断し、その結果を後から照合するような考え方である。
卓馭が天工07で導入した方式では、高精度なLiDAR点群と異種ステレオカメラの画像を、より前段階からモデル内部でネイティブに融合する。
LiDARが得意とする正確な距離情報と、カメラが得意とする高解像度の視覚情報を、別々に判断した後で合わせるのではなく、一つのAIモデルが統合的に理解する方向である。
LiDARとカメラをニューラルネットワーク内部で融合する研究そのものは以前から存在しており、概念自体が卓馭独自というわけではない。
今回注目されるのは、それを量産車向けE2Eシステムとして紅旗・天工07へ投入した点にある。
卓馭によれば、この構成によってシステム全体の遅延を低減し、安全に関係するシーンでの応答遅延を従来比50%短縮したという。これは卓馭による公称値であり、「安全性が50%向上した」という意味ではない。