
中国L3/L4国家標準が正式化「技術ルート」ではなく「安全性立証」を求める制度へ
[メンバーシップ限定]中国国家市場監督管理総局と国家標準化管理委員会は2026年7月30日、強制国家標準GB 44721-2026「インテリジェント・コネクテッド・ヴィークル―自動運転システム安全要求」を公布した。2027年7月1日に施行される。その全文を2026年8月29日に確認、すでに別に全文日本語翻訳している。
対象は主としてレベル3(L3)、レベル4(L4)の自動運転システム(ADS)であり、動的運転タスク(DDT)、運行設計領域(ODD)、引継ぎ、最小リスク・マヌーバー(MRM)、ヒューマン・マシン・インタラクション(HMI)、機能安全、SOTIF(意図した機能の安全性)、シミュレーション、実車試験、市販後の安全監視までを一体として規定する。
パブリックコメント版の段階でも、本標準が特定の自動運転技術を指定するというより、「そのシステムが安全であることをどのように証明するか」を重視している点を指摘した。正式版全文を確認した結果、この基本的な方向性に大きな変化はない。
ただし、正式版から見えてきたのは、単なる「技術中立」という以上に踏み込んだ、中国独自動運転規制のかなり明確な制度設計である。
LiDARか純視覚か、E2Eか否かを国家標準は決めない
GB 44721-2026には、「L4にはLiDARを搭載しなければならない」「E2E(End-to-End)方式は禁止する」といった技術ルートの直接指定は見当たらない。
一方で、達成しなければならない安全性能は細かく規定されている。
例えば、高速道路や都市快速路で使用するL3では、最高設計運行速度が60km/h以下なら前方検知範囲は最低50m、100km/hでは100m、120km/hでは130mが必要となる。60km/h超で使用する場合には、車両が5m/s²以上の減速度能力を持つことも求められる。
路面や環境条件によって必要な減速度、あるいは検知距離を確保できない場合には、ADS側が最高運行速度を下げなければならない。つまり「センサーを何個載せたか」ではなく、その構成によって必要な安全性能が成立するかが問われる。
冗長性についても同様である。
標準は特定の「デュアル冗長アーキテクチャ」を一律義務付けてはいない。しかし、電気・電子システムの単一故障によって能動操舵、能動制動、能動駐車能力を完全に失わないことを要求している。冗長部品や、別のシステムによって代替機能を実現するフォールトトレラント構成も例示する。
つまり中国が国家標準で決めようとしているのは「このハードを使え」ではない。何を使ってもよい。しかし、故障しても、環境が悪化しても、その安全性が成立することを示せ、という構造である。
中核に置かれた「Safety Case」
この思想を最も明確に示しているのが、附録Dの「安全档案」、すなわちSafety Case(セーフティケース)である。
メーカーはADSについて、単に「安全試験に合格した」と示すだけでは不十分である。セーフティケースでは、
主張(Claim)
↓
論証(Argument)
↓
証拠(Evidence)
という構造で安全性を立証しなければならない。
各主張には少なくとも一つの論証、各論証には少なくとも一つの証拠を対応させ、さらに主張、論証、証拠には一意の識別子を付けることまで要求される。
そして最終的には、「ADSがユーザー及び他の道路利用者(ORU)に不合理なリスクをもたらさない」ことを論証する必要がある。
これは、従来型の部品単体の適合試験とはかなり性格が異なる。
ADSという巨大なソフトウェアシステム全体について、「なぜ安全と言えるのか」を、設計、リスク分析、シミュレーション、実車試験、道路試験、運行後データまでつないで説明することを要求している。
「AIの判断理由」より「システム全体の安全保証」
ニューラルネットワークを利用する自動運転では、以前からブラックボックス問題が議論されてきた。
AIがなぜその判断をしたのか。内部推論を人間が完全に追跡できるのか。説明できないAIを安全システムへ使用してよいのか。
GB 44721-2026は、この問題を直接解決しようとはしていない。AI内部の個々の推論過程を人間へ説明可能にすることを、自動運転認証の中心要求としてはいない。
その代わり、ADSのハードウェア、ソフトウェア、センサー入力、ECU出力、意思決定・計画、ODC判定方法、安全コンセプト、故障モード、安全対策など、システム全体がどのように構成され、どのように安全性を確保するのかについて詳細な説明を求める。
したがって、中国が「ブラックボックスAIを無条件に容認した」と表現するのは正確ではない。
むしろ、AI内部の逐次的な説明可能性だけで安全を担保するのではなく、システム全体について検証可能な安全保証体系を構築する方向へ進んでいると見る方が適切である。
「ExplainabilityからVerifiabilityへ」というより、より正確には、モデル内部の説明可能性から、システム全体のAssurance=安全保証へと重心が移っている。