メインコンテンツへスキップ
見出し画像

ファーウェイ、車両制御を「小脳」から運動領域へ――XMCの進化、駆動・制動の相互冗長化でAIVの実行基盤を再設計

    [日刊]華為(Huawei=ファーウェイ)の自動車技術が、車両の運動制御そのものを再設計する段階に入っている。

    2023年の途霊インテリジェントシャシー、2024年のXMOTION 2.0、2025年のHUAWEI XMCデジタルシャシーエンジンを経て、2026年には駆動・制動・操舵・サスペンションを統合する「運動領域」という新しい技術体系が打ち出された。

    従来の自動車では、駆動、制動、操舵、サスペンションなどが、それぞれ独立性の高い制御システムとして発展してきた。

    ファーウェイが進めているのは、これらを単に連携させるだけでなく、車両全体の運動を統合的に判断し、異なる機構の間で制御機能を補完できるアーキテクチャへの転換である。

    2026年4月23日の公式技術発表では、全線控制動システムの応答時間78ms、単輪制御周期50%短縮、制御精度50%向上などを提示した。さらに、四輪のブレーキキャリパーがすべて機能を失った状態で、駆動モーターを利用して車両を減速・停止させる実証も公開している。

    重要なのは、単にブレーキやサスペンションの性能が向上したことではない。

    自動運転AIが車両の進路を判断するだけでなく、その判断を物理世界で正確に実行し、特定の制御機構が故障した場合にも別の機構で運動を維持するという、新しい車両制御の思想が現れている。

    画像

    2023年、途霊インテリジェントシャシーから始まった統合制御

    ファーウェイの車両運動制御技術を振り返るうえで、2023年12月に発表された問界(AITO)M9は重要な起点となる。

    同車に採用された途霊インテリジェントシャシーは、前ダブルウィッシュボーン・後マルチリンクの独立懸架、エアサスペンション、連続可変ダンパーなどの機械的な構成に、ファーウェイのソフトウェア制御を組み合わせた。

    その中核を構成したのが、車両と周辺環境の状態を把握するマルチモーダル融合認識システム、駆動トルクを適応的に調整するDATS、車体運動を協調制御するxMotionである。

    ここでの技術的な意味は、サスペンションやモーターを単独で高性能化するのではなく、複数のシステムから得られる情報を利用して車両全体の挙動を改善しようとしたことである。

    例えば、駆動トルクの調整は加速性能だけでなく、車両の姿勢安定性にも関係する。サスペンションの減衰力制御も、乗り心地だけでなく、タイヤの接地状態や操縦安定性に影響する。

    これらを協調させることで、従来は別々に最適化されていた車両の運動を、より広い視点から制御することが可能になる。

    ただし、この段階では既存の機械構成と各制御システムを前提に、ソフトウェアによる協調を高度化することが中心であった。

    後のXMCにつながる思想はすでに存在していたが、車両の運動制御全体を一つの領域として再定義する段階には至っていなかった。

    画像

    2024年、XMOTION 2.0が車体運動制御を高度化

    2024年には、XMOTION 2.0によって車体運動制御の高度化が進んだ。

    この時期の技術的な重点は、車両状態の推定精度を高め、駆動・制動・サスペンションなどの協調によって、走行安定性と乗り心地を改善することであった。

    従来の車両制御は、車体の姿勢変化やタイヤの滑りなどを検知してから介入する仕組みが中心であった。

    これに対し、ファーウェイは複数のセンサー情報を統合し、車両の運動状態を推定するとともに、状況に応じて先行的に制御する方向へ進んだ。

    車酔い軽減、車体の揺れの抑制、滑りやすい路面での安定制御などが、その代表的な用途である。

    例えば、電動車では駆動モーターのトルク応答が速いため、発進・減速時の加速度変化が乗員の快適性に影響することがある。

    こうした変化を駆動トルクや車体姿勢の制御によって緩和することは、電動車ならではの車両運動制御の課題となる。

    ただし、車酔い軽減の評価指標と、実際に車酔いする乗員の割合は異なる。

    XMOTION 2.0について流通している車酔い関連の改善率は、試験条件や評価指標が確認できない限り、そのまま乗員の体感改善率として扱うことはできない。

    この段階で重要なのは、個別の改善率そのものより、車両の運動制御が操縦安定性だけでなく、乗員の快適性まで対象にするようになったことである。

    画像

    2025年4月、XMCを正式発表――個別協調から全領域融合へ

    2025年4月22日、ファーウェイは乾崑インテリジェント技術大会で、ADS 4や新世代スマートコックピットとともに、HUAWEI XMCデジタルシャシーエンジンを正式発表した。

