メインコンテンツへスキップ
見出し画像

仏独、2035年CO₂規制緩和と「欧州製」優遇で合意――英国も対象候補、中国車の欧州戦略に新たな条件

    [メンバーシップ限定]フランスとドイツは2026年10月16日、EUの自動車産業政策について共同方針で合意した。2035年の新車CO₂排出規制を柔軟化する一方、欧州で製造された自動車や部品を優遇する産業政策を強化する内容である。

    両国政府は同日、共同声明を発表し、欧州の自動車産業の脱炭素化と競争力維持、域内生産の強化を一体的に進める方針を確認した。

    合意の背景にあるのは、ドイツとフランスの異なる政策上の優先順位である。

    ドイツは、2035年以降もPHEVやエンジン車を含む複数のパワートレインを利用できるよう、CO₂規制の柔軟化を求めてきた。

    一方、フランスは、中国製自動車などとの競争を背景に、欧州域内の製造業と雇用を守るため、公共調達や補助金における「欧州製」優遇を重視してきた。

    今回の合意は、この二つの政策を組み合わせたものである。

    さらに、英国を一定の条件の下で欧州製品の優遇対象に含める方向も示された。

    ただし、今回成立したのはフランスとドイツの政治的な共同方針であり、EUの法改正が完了したわけではない。今後、他の加盟国や欧州議会との調整が必要になる。

    仏独政府が正式発表、脱炭素と欧州生産を一体化

    10月16日にフランス大統領府とドイツ連邦政府が公表した共同声明は、欧州自動車産業の将来を確保するため、両国が共通の方針で一致したと説明している。

    共同声明が強調したのは、CO₂排出削減を進めながら、次世代EVを欧州で開発・製造する能力を維持することである。

    両国は、脱炭素化の目標と、実際の市場環境や技術条件に応じた規制の柔軟性を組み合わせる必要があるとした。

    さらに、投資、研究開発、欧州域内生産、強靱なサプライチェーンの構築を促進する政策を一体的に進める。

    ここで重要なのは、EUの自動車政策がCO₂排出量だけを管理するものではなく、どこで自動車や部品を製造するかという産業政策と、明確に結び付けられたことである。

    欧州の自動車産業は、BEVへの移行に必要な投資負担、中国メーカーとの競争、エネルギーコスト、雇用維持など、複数の課題を抱えている。

    仏独は今回、これらを別々の政策として扱うのではなく、規制と産業支援を組み合わせた包括的な対応を打ち出した。

    2035年のCO₂削減目標は90%、残余10%の補完義務を撤廃へ

    今回の合意で大きな意味を持つのが、2035年の新車CO₂排出規制である。

    現行のEU規則では、2035年以降の新車乗用車・小型商用車について、メーカーの車両群全体でCO₂排出量を100%削減する目標が設定されている。

    欧州委員会は2025年12月、この規則を見直し、2035年の排出削減目標を2021年比90%とする案を発表した。

    ただし、委員会案では残り10%の排出について、EU域内で製造された低炭素鋼材や、代替燃料の利用などによって補完することが求められていた。

    これに対し、10月16日の仏独合意では、90%の削減目標を維持しながら、残り10%について追加的な補完措置を義務付けない方向で一致したとReutersなどが報じている。