    XMCの特徴は、車体、モーター、サスペンション、操舵、制動などを対象とする全領域融合アーキテクチャである。

    従来の協調制御をさらに発展させ、複数の車両制御機構を横断して、一体的に運動を判断する構成を打ち出した。

    ファーウェイは、車両・路面状態の予測、時空情報を利用したサスペンション制御、全次元協調制御などを主要技術として説明している。

    これらの機能によって、車両の状態や路面環境を予測し、各機構に対する制御指令を一体的に決定することを目指す。

    ここで注意したいのは、全領域融合が、すべての制御用電子回路を物理的に一つのチップへ統合することを意味するわけではないことである。

    XMCの中心は、車両全体の運動に対する制御判断を統合するアーキテクチャにある。

    ファーウェイは自社開発の五合一車両制御モジュールも公表しているが、ハードウェアの集約と制御機能の全領域融合は、区別して理解する必要がある。

    画像

    ADSは進路を判断し、XMCは車両の運動を実行する

    XMCの技術的な意味を理解するうえで、ファーウェイの自動運転システム乾崑ADSとの関係が重要となる。

    乾崑ADSは周辺環境を認識し、走行経路や車両の行動を判断する。

    一方、XMCは車両の状態と各制御機構の能力を踏まえ、その判断を実際の駆動、制動、操舵、車体姿勢の制御へ結び付ける。

    両者の関係は、人間の「大脳」と「小脳」に例えられることがある。

    ただし、これは機能分担を説明する比喩であり、実際の制御構成が人間の神経系と同じであることを意味しない。

    重要なのは、経路計画と車両運動制御を、相互に連携する二つの機能として捉えていることである。

    例えば、自動運転システムが障害物を回避する経路を判断しても、車両がその経路に沿って安全に運動できなければ意味がない。

    車速、タイヤの接地状態、路面の摩擦、車体姿勢、操舵・制動機構の能力などによって、実際に実行できる運動は制約される。

    XMCの役割は、こうした物理的制約を考慮しながら、車両の運動を協調制御することにある。

    ファーウェイが2025年の公式発表でADS 4とXMCの協調を強調したのは、自動運転AIの判断と車両の物理的な実行を一体化する方向性を示したものと解釈できる。

    画像

    2026年4月、ファーウェイが「運動領域」を新たな技術体系に

    2026年4月23日、ファーウェイは新たな車両技術体系として「運動領域」を打ち出した。

    同社は、スマートコックピット領域、自動運転領域、運動領域を、次世代スマートカーの主要な三領域として位置付けている。

    このうち運動領域は、駆動、制動、操舵、サスペンションなど、車両の物理的な運動を実現する機構を対象とする。

    従来の自動車では、駆動系とシャシー系は異なる技術領域として発展してきた。

    ファーウェイが提示したのは、両者を一体の運動領域として再定義する考え方である。

    この構想では、駆動モーター、ブレーキ、ステアリング、サスペンションを個別の部品として扱うだけでなく、車両の運動を実現するための一体的なシステムとして捉える。

    同社は、こうした統合によって制御の応答性、精度、安定性を改善し、さらにシステム間の安全冗長性を確保することを目指している。

    2025年のXMCが全領域融合による車両運動制御を打ち出したのに対し、2026年の運動領域構想では、その考え方を駆動系とシャシー系の統合、さらに故障時の機能補完へ拡張したことが重要である。

    画像

    制動応答78ms、単輪制御周期50%短縮――2026年の技術指標

    2026年4月23日の公式発表では、ファーウェイが運動領域の技術指標を示した。主な内容は次の通りである。

    • 全線控制動システムの応答時間:78ms

    • 統合制御による単輪制御周期:50%短縮

    • 統合制御による制御精度:50%向上

    • XMCの六合一全領域融合による車両制御精度:30%向上

    ここで、50%向上と30%向上は同じ評価指標ではない。

    前者はファーウェイの運動領域技術に関する発表であり、後者はXMCとADSの融合認識情報を利用した車両制御について説明されたものである。

    また、制動応答78msは、ブレーキシステムの応答性能を示す値であり、障害物を認識してから車両が停止するまでの総時間ではない。

    車両の停止には、環境認識、危険判断、制御指令、制動力の発生、タイヤと路面の摩擦など、複数の過程が関係する。

    したがって、78msという数字だけで自動運転システム全体の危険回避能力を評価することはできない。

    これらの数値はファーウェイの公式発表値であり、今回確認した資料だけでは、異なる車両や路面条件で同じ改善率が得られることまでは保証されない。

    画像
     
     
    急速に進む中国のCASE(Connected&Cabin,Autonomous,Shared&Service,Electric)やAIについての最新情報。2018年から1日1本以上のレポート配信。毎朝8:00日刊中国モビリティレポートと適時号外レポート

    あなたへのおすすめ