    実現すれば、欧州委員会が2025年12月に示した案よりも、メーカーにとって柔軟な制度となる。

    特に、2035年以降も一定のCO₂を排出する車両を販売できる余地が広がる。ただし、これは新車販売台数の10%までエンジン車を自由に販売できるという意味ではない。

    CO₂規制は、原則としてメーカーが販売する新車群全体の平均排出量を対象とする。

    そのため、実際に販売できるエンジン車やPHEVの比率は、各車両の排出性能やBEVの販売構成によって変わる。

    また、90%削減と補完義務撤廃は、現時点では仏独の共同方針である。EUの正式な規制として成立したわけではない。

    PHEVの扱いにも柔軟性、ドイツメーカーの選択肢を維持

    今回の合意では、PHEVのCO₂排出量を算定する仕組みについても、柔軟な対応が盛り込まれたと報じられている。

    PHEVの認証上のCO₂排出量は、電動走行とエンジン走行をどのような割合で利用すると想定するかによって変わる。

    この算定に利用される係数を変更すれば、同じ車両でも規制上のCO₂排出量が変化する可能性がある。

    仏独の共同方針では、PHEVの電動走行割合に関係する係数について、2030年まで見直しを行わない方向が示されたとされる。

    また、単年度の販売実績だけでなく、複数年を通じてCO₂規制への適合状況を判断する柔軟性も議論されている。

    こうした措置は、PHEVやエンジン車を一定期間維持しながら、BEVへの投資を進めるメーカーにとって重要となる。

    特にドイツの自動車メーカーは、BEVだけでなく、PHEVや高効率エンジン車を含む幅広い商品構成を持っている。

    今回の規制緩和は、これらのパワートレインを直ちに整理するのではなく、市場の需要に応じて段階的に移行する余地を広げるものとなる。

    ただし、PHEVの具体的な算定方式や複数年評価の条件については、今後のEU法案審議で確認する必要がある。

    フランスが求めた「欧州製」優遇をドイツが受け入れ

    2035年規制の柔軟化と並ぶもう一つの柱が、欧州で製造された自動車や部品を優遇する政策である。

    欧州委員会は2026年3月、「産業加速法」の提案を発表した。

    この法案は、公共調達や公的支援制度などで、EU域内で製造された製品や低炭素製品を優遇する仕組みを導入するものである。

    対象には自動車のほか、鉄鋼、セメント、アルミニウム、蓄電池、その他の重要な脱炭素技術が含まれる。

    今回の仏独合意では、自動車分野について欧州製部品の利用を重視する方向が改めて示された。

    報道によれば、蓄電池を除く自動車部品の70%を欧州製とする基準や、蓄電池について一定割合の欧州製部材を求める考え方が含まれている。

    この政策の目的は、欧州で自動車を最終組み立てするだけでなく、部品や重要技術を含む製造工程を欧州に残すことである。

    中国メーカーが欧州に組立工場を設置したとしても、主要部品の大半を中国から輸入する場合には、欧州製品としての優遇条件を満たせない可能性がある。

    ただし、今回の合意は、すべての自動車販売に欧州製部品比率を義務付けるものではない。

    欧州委員会の産業加速法案が主に対象としているのは、公共調達や公的補助など、特定の公的支援に関わる場面である。

    また、部品比率の算定方法、対象となる車種、蓄電池の扱いなどは、最終的な制度設計によって変わり得る。

    英国を「欧州製」に含める道を開く

    今回の仏独合意で注目されるのが、英国の扱いである。

    英国は2020年1月末にEUを離脱したが、同年末までの移行期間中はEU単一市場の制度に参加していた。

    報道によれば、今回の共同方針では、2020年1月1日時点でEU単一市場に参加していた欧州のパートナー国について、自動車分野の欧州製品優遇制度に含める可能性が示された。

    この条件には英国が該当する。

    また、ノルウェー、アイスランド、スイスなど、EUと緊密な経済関係を持つ国も対象候補として報じられている。

    英国の自動車産業にとって、これは重要な変化である。

    英国には日産、トヨタ、ジャガー・ランドローバー、BMWなどの生産拠点があり、EU市場とのサプライチェーン上の結び付きも強い。

    仮に英国製自動車が欧州製品として優遇されれば、EU向け事業における英国生産拠点の位置付けを維持しやすくなる。

    ただし、英国が無条件で対象に含まれるわけではない。

    EU側は、相互的な市場アクセスや通商政策との整合性、第三国による制度の迂回利用を防ぐ仕組みなどを重視している。

    英国がどのような条件で参加できるかは、今後の交渉によって決まる。

    英国の中国車政策が新たな交渉材料に

    英国を欧州製品優遇制度に含める場合、問題となるのが中国製自動車に対する通商政策である。

    EUは中国製BEVに対して反補助金追加関税を導入しているが、英国は同様の追加関税を採用していない。

    このため、英国がEUの産業優遇制度に参加する場合、第三国からの輸入品が英国を経由して優遇対象となることを防ぐ必要がある。

    フランス側は、英国を対象に含める条件として、EUの通商防衛措置との整合性を重視していると報じられている。

    ここで重要なのは、英国が中国製BEVへの追加関税を導入することが正式に決まったわけではないという点である。

    英国政府は独自の通商政策を維持しており、EUの制度にどの程度合わせるかは今後の交渉課題となる。

    それでも、欧州製品としての優遇を受けることと、中国製品に対する通商防衛措置への対応が、同じ交渉の中で扱われる可能性が生まれた。

    これは英国の自動車メーカーだけでなく、英国を欧州市場への生産・販売拠点として利用する企業にとっても重要である。

    トヨタには英国、トルコ、日本で異なる条件

    欧州製品の優遇範囲をどこまで広げるかは、日系メーカーにも影響する。

    トヨタはEU域内だけでなく、英国、トルコ、日本などから欧州市場へ車両を供給している。

    仮に英国が欧州製品の優遇対象となり、トルコや日本が対象外となれば、同じトヨタの車両でも生産国によって政策上の扱いが変わる可能性がある。

    Reutersによると、トヨタの欧州法人は、英国に加え、トルコ、日本、韓国、カナダなどの信頼できる貿易相手国も対象に含めるべきだと主張している。

    トヨタにとって重要なのは、欧州域内の生産拠点だけではなく、既存の国際的な生産・供給網を維持できるかという問題である。

    また、トルコはEUとの関税同盟を持つものの、EU加盟国ではない。

    関税同盟の存在と、EUの産業優遇制度で欧州製品として認定されることは同じではない。

    今後、対象国の範囲や原産地の算定方法がどのように定められるかによって、メーカーごとの影響は大きく変わる可能性がある。

    この記事はnoteマネーにピックアップされました

    noteマネーのバナー
     
     
    急速に進む中国のCASE(Connected&Cabin,Autonomous,Shared&Service,Electric)やAIについての最新情報。2018年から1日1本以上のレポート配信。毎朝8:00日刊中国モビリティレポートと適時号外レポート

    あなたへのおすすめ